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大人しい見た目は世を忍ぶ仮の姿。
22万km以上を走破した現役のストリートマシン!
VTEC採用のホンダB16Aを皮切りに、可変バルタイ機構を持つテンロクエンジンが各メーカーからリリースされた1990年代。それらは4ドアセダンにも搭載され、『ファミリーカーとして日常ユースにも使える本格的スポーツセダン』というニッチなジャンルを生み出した。そこに日産から送り込まれたのが、JB15サニーVZ-Rだった。
国内市場では最後のサニーとなった9代目B15型。1998年に4ドアセダンボディのみが発売され、スポーツグレードとしてVZ-Rが設定された。
エンジンは1.6L直4DOHCでハイ/ロー2段切替え式の可変カム機構NEO VVLを採用したSR16VE。カタログスペックは175ps&16.5kgmとされ、ミッションは5速MTのみという潔さだった。
ちなみに、サニーではルキノ(2ドアクーペ)やルキノハッチバック(3ドア)にもSR16VE搭載のVZ-Rが用意されたけど、どちらも車両型式はB14。つまり、4ドアセダンのVZ-RはサニーならB15、もしくはN15パルサーにしかラインナップされなかった。
ライバルはEG9シビックフェリオSiR(B16A:170ps&16.0kgm)やCM4AミラージュVR/ランサーMR(4G92:175ps&17.0kgm)、AE111カローラセダンGT(4A-G:165ps&16.5kgm)など。同型式のエンジンを載せた各車種の3ドアハッチバックや2ドアクーぺモデルが大々的にテンロク最速の座を争うその陰で、実は“テンロクセダン頂上決戦”も静かに繰り広げられていたのだ。
「購入は2008年なので、もう15~16年になりますね。街乗りはもちろん、年に数回サーキット走行も楽しんでますよ。どこに走りに行っても、ボクが一番の年配者なんですけどね」という取材車両のオーナー。話をしながら60代後半くらいだと思っていたけど、76歳と知って、そのコメントにも納得した。
まず聞きたかったのが、生産台数360台前後、販売台数はカタログモデルとして極めて少ない313台(諸説あり)と言われるサニーVZ-Rを購入するに至った経緯だ。
オーナーが言う。「それまではパルサーセダンX1Rの5速MTに乗っていました。ただ、スポーティさとラグジュアリーさをバランスさせたようなグレードで、正直その走りには不満があったんです。そこで、もっと元気よく走ってくれるセダンはないか、と。日産ディーラーに付き合いの長いメカニックがいたので、できれば日産車で…と思っていたところ、サニーVZ-Rに辿り着いたんです」。
常用8000rpmを許容する鋭い吹け上がりと、回すほどに湧き出てくるようなパワー感。「これこそ自分が求めていたスポーツセダンだ」とオーナーは強く実感しながら、一方でストレスなく街乗りもできる低中速トルク特性を絶賛する。普段は3000rpm以上回すことがないということからも、日常域での扱い易さが想像できる。
また、サニーVZ-Rに乗るようになってからサーキットデビューも果たした。ホームコースは岡山国際で、RH9走行会では鈴鹿にも遠征する。そのため、足回りには車高調をセット。ブレーキパッドも交換して、タイヤはアドバンネオバを履く。エンジンは吸排気系や制御系を含め、現状ノーマルのまま。鈴鹿ではホームストレートのコントロールライン前後でスピードリミッターに当たってしまう。
「もし富士を走る機会ができたら、リミッターカットを含めたECUチューンを考えてます。ストレートが1.4kmもあるので、さすがにスピードリミッターが邪魔になりますからね」。
ウッドとレザーのコンビタイプとなるステアリングホイールやシフトノブは純正品。ホワイトメーターが標準とされ、1万rpmフルスケール、8000rpmからがレッドゾーンとなるタコメーターが高回転型エンジンの搭載を物語る。また、ホールド性の向上を狙って運転席のみレカロセミバケに交換される。
ステアリングコラム上にはデフィーリンクメーターアドバンスZDを装着。複数の車両情報を同時に表示できるけど、「主な目的は水温と油温の確認です」とオーナーは言う。気温が高い時期はサーキット走行で水温、油温共に125℃に達してしまうため、シビアなチェックが欠かせない。
また、助手席のヘッドレストに固定されたカメラはサーキット走行時の動画撮影用。
車高調はこれで4セット目。YZスポーツカーズのサスペンションキットTGをセットする。また、ブレーキは、幅広い温度域で優れた制動性能とコントロール性を両立するプロジェクトμのスポーツパッド、タイプHC+(プラス)で強化済み。
ホイールはRSワタナベF8Fという渋いチョイス。サイズは前後7Jプラス36で、195/55−15サイズのアドバンネオバAD08を組み合わせる。
現在、オドメーターが示す走行距離は22万7000km。オーナーが目指すのは月までと同じ38万kmだが、それまで純正パーツが供給されるのかが目下の心配事。「何とかします」というディーラーマンの言葉に期待を寄せる。ちなみに、水漏れを起こしたラジエターは昨年秋、純正新品に交換。3セット目となるクラッチも、ディーラーで「これが最後の1セットです」という話を聞いて購入を即決し、交換を依頼した。
「ただのファミリーカーとしか思われないところも気に入ってます。VZ-Rと気付かれたのは過去に2回だけですから」と、オーナーは笑うのだった。
●取材協力:ピットロードM 兵庫県姫路市安富町安志912 TEL:0790-66-3359
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