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同社初の量産V6エンジンはFFから展開!
そこに垣間見えるトヨタの計算高い戦略
1986年8月に登場したFF2代目カムリ。トヨタ初のハイメカツインカム3S-FE(GE搭載モデルもアリ)を載せたことで知られるが、むしろマニアなクルマ好きが注目すべきは翌1987年4月に追加された、2.0L・V6の1VZ-FEを搭載するプロミネントだ。
このモデル、トヨタが初めて市販化した量産V6エンジンなのだが、まず2.0Lのみでスタートしているのが変態。しかも、コロナやマークII辺りの主力モデルでなく、車種としては割と新しめのカムリに載せたのは、試験的な意味も含めておそらく市場の反応を見るためだったのではないかと勝手に想像している。
それと、当時すでにフェアレディZからマキシマまで、車種や駆動方式を問わずVG20/30攻勢を仕掛けていた日産に対して、遅ればせながらV型エンジンを投入し、それも始めはカムリのみでの展開を決めたトヨタには、『FRには直6、FFにはV6』という棲み分けと、もっと根本的な部分で『V6より直6の方が偉い』という考え方もあったのではないかと思う。
1987年と言うとマークIIはGX71の時代で、すでに直6FRセダンとして盤石の地位を築いていた。折しも空前のハイソカーブーム、そこにトヨタは新たな選択肢としてV6FFセダンのカムリV6プロミネントを放ったのだ。
プロミネントのグレード構成は3つ。上から、運転席パワーシートやクルーズコントロール、14インチアルミホイールなど“全部盛り”状態の『プロミネントG』、クルコンやアルミはオプションになるが、AM/FMチューナー付きカセットステレオが標準装備される『プロミネント』、ステアリングのテレスコピック機構が省かれ、オーディオもAM/FMラジオのみの『プロミネントE』というラインナップだ。
取材車両は、1988年8月に実施されたマイチェン後のモデル、その装備から中間グレードということが分かる。
実車を細かく見ていこう。まずスタイリング。フロントマスクやサイドビューにはどことなく80系マークII三兄弟の面影もあり、ハイソカーブームを強く意識していたであろうことがビシビシ伝わってくる。
そんな思いが確信に変わるのは、ドアを開けてインテリアを目にした瞬間だ。今では玉置浩二もビックリなワインレッドの内装色、モケット生地のシート、デジタル式メーターにオートエアピュリファイア(空気清浄器)と、心が一気に80年代に引き戻される。
ダッシュボードは、天地が低く横長なメータークラスターを持つデザイン。2本スポークステアリングのホーンパッドには“Prominent”のロゴが誇らしげに入る。メーターはスピードをデジタルで、エンジン回転数と水温、燃料残量をバーグラフで表示する、いわゆるデジパネを採用。
センターコンソールには上からエアコン吹き出し口、オートエアコン操作スイッチ、2DINの純正AM/FMチューナー付きカセットステレオ、シガーライター&灰皿、引き出し式カップホルダーが並ぶ。ウッドパネルはプロミネントに標準。
ATセレクタレバー後方には、ATモードとオートエアピュリファイアのスイッチが設けられる。
取材車両のミッションはOD付き4速ATだが、5速MTもしっかり用意されていたというのが素晴らしい。
このところ取材するレア車での遭遇率がやたらと高い純正フロアマット。アフター品とは違い、車名ロゴが入っていたりしてマニアの心をくすぐってくれる。
ハイソカーの必需アイテムといったらモケット地のシート。プロミネントにも、もれなく採用されている。
後席はセンターアームレスト付きで60:40での分割可倒が可能。トランクスルー機構と合わせて積載性能アップにひと役買っている。
奥行、深さともに十分なトランクルーム。ヒンジが外側に設けられてるため、スペースを無駄なく使うことができる。
搭載される1VZ-FEは、ボア径φ78.0、ストローク量69.5mmとショートストローク型。最高出力140psを6000rpmで、最大トルク17.7kgmを4600rpmで発生する。これをベースにボア径をφ87.5に拡大し、排気量を2507ccとした2VZ-FEが、カムリV6プロミネントと基本コンポーネンツを同じにする初代レクサスES250のエンジンだ。
同じVZ系でも、以前取材したセプタークーペの3.0L・3VZ-FEに比べると排気量が小さい分、やはり低中速域のトルクが少し心許ない。逆に、吹け上がりは軽快。エンジン回転の上昇に伴ってパワーも追従してくるため、それなりに回して走れば不満はないし、楽しさや気持ち良さも味わえる。
それと意外に思ったのは、V6エンジンを収めている割にボンネットが低いということ。そのおかげで視界が広く開けているし、ボディ前端の感覚も掴みやすいため、結果的に走りやすいのだ。この辺はセダンとして真っ当に設計されてることが感じられる。
振り返ると80年代後半から90年代前半の国産FFV6市場は、少し変わった盛り上がり方をしていたと思う。
マツダが1.8L・V6をやれば、ミツビシは世界最小を謳い1.6LでV6を出してきたし、さらにデボネアは2.0L・V6スーパーチャージャーを、ホンダもレジェンドに2.0L・V6ウイングターボを搭載していた。ベースは普通のセダンなのに、やたらと個性的なモデルが群雄割拠するかなりエキサイティングな時代だったわけだ。その口火を切った1台に数えられるのが、カムリV6プロミネントなのだ。
■SPECIFICATIONS
車両型式:VCV20
全長×全幅×全高:4650×1690×1370mm
ホイールベース:2600mm
トレッド(F/R):1475/1445mm
車両重量:1360kg
エンジン型式:1VZ-FE
エンジン形式:V6DOHC
ボア×ストローク:φ78.0×69.5mm
排気量:1992cc 圧縮比:9.6:1
最高出力:140ps/6000rpm
最大トルク:17.7kgm/4600rpm
トランスミッション:4速AT
サスペンション形式(F/R):ストラット/ストラット
ブレーキ(F/R):ベンチレーテッドディスク/ディスク
タイヤサイズ(F/R):185/70R14
●TEXT&PHOTO:廣嶋健太郎(Kentaro HIROSHIMA)