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川畑真人46歳、初めてのAE86マイカーデビュー!
1.6L・NA200馬力を活かしきるリヤサスがトラクションアップの鍵
D1GPで3度のシリーズタイトルを経験し、2022年シーズンからはGR86でD1GPへの参戦を続けているTEAM TOYO TIRES DRIFTの川畑真人選手。川畑選手のプライベートマシンといえば、かつてシャコタカドリ車ブームを巻き起こした180SXが有名だが、このたびシェイクダウンしたのはAE86レビンだった。
これまで一切AE86のイメージを持たれていなかった川畑選手がAE86を転がす姿には、鈴木学をはじめとした業界関係者も『一体、川畑に何があったんだ!』と騒然。R35GT-R、A90スープラ、GR86など数々の最新型をドリ車にモディファイした車両を業界で最も早く乗ることを得意とした選手だけに尚更だ。
川畑選手本人も「ハチロクをマイカーとして買ったのはこれが初めてなんですよ!」と楽しそうに語るほどで、その心境の変化はとあるショップを訪れたことで生まれたという。
そのチューニングショップの名は小泉商会。現トヨタ代表取締役の佐藤氏が所有するAE86、レーシングドライバーの谷口信輝選手のAE85など、一般ユーザーのみならず業界からも厚い信頼を置かれる長野県のAE86専門ショップだが、たまたま仕事のついでに小泉商会を訪れる機会があり、ガレージにてメンテナンスされているそれらの著名なAE86を見て、心がときめいたという。
「その晩に小泉社長と一緒に食事している最中、気づいたら『ボクもハチロクが欲しいです!』って言ってましたよ(笑)」と川畑選手。
これまで、若い頃に友人から借りてチョイ乗りした以外には、D1GPアーウィンデール参戦時に現地でレンタルした左ハンドル車両以外にはAE86と全く縁がなかったというだけあって、AE86の知識は素人同然。そこで、あらかじめ川畑選手の拘りポイントを小泉氏にオーダーしつつ、それ以外は社長にお任せで出来上がったのがこの1台ということだった。
そんなオーダーを受け、「あくまで最新・最高を目指したわけじゃないけど、エンジンもやりすぎず、1.6Lの200馬力をドリフトにしっかり使えてみんなと楽しく走れるAE86」に仕上げたという小泉氏。
まず見ていくと、川畑選手の拘りポイントのひとつ目が前期型の2ドアレビンということ。小さなクーペらしい見た目のカッコ良さには当時から憧れがあったようで、ベースにはフルスポット溶接、ロールケージ溶接済みのN2レース仕様のボディが選ばれた。
エクステリアはJブラッドのエアロキットを中心に、ランフリーのフロントフェンダー、そしてオリジンラボのオーバーフェンダーで延長ロアアームによるワイドトレッド化をサポートする。
ホイールはボルクレーシングTE37V 2324MODEL(9.5J-20)で、タイヤにはもちろんトーヨープロクセスR888R(195/50-15)をセレクトする。
エンジンもレトロさを感じさせる当時の定番スワップに拘り、AE92後期ベースが絶対だった。排気量アップを最小限に、オーバーサイズの小泉商会83φピストン、H断面コンロッドを組み、クランクシャフトはAE111純正で腰下をオーバーホール。
カムは東名パワードのIN&EX296度、燃調はFCR41φキャブで点火システムはデスビタイプのMSDを用い、ピークパワーは推定200psだ。
エキマニはパワークラフトの60φ×4-1、GPスポーツのマフラーで排気効率をアップ。これにクスコのフルクロスタイプAのクロスミッションでギアの繋がりを強化。こちらも川畑選手のオーダーとのことだ。
AE86に乗るならもちろんドリフト仕様で!というプロドリフターの拘りで、サスペンションは小泉商会が考えるNA仕様のAE86向けの最新最強ドリフトスペックとなっている。
深い角度でのドリフトを支えるナックルは、オレンジプランニングが製作する中で最も切れ角の大きいタイプRをチョイス。ネガキャン化のためのパイプ形状の延長ロアアームもオレンジプランニング製で、合わせてタイロッドはイケヤフォーミュラで延長する。
パワー200ps、重量880kgを最大限に活かしきるためのトラクションの確保には、リヤダンパーとスプリング選びが重要と小泉氏。フロントはクスコ、リヤは小泉商会のN2仕様ダンパーを使い、低反発のサスペンションプラス製スプリング(F7kg/mm、4kgmm)を合わせ、ゆっくりと沈み込んだリヤ荷重が抜けないようにセットしている。
室内を見るとこちらもボディと同じく真っ黒に塗装。カーボン製のダッシュボードに集中メーターのデフィDSDFをメインに据えてシンプルメイク。
リヤ側のロールケージは、N2仕様のままではボディが硬くなりすぎてトラクション性に影響するということで数本撤去し、あえてねじれを生む方向へ変更している。
じつは、すでにプライベートでZN6、ZN8を所有しているため、このAE86を加えると全ての世代のハチロクをコンプリートすることとなった川畑選手。出来上がったピカピカのAE86に沸いた愛着は「普段の練習用に使うか?いやいや、もったいなくて無理ですよ!」と言うほど。
にもかかわらず、シェイクダウン当日のドリコンではバチバチの追走と超接近のトリプルドリフトを披露していた。逆にギャラリーが心配で青ざめてしまうような走りを見せたあと、さらっといつもの川畑スマイルでピットに帰ってきたのは、さすが超一流のプロドリフターと言わざるを得なかった。
PHOTO &TEXT:長谷川実路(Miro HASEGAWA)