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開発はオーテックジャパン、販売はニスモが担当!
下スカスカ、上ドッカン! 笑ってしまうエンジン特性
1987年9月に登場した8代目U12型ブルーバード。もっともスポーティなモデルは、CA18DET(175ps/23.0kgm)にアテーサ4WDを組み合わせたSSSアテーサリミテッドだったが、それをオーテックジャパンが手直しして競技ベース車両に仕立てあげ、ニスモで受注と販売を行ったのがSSS-Rだ。
2代目410系から続くブルーバード伝統のスポーティグレード、SSS(スーパースポーツセダンの略)に、ダメ押しのごとく“R=ラリー(おそらく)”が付いているのだから、マニアはそのネーミングだけで興奮するはずだ。
そんなSSS-Rに搭載されるエンジンは、まずピストンをコスワース製鍛造品に交換して強度&耐久性アップを図りながら、圧縮比を8.5から8.0にダウン。専用ステンEXマニを介して装着されるタービンは型式こそベースと同じギャレットT25だが、A/Rを0.64から0.89に拡大した専用品だ。さらに、バルタイの見直しや最大ブースト圧の変更(0.82キロ→0.94キロ)が行われた結果、パワーはベース比+10psの185ps、トルクは+1.5キロの24.5キロへと向上し、その発生回転数も4000rpmから4400rpmへと高回転志向になっている。
こうなると、確かにCA18DETではあるが、中身はまるで別物。そのため、SSS-Rの搭載エンジンにはCA18DET-Rというスペシャルな型式が与えられているのだ。後期型はSR20DETを搭載し、パワーもトルクも向上したが(205ps/28.0kgm)、レア度は言うまでもなく前期型の方が遥かに上だ。
上置きインタークーラーとボンネットに設けられたエアインテークダクト。レイアウトに苦労したのだろうか、インタークーラーとカムカバーのクリアランスはほぼないに等しい。奥に見えるストラットタワーバーはニスモ製で、これもSSS-Rには標準装備。
また、冷却性能が厳しいと判断されたからか、ラジエター電動ファンはツインで装着される。
センターコンソールのサイドブレーキ脇には電動ファンを強制的に作動させる2段切り替え式スイッチが装備される。その上はターボタイマーのスイッチ。アフターアイドリング時間は1分または3分が選べる。年式によっては、ここにフォグランプスイッチがあるという話も。
そんな本気なエンジンに組み合わされるミッションは、1~4速がクロスした5速MT。ベース車の3速(ギヤ比1.272)がSSS-Rでは4速になることから、全体的にかなりローギヤードなことが分かる。その分、ファイナル比を4.471から4.167に高めて、オーバーオールでギヤ比の帳尻を合わせている。シフトアップ時のエンジン回転落ちを最小限に抑えながら、各ギヤでの車速もできるだけ伸ばしたいというのがその狙いだろう。
外装は、白いボディに樹脂色そのままの黒いドアミラーやドアノブ。色気や飾りっ気がまるでないところにきて、バンパー上部をえぐって大型フォグランプが装備され、極めて実戦的なマッドフラップも備わるなど、SSS-Rの見た目はまさに競技ベース車両の王道をゆくものだ。
それと、ヘッドライト外側のブラックスモーク処理されたレンズ部にも注目。これはコーナリングランプが省略されているからで、U12シリーズではSSS-Rと最廉価グレード1600LEだけに見られる外観上の特徴と言える。
続いて内装。インパネ周りはベース車と大きく変わらないが、ニスモ製3本ステアリングハンドルがSSS-R専用装備となる。メーターはスピードメーターを中心として、右側に7000rpmからイエローゾーン、7500rpmからレッドゾーンとなるタコメーターが、左側に水温/油圧/燃料計が並ぶ。
本来SSS-Rはエアコン&オーディオレスだが、取材車両はオートエアコンにオーディオ+ナビを装備。これで普通に街乗りもできる。
標準装着シートは下位グレードのXEやSE、LEと同一。さすが競技ベース車両だけのことはある。もっとも、この手のクルマは競技に使う使わないに関わらず、ホールド性に優れたバケットシートに交換されるため、これで良いのだろう。
新車販売時のSSS-Rは乗車定員2名が基本。希望すれば、取材車両のようにリヤシート付きも選べたが、座面の両端が大きく盛り上がっているという特殊な形状をしているため、乗車定員は5名ではなく4名だったりする。
そうやって走りに関係ないところでは可能な限りコストを削減。その一方で、後席の居住性を著しく悪化させることなく、メインアーチとリヤバーで構成される4点式ロールバーを標準装備するなど、必要なところにはきっちりとお金をかけているのが素晴らしい。
そして試乗タイム。走り出してまず感じたのは、3000rpm以下のトルクが思いのほか頼りないということ。上り坂で3速2500rpmから加速しようと思っても、前に出てくれない…。仕方なく2速にダウン。アクセルペダルを踏み込んでいくと3500rpm手前からようやくトルクが盛り上がってきて、4000rpmから上でパワーが解き放たれる。よく言えばメリハリのある、悪く言えば扱いにくい、時代遅れな特性のターボエンジンだが、今となってはそれが新鮮だし、個人的にも嫌いではない。
パワーバンドに入ってしまえば、クロスレシオのミッションもあって良い加速をしてくれる。車重はベース比マイナス50kgの1230kgとZN6型86と同じくらいだから、今のレベルで見たらテンハチターボの4WDとしては軽量な部類に入るはずだ。
がしかし、ステアリングを切った瞬間に分かるフロントヘビー感。アンダーステア傾向で確かに安定はしているが、決して軽快ではない…。車検証を確認すると前軸重760kgに対して後軸重470kg。前後重量配分は62対38と、やはりかなり前寄りだ。もっとも、振り回して走るダート競技ではあまり関係なかったのかもしれない…。
想像よりもスパルタンだったSSS-R。「あの頃の日産は本当に熱かったな…」と、つくづく思った次第だ。
■SPECIFICATIONS
車両型式:RNU12改
全長×全幅×全高:4520×1690×1395mm
ホイールベース:2550mm
トレッド(F/R):1460/1440mm
車両重量:1230kg
エンジン型式:CA18DET-R
エンジン形式:直4DOHC+ターボ
ボア×ストローク:φ83.0×83.6mm
排気量:1809cc 圧縮比:8.0:1
最高出力:185ps/6400rpm
最大トルク:24.5kgm/4400rpm
トランスミッション:5速MT
サスペンション形式(F/R):ストラット/パラレルリンクストラット
ブレーキ(F/R):ベンチレーテッドディスク/ディスク
タイヤサイズ(F/R):185/70R14
TEXT&PHOTO:廣嶋健太郎(Kentaro HIROSHIMA)