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パワーウェイトレシオは脅威の0.92!
V10エンジンを捨て去りV8ツインターボにシフト
バブルの頃には「六本木カローラ」と揶揄されたE30型のBMW 3シリーズ。今となってはヴィンテージなポジションを確立させているが、それはアメリカでも同じ。コレクターズアイテムと化したM3は言うに及ばず、もはや廉価な4気筒モデルですら個体を探すのが難しくなってきている。
そんなE30に魅了され、貴重なユーロスペックのM3など複数の車両を所有するE30マニアが、コーディ・マレノーである。コーディが27歳の時に初めて買ったE30が91年式の318iS。最初からS50型の直列6気筒に換装されていたそうだが、それを自らオーバーホールしたり、ターボ化したりして、イジることと走ることの楽しさに目覚めていった。
そんなコーディの所有車の中でも最も際立った個性を放つのが、23年のSEMAに出展したワイドボディ仕様だ。ベースとなったのは89年式の325iSだが、エンジンは2.5Lのストレート6から7.0LのアメリカンV8へとスワップされている。
「実は最初はM5のS85型V10に載せ替えるつもりで、プロジェクトも途中まで進んでいたんだ。だけど、2019年のSEMAに出ていたリベリオン・フォージ・レーシング(RFR)のE30を見て考えが変わったんだよ」。
コーディがそう説明するRFRのE30とは、V8エンジンの前方に備えたアート作品のようなワンオフのエキマニで話題となり、M3トリビュートのLTOワイドボディが世に知られるきっかけにもなったマシンだ。その美しさに感化されたコーディは、325iSのエンジンルームに両足を突っ込んでいたV10を引き剥がし、魅せるV8スワップに軌道修正したのである。
まず、エンジンを載せる土台から見直し、メインビルダーのP2ファブリケーションに依頼して、フロントからリヤまで完全に鋼管で組み上げたフルチューブラーシャシーを製作。その後、ワグナーオートモーティブのLS7型V8コンプリートエンジンを搭載。室内側にセットバックして、50:50の前後重量配分を実現した。タービンはプレシジョン6466のツインだ。
ビレットインテークの前方に伸びるパイプも二股に分かれているが、その先に水冷式インタークーラーが左右それぞれに配置されている。
トランクルームにはATLの燃料タンクの他、ドライサンプタンクとインタークーラータンクを設置。左右の側面には走行風を浴びるミッションクーラーとデフクーラーも内蔵されている。
また、エンジンルーム前方にもラジエターとミッションクーラーを備え、オイルクーラーはフロントと中間位置に合計3個を配置する。
ホイールはアメリカのクラブマンレーサー御用達ブランドとも言えるフォージラインの鍛造3ピースモデルSE3Cコンケーブを装着。18インチでフロント10.0J、リヤ12.0Jというワイドフェンダーに合わせたサイズとしている。タイヤは、ファルケンの北米専売モデルであるアゼニスRT660というハイグリップタイヤを組み合わせる。
ブレーキはウィルウッドの6ポットキャリパー+2ピースローター仕様。C7コルベットの上下コントロールアームを流用し、油圧で3インチの車高調整が可能なJRiショックスのカップ一体型ダンパーも備える。
エクステリアは、「Kyza(カイザ)」のアカウント名でも知られるデザイナー、カイジル・サリーム氏が手掛けた、LTO(リブ・トゥ・オフェンド)のワイドボディキットを装着。M3のスタイルをオマージュしたブリスター形状が特徴で、フロントが片側55mm、リヤが片側80mmの出面を実現する。ルーフとトランクもカーボン製だが、それをあまり強く主張しないペイントの手法も大人だ。
インテリアメイクも凄まじいの一言。パイプの骨格にフルカーボンのダッシュパネル、シーケンシャルミッションの上にワンオフのセンターコンソールパネルをセット。ダッシュ裏側にはボッシュモータースポーツのABS、Tiltonのマスターとリザーバーを忍ばせてある。シートはスパルコのレーシングタイプだ。室内側ドアオープナーは、ポルシェのRSモデルのようなストラップ式としている。
メータークラスターには、MoTeCのC127デジタルディスプレイをマウント。SyvecsのPDMにより、エンジンのマップ切り替えや車高調整をボタンで操作できる。
チューブラーシャシーとしたことで車重は2850ポンド(約1292kg)程にセーブ。直近のパワーチェックでは1400psを記録したというから、パワーウェイトレシオは単純計算で0.92kg/psと、もはやフォーミュラマシン並みである。
憧れの対象だったRFRと同じSEMAの舞台を踏み、次なるステージに進もうとしているコーディ。実は製作時からOPTIMAバッテリー主催のレースイベント、USCAのレギュレーションも意識していたため、参戦に向けて意欲的だ。このE30が本領を発揮できる場所は、サーキットをおいて他にない。
PHOTO:Akio HIRANO/TEXT:Hideo KOBAYASHI