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800kgの剛強ボディに超高回転型ユニットを搭載
グループAのディビジョン1で活躍したマシンの戦闘力
ホンダ車チューンの老舗“スプーン”市嶋代表の厚意で、往年のシビックグループAを試乗する機会に恵まれた。ベースとなるのは、1983年に登場し、翌年1.6L DOHCのZC型エンジンを搭載したスポーツモデル「Si」が追加された3代目シビックだ。
グループAには1985年シーズンの途中から排気量1.6L以下のディビジョン1に参戦(無限と中嶋企画)し、第4戦の鈴鹿300kmでは中嶋 悟/中子 修組が格上のディビジョン2/3のマシンを抑えて、見事に総合優勝を飾った。同じクラスでのライバルはAE86やAE82(カローラFX)。1988年のシーズン途中にEF3へと切り替わるまで、ディビジョン1でしのぎを削ったのだ。
ちなみに、今回試乗するのは車体番号14番で、スプーンいわく「車体番号が非常に若いので、市販されることなくはじめからグループA仕様として製作された1台だと思います。もしかしたら、デビューした85年に中嶋 悟/中子 修のコンビでレースを戦ったマシンかもしれませんね」とのこと。
心臓部は、ボア径75φ、ストローク量90mmから1590ccの排気量を稼ぐZC型エンジン。B16Aよりも世代が古いだけにVTECは備わらない。市販モデルの135ps/6000rpm、15.5kgm/5000rpmというスペックに対して、グループA仕様はハイコンプピストンやハイカムが組まれ、ECUチューンと合わせて170〜180psを発揮。ちなみに、現役当時のレブリミットはゆうに1万rpmを超えていたという超高回転型ユニットだ。
サイドマフラーから吐き出されるのは、ペリフェラルポート仕様のロータリーエンジンに勝るとも劣らない高周波ノイズ。半径5メートル以内だと耳元で大声で叫ばれたところで、何を言っているのか聞き取れないほどうるさい。
当時のレギュレーションに合わせて、ダッシュボードはノーマルのまま、ドアトリムも残されたインテリア。メーターは右から油温/水温/タコメーター/油圧計で、シフトレバーの後方にブレーキバランス調整用、さらにその後ろにラインロック用のレバーが設けられる。
また、助手席側の足元にはECUがセットされ、手前のダイヤルで燃調や点火時期のセッティング変更を行う。
ロールケージは10点式で、当時のレギュレーションで認められていたアルミ製を装着。助手席の位置に固定されているのは消火器だ。
ホイールは締めつけトルク60kgm(!!)というグループA仕様専用のセンターロックタイプで、フロントにアドバンスリック(195/55-15)、リヤにエイボンスリック(190/570R15)をセット。ブレーキはフロントAP4ポットキャリパー+2ピースドリルドローター、リヤ無限(ニッシン)2ポットキャリパーという組み合わせだ。
超ソリッドなハンドリングとZCエンジンの咆哮!
それでは試乗だ。キルスイッチをONにして、アクセルペダルを軽く踏みこんだままキーをひねると、ZC型エンジンは一発で目覚めた。その瞬間、室内に響き渡る高周波ノイズ。完全にアクセルオフだと、アイドリングせずにストールしてしまうほど作用角の大きいハイカムが組まれているため、常にブリッピングをくり返す。
鼓膜が痛い…。いやはや、想像を絶する爆音ぶり。グループAで現役だった頃、隣のピットにいた長谷見選手が「うるせぇ! ココをどこだと思ってるんだ!!」とえらい剣幕で怒鳴り込んできたことがあるそうだが、そんな話にも思わず納得だ。
スタートで気を使うのはエンジン回転数。3000rpm以下がまるで使いものにならない(タコメーターもその領域は目盛りがほとんどない)ため、アクセルペダルを必要以上に煽りながら出ていく。クラッチは思いのほか扱いやすい。1コーナーを2速で立ち上がって、とりあえずフル加速。6000rpmを超えたあたりからパワーが一段と高まって、それが9000rpmまで持続する。まさに“弾ける”感覚だ。
3速にシフトアップ…と思ったら、すぐに第1ヘアピンの進入に向けてブレーキング。倍力装置を持たないからペダル踏力はそれなりに必要だが、意外にもストローク量が長く、踏み込んだ分だけキッチリと制動力を発揮してくれる。自分でも分かるくらいコントロール性が高く、ペダルとパッドが直結してるようなフィーリングだ。
シフトダウンを済ませて、ブレーキを気持ち残しながらステアリングを左に切り込む。と、ノーズが平行移動するかのようにスパッとインを向いて強烈な横Gがやってくる。スリックタイヤのグリップ力は凄まじい。これだけ路面を食うなら…と、1ヘア立ち上がりでアクセルペダルを大きく踏み込んでみる。そこで出くわすのが、ステアリングへの強烈なキックバック。気を抜いていると挙動を乱すほどだ。
ダンロップコーナーから80Rを抜けて、第2ヘアピンまでの区間で感じたのは、自由自在にラインを取れると思えるほど軽快な身のこなし。ボディサイズは現行デミオよりもコンパクトで、しかも800kg台半ばという絶対的に軽い車重が効きまくっている。
途中、赤旗中断で2ラップしか走れなかったのが残念だが、ステアリングを握れる機会などまずありえないグループA仕様に試乗できただけで大満足。そして何より、ここまでのジャジャ馬で戦い続けていた当時のレーシングドライバー達には感服するばかりだ。
REPORT:廣嶋健太郎(Kentaro HIROSHIMA)
●取材協力:スプーン TEL : 0120-112-095
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