「初代アルトワークスは真の革命児だった!」1万回転までブン回るチビッコギャングを振り返る

レブリミットは1万rpm! 痛快すぎるF5Aターボ

生産期間わずか1年半、スズキ渾身のホットハッチ

そのキレっぷりが軽自動車界に革命を起こしたといっても過言ではない初代アルトワークス。デビューは1987年2月だが、そこに至る“伏線”にはぜひ触れておかなければならない。

スズキはまず1985年9月、SOHCターボのF5A(48ps/6.5kgm)を搭載したアルトターボを投入。さらに、翌1986年7月のマイナーチェンジを機に、軽自動車初となる4バルブDOHC仕様のF5A(42ps/4.2kgm)を載せたアルトツインカム12RSを追加。同時に、ターボはターボSXへと改称された。

つまり、スズキはアルトワークス以前にターボ/ターボSXとツインカム12RSをラインナップしていたわけで、その組み合わせでDOHCターボ搭載のワークスを世に送り出す下地がすでに整っていたと言っていい。

そんな流れから、軽自動車界パワーウォーズの引き金になった初代アルトワークスは4バルブDOHCターボ仕様のF5Aを搭載。窒化処理した鍛造クランクシャフトや強化コンロッドでエンジン本体の耐久性を高め、IHI製RHB31CWタービンをドッキング。最大ブースト圧は0.9キロに設定され、自主規制上限となる64ps/7.3kgmを発揮した。

なお、アルトワークスとしてF5Aを搭載するのは初代のみだったりする。2代目の前期型までは排気量こそ550ccだが、ショートストローク型のF5B(φ65.0×55.0mm/547cc)に切り替わるからだ。また、F型エンジンはシリンダーブロックが鋳鉄製、後のK型はアルミ製。パワーに対する耐久性の高さから、未だにF型エンジンの人気は高い。

グレード展開は、センターデフにビスカス式LSDを採用したフルタイム4WDモデルのRS-R、FFモデルのRS-X、ワークス専用エアロなどを省いたRS-Xの廉価版に位置付けられるRS-Sの3つ。車両型式はRS-RがCC72V、RS-XとRS-SがCA72Vとなる。どのモデルもミッションは5速MTのみの設定だ。

ちなみに、初代アルトワークスは全モデル商用4ナンバー車。当時、年間の自動車税4000円でゼロヨン16秒台、スピードリミッターカットで最高速160km/hオーバーのパフォーマンスが手に入ったのだから、これは衝撃以外の何者でもなかったはずだ。

外装から見ていく。フォグランプ内蔵の大型フロントバンパーやボンネット上のエアインテークダクト、サイドステップにリヤテールエンドスポイラー、リヤバンパーと、見るからに普通ではないエアロパーツがワークス専用。多少ゴテゴテしているが、やりすぎの一歩手前で踏みとどまっているところに、スズキ開発陣の優れたバランス感覚が垣間見える。

ボンネット上に設けられたインタークーラー冷却用エアインテークダクトの後ろ側。こんなところにステッカーが! 運転席から見るドライバーの気分を高めるための演出なのだろうか。

ホイールが貴重な純正アルミ仕様だ。軽さと剛性の両立のため、異形断面リムにディスク部を組み合わせた2ピース構造を採用する。タイヤは標準より1サイズ太い155/65R13のヨコハマA200を装着。

リヤウインドウを取り囲むように装着されるルーフエンドスポイラー。ウイング下面に“TWINCAM TURBO”と逆さ文字が入っているとは知らなかった。それがリヤウインドウに映り込むと正位置で読めるのだ。

給油口はキーで開閉する昔ながらの方法。室内からレバー操作ひとつで開けられるオープナーなど、贅沢な装備は省かれている。

マフラーはデュアルテール仕様。この時代の軽4ナンバー車は触媒レスが基本のため、アイドリング時の排気ガスがやたらと臭かったりする。さらに、排気抵抗になるものが存在しないとなれば、ブーストアップ時のパワー向上幅も当然大きい。

続いて、「側突食らったら、間違いなくアウト…」と思わずにはいられないほど薄いドアを開けて内装に目を移す。グリップが太い4本ステアリングホイールやガングリップタイプのシフトノブなどスポーティな操作系。メータークラスター両端のサテライトスイッチは右側がリヤワイパー&デフォッガー、左側がエアコン(なんとオート!)となる。

取材車両は1987年8月以降の後期型なのでメーターパネルが黒/白、スピードメーターも140km/hフルスケールを採用。前期型は赤パネルで120km/hフルスケールとなる。

シートは、運転席、助手席ともに内側だけショルダーサポートが設けられた左右非対称デザインモデルを採用。また、運転席にはシートリフター機能も備わり、身長などに合わせたドライビングポジションの自由度を高めている。

“RS WORKS”のロゴが入った専用シートベルト。病的とも思えるくらいの拘りが変態的だ。シート背もたれには“FULL TIME 4WD”のロゴも確認できる。

4ナンバー車だけに後席のスペースはミニマムで、背もたれも短く立ち気味。大人が長時間乗るには厳しい。背もたれは一体で倒すことができ、ラゲッジスペースを拡大することが可能だ。

カロッツェリア3ウェイ据え置き型スピーカー装着のため、脱着式パーセルボードを使用。リヤゲートを支えるダンパーは、実は右側にしか設けられてなかったりする。

運転席に腰を降ろす。9500rpmからレッドゾーンが始まり、1万2000rpmまで目盛りが刻まれた、およそ市販車とは思えないタコメーターが目の前に。高回転型ユニットでお馴染み、ホンダF20Cのさらに上を行くのだから、嫌でも気持ちが高まるというものだ。

3000rpmを超えるとメーターパネル中央下の“TURBO”インジケーターが緑色に点灯して、過給が始まったことを知らせてくれる。思いの他、低回転域からターボが効くのだが、それが本領発揮するのは5000rpmを超えてから。タコメーターの針が弾みをつけて上昇し始め、「これで550cc!?」と思うようなターボキックが炸裂する。

何より驚かされたのは、レッドゾーンが始まる9500rpmまでエンジンが一切のよどみなく吹け上がること。「ターボ付きだし、さすがにトップエンド付近はきついでしょ…」という筆者の勝手な想像を見事に打ち砕いてくれた。その切れ味とスムーズさはNAのツインカム12RS相手でも、全く見劣りしないもの。ターボで武装された4バルブDOHC仕様のF5Aは痛快さを含めて、まさに“鬼に金棒”な最強ユニットなのだ。

軽自動車パワーウォーズの火付け役にして、当時考えられる最先端技術がもれなく投入されたリトルウエポン。日本独自のカテゴリーである軽自動車で、ここまで突き詰められた初代アルトワークスは、やはり魅力的だ。

■SPECIFICATIONS
車両型式:CC72V
全長×全幅×全高:3195×1395×1405mm
ホイールベース:2175mm
トレッド(F/R):1230/1200mm
車両重量:650kg
エンジン型式:F5A
エンジン形式:直3DOHC+ターボ
ボア×ストローク:φ62.0×60.0mm
排気量:543cc 圧縮比:8.0:1
最高出力:64ps/7500rpm
最大トルク:7.3kgm/4000rpm
トランスミッション:5速MT
サスペンション形式(F/R):ストラット/3リンク式リジッド
ブレーキ(F/R):ディスク/ドラム
タイヤサイズ:FR145/65R13

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TEXT&PHOTO:廣嶋健太郎(Kentaro HIROSHIMA)
●取材協力:LEE factory 埼玉県児玉郡上里町七本木32-5 TEL:0495-35-0122

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