「NAのまま世界初のゼロヨン8秒台をマーク!?」アメリカのホンダチューナーがシビックを徹底メイキング!

キマるまで意地でも続ける夢と情熱のドラッグ・カルテル

世界初のNA・FFで8.964秒を達成した最速シビック!

アメリカ西海岸における日本車のドラッグシーンが、最も過激に火を吹いた90年代。アメリカで初めて開催された輸入車だけの公式ドラッグレースと呼ばれる「バトル・オブ・ザ・インポート」が1990年に創設されると、その後もIDRC(インポート・ドラッグ・レーシング・サーキット)やNHRAのスポーツ・コンパクト・クラスなど、数々のレースカテゴリーが誕生した。

そんな華やかな時代の生き証人こそ、カリフォルニア州シミバレーで「ドラッグ・カルテル・インダストリーズ」を経営するジェレミー・ルックオブスカイである。

ジェレミーが最初にその名をシーンに刻んだのが98年。バトル・オブ・ザ・インポートに出場したCR-Xで、12.24秒(終速109mph=175km/h)という当時のホンダ車最速タイムを叩き出した。FFの限界は13秒台というのが定評だった時代に、NAのCR-Xで11秒台、10秒台と記録を更新していったのである。

そんなジェレミーが2012年に打ち立てた金字塔こそ、NAのK型を搭載したFFシビッククーペで樹立した8.964秒(終速150.53mph=242km/h)。それはFWDの自然吸気4気筒エンジンで、世界で初めて9秒台の壁を打ち破り、8秒台に突入した偉業だった。

ベースは7世代目のシビックで、日本ではEP3型のタイプRが売られていた世代。ジェレミーのシビックはEM1型という北米で展開されていた2ドアのSiクーペである。とはいえ、中身はクロモリ鋼のフルチューブラーフレームに置き換えられており、外観が描かれたボディシェルはフルカーボン製というガチモンだ。

搭載するK型エンジンは、K24ブロックとK20ヘッドを組み合わせ、ブライアントレーシングのクランクシャフトで排気量を2.6Lに拡大。オープンデッキのネガを払拭するため、ノーマルデッキをマシニングで削り落とし、微量の炭素やケイ素を含む鋳造鉄合金であるダクタイル鋳鉄製のスリーブを打ち込んである。圧縮比は15.3:1とめっぽう高い。

フロントバンパーの吸気口から繋がる大型インテークダクト内には、TWMの独立四連スロットルのファンネルと4本のインジェクターを向かい合わせて設置。インジェクターはビレット削り出しのインマニにも備わり、合計8本のツインインジェクション仕様となっている。

MYERSコンペティション製のエキマニはコレクターより後ろがメガホン形状となっているが、これが排気効率の向上に効くのだそう。オリジナルのカムシャフトの他、JEのピストン、SAENZのコンロッド、スーパーテックのバルブ系など、メカパーツも強化されている。ドライサンプを使用しているほか、クーリングには電動ウォーターポンプやFLUIDYMEのラジエターを採用。

燃料はVPのM5というレースフューエルを使用し、モーテックのM800で制御。最高出力は400hp(405ps)/9500rpm、最大トルクは34.5kgm/8000rpmと、動力の絶対値以上に発生回転数に重きを置き、レッドラインは1万200rpmに達する。車重はドライバー込みで約1700ポンド(約771kg)、空車だと約1550ポンド(約703kg)で、ドライバー込みのパワーウェイトレシオは1.90kg/psと驚異的だ。

Belakインダストリーズのドラッグレース用15インチ鍛造ホイールを装着。ミッキートンプソンのドラスリはフロントが太く、リヤが細いFFならではの組み合わせとなっている。エンジンルーム内のチューブラーフレームにストレンジのダンパーをマウントし、アンチロール効果を発揮するフロントスタビライザーもワンオフで構築。左右の前輪を路面に押しつけ、無駄なくトラクションを引き出す工夫が施されている。ブレーキはウィルウッド製で、室内側にマスターシリンダーを備える吊り下げ式のペダルアッセンブリーも装備。

クロモリ鋼とカーボンパネルに囲まれた車内には、KIRKEYのフルバケットシートやモーテックのデジタルダッシュなど、走るのに必要なパーツだけを装備。トランスミッションはPPGの4速ドグを使用しており、K-Tunedのシフターで操作する。ドラッグ・カルテルではPPGのミッションをシーケンシャル操作にコンバートするキットも販売しているが、このマシンはHパターン。リヤサスのコンポーネントを覆い隠すインナーフェンダーもカーボン製。

外装は、ヘッドライトやエンブレムといったパートが全てイラストで描き込まれているカーボン製ボディシェルを採用。自然吸気エンジンにフレッシュエアを取り込む大口径のインテーク入口は、カーボン地にラメを施してある。

空力特性を高めるためリヤタイヤも覆い尽くすカバーを装着するほか、真後ろに向かって伸びるウイングとドラッグシュートも装備。

アメリカ人は猫も杓子もターボ好きで有名だが、ジェレミーはなぜそこまでNAにこだわったのか聞くと、「チャレンジすることが好きだからさ」と答えてくれた。「NAでいかに馬力を上げられるか、いかに車体を軽くできるか。それをやれるだけやってタイムを出したかったんだ。ターボにするなら、その後からでもできるだろ?」

そんな日本人にも通じる負けじ魂と、レースで培ったノウハウを活かし、現在はK型を中心としたパフォーマンスパーツをドラッグ・カルテルからリリースしているジェレミー。日本でKスワップを志向しているあなたも、ぜひカルテルの仲間入りをしてみてはいかがだろうか。

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Photo:Akio HIRANO  Text:Hideo KOBAYASHI

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