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サウスカリフォルニアの名匠が集結した、技術の粋に刮目せよ!
ストロークアップした4B11型で671馬力を実現
ラジエターやインタークーラー、各種オイルクーラーなどのクーリングパーツメーカーとして、今アメリカで最もクールな存在が“CSFラジエター”だ。
その代表的な技術が『Bチューブ』と呼ばれるラジエターの内部構造。液体や空気が通過するチューブの断面形状は楕円が一般的だが、CSFでは楕円の中央にブリッジが掛かったような形状を採用している。その断面が“B”の字のように見えることからBチューブと呼ぶわけだが、流体が触れる表面積が拡大するため冷却効果が高まり、チューブの強度も向上。そのため、より過酷な環境で冷却性能と振動に対する耐久性が要求されるサーキットで注目を浴びているのだ。
そんなCSFのパフォーマンスパーツ部門を率いるラヴィ・ドルワニが、ある日、ポルシェ用パーツを共同開発しているGMGレーシングを訪れた時のこと。GTレースのワールドチャレンジで使用されたランエボXが、その役目を終えてガレージの片隅に放置されているのを発見した。
自社製品の性能を実証するデモカーの製作を構想していたラヴィは、その車両を購入。SEMAショーへの出展とグローバル・タイムアタックへの参戦を同時に実現できるランエボXの製作を決意した。
エンジンはGMGレーシングがワールドチャレンジ参戦時に使用した4B11型をベースに、さらなるリファインを敢行。マンレイの94mmストローククランクとJEの高圧縮ピストン、キャリロの強化コンロッドで排気量を2.2Lまでアップ。そこにシーピー・ビルトがワンオフで製作した321ステンレス製等長エキゾーストマニホールドに、WG40ウエストゲート2基とGTX3582Rタービンをマウント。最高出力は671psに達している。
3本のチタンパイプ(ウエストゲート2+エキゾーストマフラー)がボンネットを突き破ってアウトレットされる。マグナス・モータースポーツのインマニにはドライブ・バイ・ワイヤのスロットルボディが備わり、インジェクターを大容量化するなど燃料系も強化している。
冷却系に関しては、CSF製コアをベースとしたタックド・ユニバーサル・ラジエターを商品化しているライワイヤーが担当。クーラントだけでなく、ドライサンプを採用するオイル系統、カーボン製のフューエルタンクを備える燃料系統、そしてSyvecs製ECUから発せられる電気信号などの、すべてを“繋げる”作業を滞りなくフィニッシュさせた。
足回りもフルで手が入る。前後のチューブラーサブフレームとサスペンションアームはAKモータースポーツがワンオフで製作。フロントアーム類は7075アルミ材を削り出して作ったビレットアームだ。ダンパーにはJRZの2ウェイコイルオーバーを組んでいる。
ホイールはアメリカのメーカーであるロティフォームの3ピース鍛造モデルLAS-Rを装着。タイヤはトーヨーのプロクセスR888Rを組み合わせる。ブレーキは前後に4ポットキャリパーを備えるストップテックのトロフィーキットを採用。前後バランスを調節できるウィルウッドのプロポーションバルブも備わる。
エクステリアは3Dアーティストのジョン・シーバルがデザインしたストリートファイターLAのワイドボディキットを装着。セイボンのカーボンボンネットやレキザン製ウインドウで軽量化も図っている。撮影時点でも大きなフロントスプリッターを備えるが、現在はアフターアワーズガレージで製作された、さらに巨大なスプリッターとリヤディフューザーでダウンフォースを強化している。
インテリアメイクも凄まじい。ワールドチャレンジ参戦時のカスタムロールケージはそのままに、一度全バラにされた後、カスタムの内装パネルを追加。スパルコのステアリングやシートはブラックアルカンターラで張り替えられている。
ライワイヤーのカスタムワイヤリングが取り入れられ、HP Electronikのスイッチパッドでエンジンの始動やライト類の点灯操作も可能。メーターとしてAimスポーツ製カラーデジタルダッシュも備わる。
トランクルームにはドライサンプのオイルタンクとブリーザータンクをインストール。各部に執念すら感じさせる徹底した作り込みが実現されている。
そうして完成したランエボXは、2017年のSEWMショーでCSFのブースを飾り、ラヴィの狙い通り会場の話題をかっさらった。その後、レギュレーションに合わせて各部をリメイクし、タイムアタックへの準備が完了。間もなく、ランエボXのさらなる真価が解き放たれるのだ。
PHOTO:Akio HIRANO/TEXT:Hideo KOBAYASHI