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この世にひとつのFD3Sエボリューションモデル
自然吸気の20B型3ローターで400馬力!
クルマ好きなら一度は憧れるであろうガレージライフ。大好きなクルマやバイクを自宅の屋根付き車庫に保管し、いつでも好きな時にいじったり、鑑賞したり、カスタムの構想を練ったり…。すぐ傍らにクルマがある生活を気まま楽しむことは、まさに男のロマンである。
アメリカのペンシルベニア州在住のゴードン・モンセンは、そんな誰もが憧れる生活を実際に謳歌している人物だ。ニューヨークのウォール街で財を成し、現在は自然豊かな環境で家族とゆったりとしたライフスタイルを楽しむ。
クルマ5台分の間口を備えたガレージには、ビンテージのフェラーリやBMW、数々のオートバイが収容され、広い中庭にレールを敷いて走らせるメタル製の蒸気機関モデルも多数コレクションされている。これこそ大人の遊び場。そう表現したくなる空間に収まる愛車の中で、彼が特に手塩にかけてカスタマイズを施し、強い愛着を持っているのがマツダのFD3S型RX-7だ。
アメリカでもチューニングベースとして人気の高いFD3S。日本と同様、サーキット走行を目的としたハイパワーチューンも定番となっている。ゴードンも一度新車で購入したRX-7をシングルターボのサーキット仕様に仕上げた経験があるが、現在所有しているRX-7は、一転してあまり他に類を見ないコンセプトでカスタマイズされている。
ある時からRX-7をベースに、ポルシェ911のようなGTカーを製作しようと思い立ったゴードン。「911にGT3などの派生モデルがあるように、自分の手でRX-7のエボリューションモデルを作りたい」。そう決意し、RX-7をラグジュアリーなハイエンドスポーツに生まれ変わらせるプロセスに没頭していった。
まず、エンジンは20B型3ローターエンジンをスワップ。911の究極進化形ともいえるGT3が自然吸気であることに倣い、あえて3ローターエンジンも自然吸気にすることを選択した。
独立スロットルは、50φのEFIハードウェア製。コアサポート上部のパネルは、エンジンルーム形状に合わせてあつらえた一点物だ。ハウジングは13B型でサイドポート拡大加工を行い、吸気量を上げるスキャロップドという面取り加工も実施。ローターはFC3Sの北米後期仕様に設定されていた自然吸気用で、圧縮比は9.7:1と高い。制御にはモーテックM84を使用し、最高出力は401psを発揮させている。
エクステリアも大人の仕上がりだ。ベースとなったグレードは北米仕様に設定されていた「R1」。純正でエアロパッケージを備えていたが、不要と判断したパーツやエンブレムは取り外し、FD3Sならではのボディラインを強調。フロントグリルとリヤエプロンのアルミプレートは、職人がイングリッシュホイールを使って製作した逸品。
オーナーのゴードンは「60年代のイタリア車のように手作業で作った外装品を加えることに拘った。低い位置にあるから気づかれにくいけれど、自分が分かっていればそれで満足(笑)」と語る。
綺麗なツライチに合わせられたホイールは、18インチのHRE303MM(9.0J)。カラーは落ち着きのあるグレーを採用した。タイヤはトーヨーのプロクセスR888(255/35-18)が組み合わせられる。
車高調は伸び側と縮み側を独立調整できるオーリンズのDFVロード&トラックを装備。車高はもっと下げようと思えば下げられそうだが、敢えてそうしないのも大人らしい判断だ。スピリットR純正の大径ブレーキも装着されている。
インテリアは、メーターナセルやセンターコンソールの純正パネルに銅メッキを施した上、それを惜しげもなくブラックの結晶塗装でペイント。銅メッキしてあることは見た目で判別できないが、「プラスチックの質感やグレア、走行中の音と振動を解消することが目的だから、それでOK(笑)」と、ゴードンは言う。
余談だが、銅メッキを施したのはアカデミー賞のオスカー像を手がける職人で、実はオスカー像もプラスチックの金メッキ製なのだとか…。
さらに、スピリットR用のカーボンバケットシートやダッシュボード、ルーフライニングはSpinneybeckという高級レザー素材で張り替え、カーペットには高級ウールを採用。ナカミチのヘッドユニットや車内のデッドニングなど音響も徹底追及し、ため息ものの贅沢空間を生み出した。
まるで最初からそうだったように感じさせるほど、RX-7が自然な装いを見せるのは、ゴードンのオリジナリティとセンス、そして必ずやり遂げるというパッションがあってこそ。美しきGTへと生まれ変わったRX-7は、SNSやフォーラムなどを通じ、全米のRX-7マニアにとって羨望の的となっている。
Photo:Akio HIRANO TEXT:Hideo KOBAYASHI