「ラジコン最強ドリフターは実車でも強かった!」激戦のD1GPを戦い抜いた蕎麦切広大Q60インフィニティの全貌

ゼロからスタートしたD1GPで悲願の初優勝を獲得!

4年間の積み重ねが結果を結んだラストイヤー

今でこそD1GPの強豪チームとして馴染み深い“シバタイヤレーシング”だが、デビューイヤーの2020年当時は1台体制だった。Q60インフィニティと蕎麦切広大選手と共に手探りでスタートし、2023年シーズンでついに悲願の初優勝を獲得するに至った。

「それまでのD1ライツで使ってきたR31とRB25改26とは全く勝手が違い、後半戦までは現場で起こる様々な症状のトラブルシュートに追われて、走るのが精一杯。セッティングをする余裕もあまり無かったです。予選通過はできたけど追走になると…。自分が子供の頃から憧れていた選手達と、一緒に走る環境に浮き足立っていたのもありますね」と、2020年にチームとしても初参戦となったD1GPを振り返った蕎麦切選手。

1年目を教訓に、2年目の2021年はシーズンを通じてトラブル無く走り切ることを目標に設定。第7戦奥伊吹では初の単走優勝、シリーズ単走ランク9位という結果を残して有言実行するも、その裏ではQ60のポテンシャルに疑問を持ち始めていた。

「追走でずっと1回戦負けが続いて、“実はインフィニティって今のままだと戦闘力が低いクルマなのでは?”と思うようになりました。まずは車重が1400kgあったから、重くて加速勝負で置いていかれる。1年目と違い、チームに余裕ができて走りの性能にフォーカスできるようになったから、その時点で足りない部分が分かってきたんです」。

そんな中、最終戦でフロントを大破するクラッシュを起こしてしまう。オフシーズン中にフレーム修整を行ったわけだが、同時にQ60の弱点を克服すべく軽量化にも着手。ボディの肉抜きはもちろんのこと、インテリア&エクステリアのカーボンパーツ化や燃料タンクサイズの見直しなど、グラム単位での徹底的なシェイプアップにより、1300kgまで重量を減らすことに成功した。

また、3年目の2022年シーズン開幕へ向けては新レギュレーションのタイヤ規制の影響により、それまでD1GPで履いていたサイルンタイヤではなく、レギュレーションに適合する自社製のシバタイヤR23・TW280を導入しての戦いとなることも大きな変更点となった。

「やれることをしっかり準備して、気持ち的には万全という状態だったのに、その年も最初は追走で1回も勝てなくて…。“あんなにやってるのになんでだろう”と、ショックでした」と、その年の前半戦を振り返る蕎麦切選手。だが、折り返し地点となるエビス西の対戦で起こった出来事が後半戦での逆襲のキッカケとなる。

「第4戦で藤野選手、第5戦で川畑選手が追走1回戦の相手になって、どちらもスタートから置いていかれる、追走でも明らかに向こうのタイヤの方がグリップしているという負け方をしたんです。タイヤもマシンもこのままじゃ勝てない。チームで話し合って、次戦のオートポリスまで1ヵ月半あるから、それまでにやれる限りのことをしようと決めました」。

ここで新規定をクリアしつつもよりグリップ力の高いコンパウンドを採用したTW200の開発生産、フロントのラック位置変更、リヤアームのワイズファブ化、ツインからシングルタービンへの仕様変更等を実施。

本来ならシーズンオフに半年間かけて行なうようなメニューを、ものの見事にラウンド間でこなしてしまったのである。

努力はすぐに実を結んだ。仕様変更直後のオートポリスでいきなりの単走優勝、そして追走では準優勝という成績を2ラウンド連続で収めることとなったのだ。この時点でQ60のドリフト車両としてほぼ理想を完成することができたようで、慌ただしかったシーズン中とは対照的に、翌2023年へは細部の調整のみで開幕戦へ突入した。

そして、後はタイミングの問題だけだと思われたラウンド優勝の機会は、第4戦の筑波で訪れる。この時も2戦連続で単走優勝を成し遂げ、波に乗れている状態での2日目。決勝戦はGR86の日比野選手が相手というシバタイヤのワークス選手同士の対決となり、これを制して初優勝をゲットするのだった。

改めてQ60のスペックを見ていく。搭載されるエンジンは、R35GT-Rに与えられているVR38DETTだ。初期は4.1L+ツインターボ仕様だったが、現在は4.3Lドライサンプ+GT75100BBシングルターボ仕様となっている。推定パワーは1000ps以上、トルク120kgm以上を出力している。

NTTデータザムテクノロジーズの協力によって、EXマニを3D金属プリンタで出力。素材は耐熱性の高い特殊合金インコネルを使用し、理想的なレイアウトと肉薄化による軽量化を果たしている。ラジエターはリヤに移設。

重量バランスを考慮して、ドライサンプ化と共にバルクヘッドに規定内の加工を施し、エンジンマウント位置を限界までダウン。ドライサンプ用のタンクは、助手席側の隔壁内に設けられている。

ベース車両は左ハンドルだが、右ハンドル化に伴いチルトンのオルガンペダルを導入。ミッションはコストと耐久性が優れるオーストラリアのアルビンス製を選んだ。

戦闘力アップのための軽量化は、当初、利便性を考えて使用していた40L安全燃料タンクを20Lにスケールダウンすることにも及び、タンクは助手席後部の隔壁の下にレイアウトされている。

切れ角に重要なフロントの足回りは、Z34メンバーを加工装着した上で、D1グランプリで装着率が高いワイズファブ製のアームキット(Z34用)を加工流用。これは、驚異的なアングルを実現することを目的としたエストニア製のドリフトパーツだ。なお、メンバー移植に合わせてエンジンのオイルパンも逃げ加工が施されている。

メーカーとサスペンションセッティングに対する考えが一致したことが決め手となり、2年ほど前から車高調はJIC製の別タンク式を愛用。リヤを沈み込ませてトラクションを稼ぐ一方、フロントは浮き上がりを遅めにして操舵時の接地感をキープする考えがベースになっているという。フロントが26kg/mmとハイレート気味なのもその理由だ。

大きな仕様変更を行なった2022年シーズン中のタイミングで、リヤ側も調整式アームからワイズファブ製アームキットへ変更。セッティング幅が大幅に広がったことで、蕎麦切選手がRCドリフトで得た経験を最大限に発揮できるようになった。

エクステリアは、片側75mmのワイド幅に合わせたオリジナルデザインのQ60用ボディキットを装着。その他、グリルやヘッドライト、テールランプなどのパーツはカーボンで作り直し、軽量化を推し進めている点も見逃せない。

当初はトラブルに追われるも、勝利に向かって様々な課題を見つけ、それを一つずつクリアしていくにつれ成績も上がっていく。Q60は2024年4月のラウンドゼロ富士で勇退してGR86にその立場を譲ったが、2023年までの4年間に渡って紡がれてきたチームシバタD1GP挑戦の歴史とともに、伝説の滑走マシンとして語り継がれていくに違いない存在だ。

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TEXT:Miro HASEGAWA (長谷川実路) PHOTO:Miro HASEGAWA (長谷川実路) /金子信敏

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