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フロントダブルウィッシュボーン式サス、ラック&ピニオン式ステアリングを採用!
旧車だけにトラブルはつきもの。過去にエンジンを落としかけたことも…!?
“だるま”の愛称で多くの人に親しまれたのが、1967年にデビューしたこのLC10型スズキフロンテ360。1963年の第1回日本グランプリレース軽自動車部門で優勝したスズライトフロンテFEAの後継として、スズキが総力を挙げて開発したモデルだ。
それまでのスズライトシリーズがFFレイアウトだったのに対し、LC10では空冷2サイクル3気筒3キャブエンジンをリヤに搭載するRRレイアウトに変更。フロントサスペンションにはダブルウィッシュボーン形式、ラック&ピニオン方式のステアリングなど、クラスを超えるハイスペックを備えていたのだ。
エンジンは、最高出力25ps/5000rpmで最高速度110km/hを誇るもの。燃焼オイルを直接クランクに入れるため、高回転に強いのが特徴だ。同年発売のホンダN360に対抗すべく追加されたスポーツモデルのSSでは、最高出力が36psとなっている。
丸みを帯びたボディは“コークボトルライン”と呼ばれるもので、ファミリーユースの4名乗車にも対応する広い室内を確保。ちなみに、車名はスズライト時代のフロントエンジン・フロントドライブが由来と思いきや、“業界の先駆者”という意味を込めて、英語の“FRONTIER(フロンティア)”から取った造語らしい。
今回、快く取材に応じてくれたオーナーのLC10は1968年式のスーパーデラックス。ネットを通じて知り合った愛媛県の前オーナーから、車検ありの不動車を譲り受けたものだ。
実はこのオーナー、このLC10フロンテ360の他に、三菱500やマツダR360クーペ、スバル360(2台)も所有。かつて乗っていた(BMC)ミニが壊れたのを機にサブロクの世界に迷い込み!? 今では360以外のクルマは持っていないという真性サブロクマニアだ。
RRレイアウトとなって実現した広いフロアで居住性は上々。2本スポークデザインのステアリングは、ナルディをイメージさせる。
メーターは速度計と燃料系のみというシンプルなもので、2サイクルオイル残量警告灯を装備している。
スーパーデラックスならではの高級装備が、テンオンキョー(後の富士通テン)製のラジオとシガライター(CLマーク)だった。
運転席はヘッドレスト一体型のハイバックタイプ、助手席はローバックタイプとなる。レッド×ブラックのシート表皮やドアトリムは前オーナーが張り替えたものだ。
ワイパー前にある開閉可能なハッチは室内への外気導入口。フロントフード内には燃料タンクとスペアタイヤが収められている。
右リヤフェンダーの開口部は、エアクリーナーに繋がるエアインテーク。空冷エンジンの冷却用に、エンジンフードやバンパー下のカバーには多数のエアダクトが設けられている。
さて、オーナーを助手席に伴ってちょい乗りで現代における実力のほどを拝見。前述の通り室内の広さは大人2人でも窮屈感はさほどなく、セルダイナモによりあっけなくエンジンに火が入った。アイドリングのサウンドは「デンデンデン……」と野太い感じだ。
驚いたのは、意外なほど低速トルクがあったこと。エンジンが唸るほど回さなくても十分に周りのクルマの流れに乗れるので、なるほどこれならオーナーが通勤にも使っているというのが納得できる。
ただし最大の問題点は、やはりトラブル。かつてイベントで遠征時にはエンジンマウント切れでエンジンを落としかけたというし、その他にもなんだかんだで、この1年で6回ほどロードサービスの世話になったという。そんな状況すら楽しめる強い心が、サブロク乗りには必要…なのかもしれない。
TEXT:川崎英俊(Hidetoshi KAWASAKI)/PHOTO:廣嶋健太郎(Kentaro HIROSHIMA)