「大阪湾岸に取り憑かれた男たちの物語」伝説の最高速チームを追って・・・

湾岸最速チームの残像【since 2009】

“SELECT RACING TEAM”の全て

他の追随を許さない圧倒的な速さと独創のマシンメイク。90年代中盤における大阪湾岸全盛期を駆け抜けた走り屋にとって“彼ら”の存在はあまりに大きく、そして光り輝いて見えたはずだ。

セレクトレーシングチーム。関西屈指の実力派チューニングショップ“オートセレクト”に出入りしつつ、“セントラルサーキット1分30秒以内”という暗黙の条件を満たした強者たちの集合体、言わずと知れた伝説的な湾岸最高速チームである。

無論、その速さは過去形などではなく、現在進行形だ。90年代末に突如として訪れた大阪湾岸ステージの“壊滅”と共に、同チームも表舞台から完全にフェイドアウトしたかのように見えたが、彼らは熱い鼓動を停止させてはいなかったのだ。

「今でも元気に踏んでまっせ〜! まっ、最近はチームらしい活動なんてしとらんし、本気で走る奴もめっきり減ったけどなぁ。それにしても取材を受けたのなんて10年ぶりくらいちゃう!?」。セレクトレーシングチームのトップが、満面の笑みでそう語る。

現在、彼らがアタックポイントと定めているのは、5号線の中島本線料金所から4号線の出島ICまでの16km区間だ。

中高速コーナーが連なった完全なるハイスピードテクニカルセクションなのだが、トップランカーたちは4分弱で駆け抜けてしまうというから、心底恐れ入る。何せ、コーナーリング中でも220km/hを下回ることはなく、トップスピードは軽く300km/hオーバー。結果、アベレージスピードは250km/hという信じられない速度域に達しているのだから。

常人にとっては、もはや理解できない数字のオンパレードで、リアリティの欠片すら感じないだろう。当たり前だ。10年来、地上から数十メートル高いこの戦場で、激しい空中戦を繰り広げてきた男たちの“本気”とは、そういうレベルなのである。

夜王のショータイム

“負けず嫌い”達による300km/hオーバーの空中戦

中島本線料金所から、一斉に戦闘機が飛び立つ。

その群れは、中島ストレートを全開で駆け抜け、300km/h近い速度域から、一瞬のアクセルオフをきっかけにノンブレーキで超高速左コーナーへと突入していく。

Sタイヤが悲鳴を上げる。

異次元とも思えるこの速度域では、一瞬の迷い、そしてわずかな判断ミスが命取りになることは言うまでもない。

それでもランナー達は、臆することなく、大阪湾岸に存在するという1本のレコードラインに全てを託して、アクセルを踏み抜く。

俺がイチバン速い”。

ただ、それだけを証明するために。

湾岸最高速仕様の在り方

究極的な1000馬力仕様まで生息する世界

かつての大阪湾岸仕様と言えば『いかに300km/hまでの到達速度を速めるか』が重要視され、それにそぐわぬチューニングはNG、とくにピックアップ面に難がありインターセプトが上にシフトしてしまいがちな、ビッグシングルターボ仕様は敬遠される傾向にあった。

しかし、この夜集まった戦闘機たちの心臓部には、大風量タービンの代名詞であるT88やT51の姿がやたらと目についたのだ。オーバー700psは当たりまえ。それどころか、本気で勝ちを狙うために、GT3037Sを2基がけして1000psまで出力を跳ね上げた、ボンネビルスペックさながらのモンスターRまでいるではないか。

「90年代の全盛期にVプロやVカムなんてなかったやろ。結局、時代と共にチューニング技術が進化して、“不可能が可能になった”って話や。壊れず乗りやすい700ps仕様なんてのも、今では楽に作れるからな」。アタックマシンのメイキングを一手に引き受けている、オートセレクト代表の澤(兄)氏が語る。

続けて「湾岸を本気で走ろうと思ったら、最低でも500psは欲しい。RB26で言うと、GT2530ツインにハイカムを合わせてくらいのスペックがベターや。ちょっと足りないところもあるんやけど、楽しむことはできるからな。まぁ、正直コスト的なことを考えると600ps以上はお勧めできんのやけど、ウチのお客さんたちって、負けず嫌いがやったら多くてな(笑)」。

水銀灯の光を受け、煌々と輝く無数のエンジンルーム。魅せるためではなく、戦うためにパワーチューニングが敢行された“ソレら”からは、周囲を圧する“本物”特有のオーラが溢れ出ていた。

Close-up WANGAN Tuned

スカイラインGT-R【BNR34】

「国産車だろうが輸入車だろうが、どんなクルマにも絶対に負けたぁない。だからチューニングしとるわけや。負けてもうたら意味ないやんか!」と、深夜のストリートに魅せられたオーナーが熱く語る。

“誰よりも速く”。ただそれだけを考え仕様変更をくり返してきたパワーユニットは、OS技研3.0Lキットの導入を軸にフルチューン化。T88-34Dタービンをブースト1.6キロで回し切り、750psという最高出力を手にしている。

トップエンドのギリギリまで伸びていく最高速域での強さはもちろん、大幅な排気量拡大とヘッドに投入したVカムのセッティングの恩恵により、低中速域でも驚異的な加速力を持つというマシンだ。

スカイラインGT-R【BNR34】

GT2530ツイン仕様のBCNR33で大クラッシュを起こして以来、第一線を退いていたが、最近になってこのブーストアップ仕様のBNR34とともに復活したというオーナー。

心臓部は、HKSハイカム(IN/EX264度)+Vプロのタッグで、ブースト1.2キロで550psを発揮するファインチューンスペックとなる。当然、トップで戦うには物足りないパワーではあるものの「ブランク期間のリハビリをかねた仕様です」とのこと。

周りのランナーたちがSタイヤで走る中、“勘”を取り戻すためにあえてグリップ限界の低いラジアルを選択し、ギリギリの走りに磨きをかけているというから、恐れ入る。

スカイラインGT-R【BCNR33】

大阪湾岸歴10年以上という強者が駆るBCNR33。軽量化を徹底重視して、今時珍しい“内装ドンガラ”のスパルタン仕様に仕上げているのは、速さに拘るがゆえ。

また、自身のテクニックが向上するにつれて上がるパワーへの要求に答えるよう、徐々に進化してきたというエンジンは、腰下にトラストのフルカウンタークランクとH断面コンロッド、アペックス鍛造ピストンを組み込んだRB26改2.7L仕様となる。そこにTO4Rタービンをセットして、ブースト圧1.6キロ時に720psを達成。

その実力はサーキットでもいかんなく発揮され、セントラルサーキットでは1分24秒という記録を過去にマークしている。

スカイラインGT-R【BCNR33】

そのキレた走りから、このステージを走る人間で知らない者はいないという有名マシン。300km/hオーバーでも安定する足回り、一般車の予期せぬ動きにも瞬時に対応できるコントロール性やストッピングパワーなど、“大阪湾岸を速く走る”ことだけを徹底追求したマシンメイクになっている。

全回転域で驚異的なパワーを発生させるエンジンは、RB26改3.0LのGT3037Sツインターボ仕様で、もはやRB26パワーチューンの究極系と言っても過言ではないスペックを持つ。常用ブースト1.25キロ、一発狙いで2.05キロまでかければ、出力は1000psの大台を突破するほどだ。(OPTION誌2009年1月号より抜粋)

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