目次
ここまでブッ飛んだセブンは前代未聞だ!
虚空を切り裂く1187馬力の4ローターサウンド
華やかなラスベガスの街からクルマを走らせること30分。待ち合わせ場所の荒野に現れたのは、見る者によって好き嫌いがはっきり分かれそうな真紅のFD3S型RX-7だった。
オーナーのトッド・バディはトレーラーから愛車を降ろすと、我々への挨拶代わりとばかりに4ローターツインターボに火を入れ、乾いた空にロータリーサウンドを轟かせた。1187頭分の馬と同等の運動エネルギーが耳をつんざくビートに生まれ変わり、五臓六腑を震わせる。
これまで100以上のクルマを所有したり製作してきたりしたトッドにとって、ロータリーは常に最重要案件。SEMAショーのコンペティションであるバトル・オブ・ビルダーズに出場するに当たり、「注目されるためには何か完全に飛び抜けたものを作らなければならない」と考えたのだそうだ。
まず、インスピレーションを受けたのはマツダ787B。あの排圧と爆裂サウンドを再現したいという情熱が、トッドを4ローターへと走らせた。さらにモアパワーと「完全に飛び抜けた」個性を求めた結果、ツインターボ化に踏み切ったのである。
心臓部に与えたのは、オーストラリアにある“ビレット・ロータリー・ストア”で組まれた26B・4ローターエンジン。これは、CNCによる誤差のないペリフェラルポート加工が施されたレーシングスペックで、サイドハウジングはビレット削り出しとなる。オイル供給システムはドライサンプがデフォルトだ。
JMファブリケーション製のビレットアルミインテークには2600ccのインジェクターが備わり、燃料にはE85を使用。ハルテックのネクサスR5で制御し、最高出力は1187hp(1203ps)、最大トルクは約107.7kgmという途方もない性能を誇る。
エキマニは4本からまず1本に集合され、その後2本に分岐してエンジンルーム前方にある2機のタービンへと伸びていく。言い換えると4-1-2集合という極めて稀な作りであり、かつそれを等長にするため排気ポートに近い側をうねらせるなど、見えないところに職人魂が隠されている。
そして、トランスミッションはランボルギーニ・ガヤルドに搭載される6速のトランスアクスルを流用。さらに、寸法を合わせたアルミ製のトルクチューブとカーボン製のプロペラシャフト、アウディR8のフロントデフも備え、駆動力を前後に配分する4WDシステムを実現している。
サスペンションにはC7コルベットの部品を多数流用し、TracTiveというアフターメーカーのセミアクティブ式コイルオーバーを装着。DSCスポーツのサスペンションコントローラーが路面からの入力に応じた減衰力可変制御を実現する。
「日本とアメリカとヨーロッパのマッスルカーを合体させたイメージさ(笑)」とトッドは説明するが、型にハマらない発想と、それを具現化する技は大したものだ。
ホイールは、アメリカのVOSSEN(ヴォッセ)がデザインし、日本のWORKが生産を担う形で誕生したコラボレーション2ピースモデル“VWS-1”の19インチを装着。マットブラックのディスクとポリッシュド・アノダイズド・リムを溶接で結合してある。
タイヤはフロントが265、リヤが345のプロクセスR888Rをセット。ホイールハブをC7コルベットのZ06から流用し、ウィルウッドがC7用に設定しているビッグブレーキも装着。フロント6ポットと381mmローター、リヤ4ポットと362mmローターの組み合わせだ。
エクステリアには、トッドが自らシートメタルを曲げて成形した一点物のワイドフェンダーを装着。RX-3のフロント周りも実車から切り出し、RX-7のボディに溶接したものだ。当然、ボンネットもそれに合わせてメタルワークで作られたワンオフ品である。ヘッドライトとテールランプはLEDに置き換えられ、カーボン製のフェンダーミラーも取り付けられるなど、いつ誰が見てもトッドの作品だと分かる個性を漲らせる。
メータークラスターやセンターコンソール、ドアトリムにカーボンパネルを採用。ワンオフのロールケージやバケットシートともにレーシーな雰囲気を演出。ガヤルドのシフトセレクターは電子制御のスイッチ式のため、Hパターンのシフトゲートが備わるアウディR8のシフターも流用した。メーターはAEMのデジタルダッシュだ。
トッドにとってRX-3は日本グランプリでの活躍など、マツダ伝統のレースカーという印象が強く、これもまた「マッスル」なイメージの表現なのだ。ちなみに、現在製作している別のクルマにもRX-3フェイスを採用する予定で、それが彼の経営するF3モータースポーツのシグネチャーとなりつつある。
「このFDをきっかけに多くの人と出会い、一生の仲間もできた。SNSにはヘイターも沢山いるけど、それすら俺を楽しませてくれる存在だね(笑)」。一大事をやり遂げた男の顔には、余裕の笑みがこぼれていた。
Photo:Akio HIRANO Text:Hideo KOBAYASHI