「評価されなかった逸材」コルトラリーアートバージョンRの作り込みはランエボ以上だった!

これぞ小さなランエボ!

非常に手の込んだ限定モデルも存在する

某テストコースのダラダラと続く登り勾配区間。エンジンは下からトルクがバンバン立ち上がり、高回転域のパワーも申し分なし。5速100キロからアクセルひと踏みでグイグイと加速し、あっという間にスピードリミッターが作動した。オドメーターが示す距離はたった“7km”という卸したての広報車を誰よりも早く借りた筆者は、その実力をいきなり体感することになった。今からもう15年以上前の話だ。

2006年5月に発売されたコルトラリーアートバージョンR。4G15型MIVECターボは154ps/21.4kgmを誇り、組み合わされるミッションはゲトラグ製5速MTとINVECS-III(6速MTモード付きCVT)の2種類。前年9月にZC31S型スイフトスポーツが登場し、すぐに人気モデルとなったが、新車価格帯がほぼ同じとなれば、どう考えても選ばれるのはバージョンRだろう…と、その時は本気で思っていた。

翌年11月、早くもマイナーチェンジを実施。5速MTモデルの最高出力が163psへと高められ(CVTモデルは154psのまま)、1本あたり約1.5kgもの軽量化を実現したエンケイ製アルミホイールが採用されることになった。その半年前、スイフトスポーツが1→2速のクロスレシオ化やファイナル比のローギヤード化、動弁系の見直しによるレッドゾーン&レブリミットの引き上げを行なったことを受けての改良…だったかどうかは分からないが、発売から1年半しか経っていないクルマにそこまで手を入れるとは、バージョンRに対する三菱の気合が強く感じられた。

さらに2008年4月、通常はスポット溶接されるドア開口部に連続シーム溶接を施し、ボディ剛性を格段に高めた特別仕様車、コルトラリーアートバージョンR“スペシャル”を300台限定で発売。生産ラインからモノコックボディを抽出し、同じ岡崎工場敷地内にある試作車両開発部門に台車で運び込み、職人が2人掛かりで専用溶接機を操って作業を行うという、まさにスペシャルな仕様だ。

ちなみに1台の完成に2~3時間を要し、1日に作業できるのは3~5台という効率の悪さ。そんな内容に加えて、レカロ製セミバケットシートやラリーアート社製スポーツマフラーなどが標準装備されながら、ベースモデルに対してたったの35万円アップという車両価格に、「三菱はちゃんと利益を出せているのだろうか?」 と心配になったのは本当だ。

この連続シーム溶接の効果は凄まじく、標準車に対して縦方向の静的曲げ剛性を10%改善したというのが三菱の言い分。ところが、岡﨑工場内のテストコースで実際に乗り比べてみると全くの別物に生まれ変わっていた。つまり、動的曲げ剛性の向上幅は10%どころの騒ぎではなかったということだ。

スペシャルの方がステアリング操作に対する挙動に一体感があり、ハンドリングもダイレクト。ボディ剛性アップに伴って足回りがよりしっかりストロークするようになったことで、荒れた路面での快適性までもが劇的に向上していることを体感できた。量産車でここまでの仕様を作り上げてしまうとは、ある意味、兄貴分であるランエボを超越したと言っていい。

予定の300台を完売した三菱だったが、スペシャルの再販を望む声がすぐに上がり、2010年1月に第二弾モデルを限定200台で発売。第一弾に対して、用意されたボディ色やシリアルプレートの有無などに違いが見られたが、基本的な装備に変更はなかった。

そんなスペシャルは言うまでもなく、標準車でも1.5~1.6Lクラスの中では圧倒的なパフォーマンスと唯一無二の存在感を放っていたバージョンR。ところが、残念ながらスイフトスポーツに肩を並べる人気モデルにはなり得なかった。2000年代に発覚したリコール隠しが世間一般における三菱というメーカーの印象を悪くし、それがバージョンRの販売業績にも大きな影響を及ぼしたことは想像に難くない。

一部のコアなファンには受け入れられたものの、わずか6年で生産終了。ZC31S以降、3世代が続くスイフトスポーツとはあまりにも対照的だ。それでも国産の歴代ボーイズレーサーを語る時、スイフトスポーツよりも先に車名を上げるべき1台がコルトラリーアートバージョンRだと、筆者は思う。

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PHOTO&TEXT:廣嶋健太郎(Kentaro HIROSHIMA)

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