「ロングホイールベースが大きなアドバンテージ!?」ドリフトシーンの最先端を駆け抜けるGRカローラの全貌

マイルドな操作感とクイックな動きを両立

緩急のボディワークで重量バランスを改善

2020年に新車のA90スープラを持ち込み、昨シーズンまでの4年間に渡ってD1GPの舞台を戦い抜いた松山選手。投入初年度から順調に活躍を重ねると、2023年シーズンは最終戦お台場での優勝によって、シリーズタイトルまで12ポイント差の2位という好成績を収めるまでに至ったのは記憶に新しい。

ところが、そこまでの戦闘力を持つように見えたA90も、最高峰のマシン同士がしのぎを削るD1GPの世界ではあと一歩のところでA90の持つマシン特性に苦労する場面が多かったという。

「ホイールベースが短いことが理由なのか、ドリフト中の角度のコントロールが難しい印象がありました。トラクションが掛かって前に進む場面はとても得意なんですが、ちょっと操作を油断するとすぐに角度が付きすぎたり…。筑波やオートポリスなど、高い速度域で振り返しをするコースはとくに気を使いましたね」とは松山選手。

そんな2023年のシーズン途中、それまでのタイヤサポートだけでなく、2024年からはトーヨータイヤでのワークスチームに加わることが内定し、新体制がスタートするに当たって提案されたのがこのGRカローラだったという。

「僕もそろそろ話題性の高いニューマシンに乗り替えたいという想いがありましたし、スープラと比べてホイールベースが長く、スープラとはまた違った方向で面白いドリフトスペックに仕上がるんじゃないかと、喜んで提案を引き受けました」。

普段の松山選手のSNSをチェックしている方ならご存知かもしれないが、彼は本業のトヨタ自動車で働く傍ら、仕事終わりの時間を使って自身のマシンをチューニングするプライベーターとしての側面も持っている。

その理由を「ドリフトに対してよっぽど自分と価値観が同じ人がメカニックでないと、マシンの仕上がりが思い通りにならないかも知れないじゃないですか」と話す松山選手。

続けて「もし勝てなかった時にそれを言い訳にしたくない。自分がこうしたいと思って作ったマシンなら、自分が悪かったと納得できる。でも、その作業で苦労することになって、結局、自分が苦しむんですけどね(笑)」と本音を語る。

そんなマシンビルダーとしての松山選手が、GRカローラのボディワークやサスペンションセッティングを行うにあたり、注目したのはやはりホイールベースの長さだった。A90と比べて170mm長い2640mmというGRカローラのホイールベースは、ドリフト中のコントロール性が高く、マイルドな乗り味になるだろうと見込んだ。

そこで、フォーミュラDジャパンで同じくクスコレーシングに所属し、1年先にデビューしていたWR王者のカッレ・ロバンペラ選手が駆るGRスープラの動き方も参考に、切れ角の限界域を増やすためにステアリングラックの前置き加工を実施した。

また、4ドアの弱点となる重量対策に関しては、フロント側を重点的に軽量化。さらに、重量物をリヤ側に再レイアウトすることによってフロントヘビーを解消し、50:50に近い前後重量バランスを実現したのだ。

エンジンは2JZ-GTEに乗せ換えられており、HKSのストローカーキットを組んで3.4Lまで排気量アップ。タービンは同じくHKSのGT75100_BBだ。フロントヘビーを解消すべく、ラジエターはもちろん3.0Lを超えるオイルキャッチタンクまでトランク下部へレイアウトしている。

マネージメントには、LINKのフューリーを使用。最高出力は1000ps程度とのことで、比較的中間よりもピークパワーを重視してセッティング。これは、細かいギヤ比のセットアップによりパワーバンドを広く使うのが松山選手の好みだからだそう。

足回りは、クスコレーシングがGRカローラ向けに開発したアングルキットを投入。アッカーマンアングルはスープラの時は大きかったが、GRカローラは揃い気味が好感触だとか。

車高調はHKSハイパーマックスをベースにした特注スペックで、スプリングレートはフロント14kg/mm、リヤ14kg/mmの設定だ。

ドライブトレインは全てリメイクされており、3.4Lの2JZエンジン→サムソナスのシーケンシャルミッション→ワンオフのプロペラシャフト→クイックチェンジデフ→V36ドライブシャフトへと繋がる完全FR駆動のレイアウトを構築。

室内は完全なレーシング仕様だ。ギアボックスはWRカーの定番“サデフ”のシーケンシャルドグを採用。シートは軽量化かつ剛性の高いブリッド製のフルバケットを導入し、慣性マスの集中化を追求すべくシート位置は後方にオフセットさせている。

後部座席には隔壁が設けられ、自動消火システムや燃料機器類を配置する。取材時から奥伊吹の開幕戦までの間にリヤウインドウにエアスクープを新設し、デフ直後の車体下部へ向けて電動ファンによってリヤラジエターを冷却するエアフローを構築していた。

デュアルファイナルズで開催された開幕戦(奥伊吹)では、練習日にエンジンブローという大きなトラブルを乗り越えてベスト8に進出し、翌日のラウンド2でも単走優勝を獲得。続く筑波ラウンドでは、路面状況に悩まされて追走トーナメント進出を逃したものの、GRカローラのポテンシャルの高さは、もはや疑う余地はない。まだまだ熟成段階とはいえ、注目度が高いマシンだけに今後の活躍に期待したいところだ。

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●取材協力:株式会社渡邉 静岡県富士宮市羽鮒2397-15

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株式会社渡邉
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