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1.3LのNAで100psの名機4E-FEを搭載!
CMソング『パヤパヤ』を覚えている?
2代目FFスターレットとなるEP82は1989年12月に登場。先代EP71のモデル末期(1988年8月)に追加されたキャンバストップ仕様が、引き続きEP82にも用意されていた。
前期型では、1.3L直4DOHCでEFI採用の4E-FE(100ps)を搭載するキャンバストップSiと、電子制御キャブ仕様4E-F(82ps)を載せるキャンバストップの2モデルを用意。組み合わされるミッションは、前者が5速MTまたは4速AT、後者が4速MTまたは3速ATと差別化が図られていた。
その後、1992年1月のマイナーチェンジで中期型に移行。1.3LガソリンエンジンがEFI仕様の4E-FEに一本化されたことでキャンバストップはシングルグレード構成となり、1994年5月に行われた2度目のマイチェンを機に生産が終了した。つまり、後期型にはキャンバストップが存在しないというわけだ。
ボア径φ74.0、ストローク量77.4mmのロングストローク型となる“ハイメカツインカム”の4E。キャブ仕様とEFI仕様が存在し、スターレットではEP82~91に搭載されたが、EP82のEFI仕様4E-FEがシリーズ中、最もパワーを出していた。
それにしても、80年代半ばから90年代前半にかけて、国産車にはキャンバストップ仕様が沢山あった。トヨタはスターレット以外にターセル/コルサ/カローラII、日産はマーチにBe-1にパオにエスカルゴ、スバルはレックス、ダイハツはミラRV4、マツダに至ってはフェスティバ、レビュー、キャロルに加え、カペラCGキャンバストップという100台限定の超変態モデルまで用意するほど気合が入っていた。
それに比べると、「スターレットキャンバストップSiなんてヌルイ!」などと鼻息を荒くするマニアがいるかもしれない。が、その一方で今になって探してもなかなか出てこない現実があるわけで、メジャー車種のマニアグレードということで取り上げる次第だ。
取材車両は、前期型キャンバストップSiの5速MT。オーナーは以前、ターボモデルの後期型GTに乗っていた生粋のEP82マニアで、「22歳(取材時)にして、すでに大きく道を踏み誤っているのでは?」と心配になったが、そこはあえて黙っておいた。それはともかくこのキャンバストップSi、ワンメイクレース仕様のTRD車高調が入ってかなり車高が落ちているが、後はほぼノーマル。まず確認しなければならないのは、言うまでもなく電動キャンバストップだ。
オーナーにスイッチを操作してもらい、全閉←→全開する一連の動作をじっくり観賞する。電動キャンバストップの操作スイッチはルームランプに併設。シーソー式スイッチで開ける時はワンアクション、閉める時は安全性確保のため、ロックボタンを押しながらの2アクションになる。
流れるような動きでパタパタ…と織り込まれながら開いていくキャンバストップは美しいの一言。全開にすると、リヤクォーターウインドウの真ん中くらいまでガバッと開くため、開放感も相当なものだろう。また、ルーフ前端に設けられたフェアリングのおかげで、サイドウインドウを閉めておけば車内への風の巻き込みはほとんどない。
標準車との違いのひとつが運転席側のサンバイザー。そこには「100km/h以下で開閉操作しろ」とか、「自動洗車機や高圧洗車機を使うな」とか、“キャンバストップ使用上のご注意”が書かれている。ちなみに、このキャンバストップ用サンバイザーはすでに新品が出ないらしい。
インテリアを見ていこう。そもそもスターレットは実用コンパクトカーなので、ダッシュボードも機能性や使いやすさを優先したデザインとなる。Si標準の3本スポークステアリングは太めのグリップがスポーティで操作性も良い。
スピード&タコメーターは180km/h、8000rpmフルスケールで右側に水温計、左側に燃料系が配置される。
純正オプションの中でもレアアイテムとされるインパネトレイ。ネットオークションで出物があっても2万円は下らないという。左から小物入れ、ポップアップ式バニティミラー、ドリンクホルダーだが、オーナーいわく「ドリンクホルダーは昔の250mlロング缶サイズ。500mlのペットボトルを置けないんで意外と使えないんですよ(笑)」とのこと。
シートやドアトリムなどの生地はキャンバストップ専用品。前席の左ショルダーサポートには“CANVAS TOP”の赤いロゴが刺繍で入るなど凝った作りだ。
サイドブレーキ後方にはこれまた当時の純正オプション、アームレスト兼用コンソールボックスを装備。程度が悪かったため、フタ部分の生地をオーナー自らが張り替えて使っている。
これら純正オプション品は出物が少ないため、程度があまり良くない中古品でも新品を大きく上回るかなり強気な価格設定。それを落札して、少しでも見栄えが良くなるように手直しして使うなど、陰には涙ぐましい努力があったりするのだ。
後席は前後、天地方向ともに大人2名分のスペースを確保。シートベルトは前中期型が2点式、後期型で3点式(中央は2点式)となる。リヤスピーカーは当時物のカロッツェリアTS-X25をオーバーホールして使用。背後のパネルがイグニッションオンで青緑に灯り、ブレーキ操作に連動して赤く光る、懐かしのアレだ。
全長3.7mのコンパクトカーとしては十分に実用的なラゲッジ容量を誇る。後席の背もたれは6:4分割可倒式で、ワンタッチで荷室の拡大が可能。
中古車で買った時、すでに装着されていたという純正オプションのコーナーポール。常に出っぱなしかと思いきや、電動格納式だと言うから驚かされた。
標準は13インチの鉄ホイールだが、純正オプションで14インチのアルミホイールが数種類用意されていた。そのうちのひとつがコレ。タイヤは175/60R14サイズのDNAエコスES300が装着される。
ちなみに、キャンバストップSiは前軸重510kg+後軸重290kg=車重ジャスト800kg。思いのほか軽く、「屋根開きモデルなのによくそれで抑えた!!」と感心せずにはいられない。運転席に収まってまず実感するのは、手に持て余さないボディサイズということ。800kgの車重もあって、走りは軽快の一言だ。
エンジンは6000rpmオーバーまでパワー感を伴って軽く吹け上がるし、切った分だけグイグイと鼻先をインに向かわせるハンドリングもそう。多少ヒョコヒョコした動きは見せるが、ストローク感がしっかりあって乗り心地も確保されているTRD車高調の味付けに感心だ。ドライバーの操作に対してタイムラグがなく、リニアに挙動を示すクルマというのは、もうそれだけで楽しい。
1.0~1.3Lクラスでも過給機付きが幅を効かせていた90年代初め。NAにして、それらに匹敵する速さと楽しさを兼ね備え、その上オープンエアまでモノにしてしまったキャンバストップSiは、今後まず出てくることは考えられない崇高なレア車だと思う。
■SPECIFICATIONS
車両型式:EP82
全長×全幅×全高:3720×1600×1430mm
ホイールベース:2300mm
トレッド(F/R):1390/1370mm
車両重量:800kg
エンジン型式:4E-FE
エンジン形式:直4DOHC
ボア×ストローク:φ74.0×77.4mm
排気量:1331cc 圧縮比:9.6:1
最高出力:100ps/6000rpm
最大トルク:11.8kgm/5200rpm
トランスミッション:5速MT
サスペンション形式(F/R):ストラット/トーションビーム
ブレーキ(F/R):ベンチレーテッドディスク/ドラム
タイヤサイズ(FR):165/70R13
TEXT&PHOTO:廣嶋健太郎(Kentaro HIROSHIMA)