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E15ETはマニアックカー専用エンジンなのか!?
軽量ボディにターボパワー。動力性能は想像以上だ!
パルサーが2代目へとフルモデルチェンジした1982年4月、リトラクタブルヘッドライトを持つ2ドアクーペの初代EXA(エクサ)が登場。当時のカタログによると、EXAとは“10の18乗=100京(けい)”を表すそうで、天文学や原子物理学などの分野で使われる最大単位のことらしい。てっきりEXiV(コロナ)やED(カリーナ)のように、何かの頭文字かと思っていたのだが、実はそうではなかった…。
そんなEXAに、ターボモデルが追加されたのは1年後の1983年5月。搭載される1.5L直4SOHCターボのE15ETはギャレット・エアリサーチ社製T02タービン(と思われるが、資料不足により詳細不明)が採用され、NAのE15Eを最高出力で20ps、最大トルクで4.5kgm上回る115ps/17.0kgm(いずれもグロス表示)を発揮した。
そこで「E15ETは他にはどんなクルマに載っていたんだ?」と調べてみたところ…衝撃を受けた。なぜなら、サニーターボルプリにローレルスピリットターボ(以上B11系)、さらにEXAターボの兄弟モデルになるパルサーターボ、ラングレーターボ、トドメはリベルタビラターボ(以上N12系)と、もうマニア車のオンパレード! とにかく凄まじすぎる豪華キャストなのだが、結果的に「E15ETはマニア車のために専用設計されたエンジンだった!」と言い切ってしまっていい。
目の前に佇む赤黒2トーンのEXAターボ。リトラクタブルヘッドライトが与えられたシャープなフロントノーズ部と、大胆に切り落とされたCピラー&リヤウインドウとのアンバランスな様子がどうにも違和感をぬぐえないスタイルに思わず鼓動が速くなり、「あ、この瞬間が日産車だね」という名キャッチコピーが脳裏を駆け巡ったことは言うまでもない。
落ち着いてクルマを見ていこう。外装でターボ専用となるのはヘッドライトウォッシャーとホイールキャップ、ボディサイドとトランクリッドに貼られたTURBOステッカー。ちなみに、ホイールキャップはデザインこそNAモデルと同じだが、色使いが異なるという、まさにマニア車好きが喜ぶであろう、微妙な差別化が図られている点が見逃せないポイントだ。
一方の内装は、まずブースト計を持つ水平指針の5連メーターや、サポート性を高めたシートなどが専用品となる。
ここでも前後シートの背もたれやメーターパネルにTURBOのロゴが入り、ターボモデルであることを主張している。その演出は少しくどいレベルなのだが、当時は車格的にも動力性能的にもターボエンジンを搭載していることが偉かったわけで、おそらくメーカー側もそれを積極的にアピールして販売促進に繋げたかったのだろうな、と。
ミッションは5速MTの他、3速ATも用意された。5速MTのギヤ&ファイナルはNAモデルのEXAと共通。以下マニア情報として実はNAモデルにはEXA-Eというグレードが存在し、こっちは1~3速のギヤ比を4速に近付け、ファイナル比も低くしたクロスミッションが搭載されていた。
さらに、EXAターボはリヤディスクブレーキや大型マスターバック、専用チューンドサスの採用、タイヤサイズアップ(165/70-13→175/70-13)なども実施。パワーアップに合わせて各部に手が加えられていたのだ。
と、色々調べていたらEXAターボは後期型でターボVとターボRの2グレードで展開した驚愕の事実(!?)が発覚。情報が少ないもので詳細は不明だが、ターボRにはデジタル式スピードメーター+アナログ式タコメーターという、その名も“ハイブリッドデジタルメーター”が標準装備されていたそうだ。
前期型のガラスルーフは手動脱着式でチルトアップも可能。室内側には直射日光を遮るためのサンシェードも設けられる。これが後期型ターボV/Rでは電動開閉式にバージョンアップする。
さて、いよいよ試乗タイム! 運転席に座ると、1620mmという数字よりもコンパクトに思えるナローな全幅と、広いガラスエリアによってもたらされる開放的なインテリアが印象的だ。
軽めのクラッチペダルを踏み込んで1速をセレクト。半クラッチを確かめながらゆっくり左足をリリースすれば、アイドリング回転でもスルリ…と動き出してくれるのは、わずか880kgという車重によるところが大きいと思う。
2速に入れてグッとアクセルを踏み込んでみる。ヒュイィィィ~ン…というタービンの過給音とともに3500rpm付近から明らかにパワーが盛り上がってくる。最大ブースト圧は0.5キロ弱、パワーにしてもNAに対してプラス20psだから、軽くアシストする程度かと思っていたのだが、いやいや予想外にターボらしさを存分に楽しませてくれるフィーリングだ。
ちなみに、「燃費は一般道で12km/L、高速で14km/Lくらい」とオーナー。それだけ走ってくれれば十分だし、懐に優しいレギュラーガソリン仕様というのも嬉しかったりする。
一つ言うとすれば、取材車両はノンパワステゆえ、車庫入れの時にステアリング操作が結構重い。175幅のタイヤは今時かなり細いが、車重880kgのうち前軸に580kgが載っているかなりのフロントヘビー(前後重量配分は66対34)だから、そこは割り切るしかないかもしれない。
マニア車の極みにして、実に真っ当な動力性能や実用性。EXAターボは素晴らしい!
■SPECIFICATIONS
車両型式:KHN12
全長×全幅×全高:4125×1625×1355mm
ホイールベース:2415mm
トレッド(F/R):1395/1375mm
車両重量:880kg
エンジン型式:E15ET
エンジン形式:直4SOHC+ターボ
ボア×ストローク:φ76.0×82.0mm
排気量:1467cc 圧縮比:8.0:1
最高出力:115ps/5600rpm
最大トルク:17.0kgm/3200rpm
トランスミッション:5速MT
サスペンション形式(F/R):ストラット/トレーリングアーム
ブレーキ:FRディスク
タイヤサイズ:FR175/70R13
PHOTO &TEXT:廣嶋健太郎(Kentaro HIROSHIMA)