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ポイントになる吸気系はVQ35HR用パーツを賢く流用
仕上げは綿密なECUセッティング!
ここで紹介するV36スカイライン(VQ25HR搭載モデル)は、「排気量2.5Lのまま、低中速トルクとレスポンスを改善できないか?」という難題に立ち向かった“とあるエンジニア”の力作だ。
一番のポイントが吸気系だ。開発エンジニアいわく、「2.5LV6のVQ25HRは片バンクの排気量が1250cc。だから、K12マーチと同じφ50スロットルが左右それぞれに使われているけど、これがトルク感やレスポンスを制限しているんだ」とのこと。
当然、スロットルに合わせてサクションパイプ径やサージタンク容量もそれなり。つまり、VQ25HRはツインスロットルが採用されてはいるものの、吸気系の容量が絶対的に不足しているため、スポーティなエンジン特性を望めないのだ。
まずは純正φ50改ビッグスロットル仕様を考えたものの、バタフライバルブ径が2~3mm拡大したところで大幅な改善は見込めないと判断して却下。
そこで、同じHR系でも排気量が1.0L大きいVQ35HRの吸気系パーツ一式を移植することに。これなら、バタフライバルブ径はφ60になるし、同時にサクションパイプやサージタンクの容量アップも図れる。
スロットルボディは上がVQ25HR純正φ50、下がVQ35HR純正φ60で、両者の違いは歴然としている。
ところが、インテークポート形状や固定ボルトの位置が異なり、VQ25HRのインマニにVQ35HRのサージタンクを組み合わせることが出来ないという問題が。
右がVQ25HRのサージタンク、左がVQ35HRのインマニ。ポート面積に2倍くらいの違いがある他、固定用ボルトの位置も異なっているため、ボルトオン装着というわけにはいかない。
そこで、かつてブレイヴァリーが販売していた変換アダプター(ドライバーで指してる部分)を入手。VQ25HRのインマニに、VQ35HRのサージタンクを組み合わせているのだ。
現在の仕様は暫定的で、ゆくゆくはサージタンクをVR38DETT用に交換したいとか。「性能的には変わらないだろうけど、R35のサージタンクが付いてたらカッコ良いし、ボンネットを開けた時のインパクトも断然大きいからね。変換アダプターを作る必要があるけど(笑)」。
エンジン制御用ECUはVQ25HR用を使いながら、各マップを最適化。中でも、バタフライバルブ径の拡大により同じスロットル開度でも吸気量が増えるため、結果アイドリング回転数が上昇してしまうという問題が発生。
そこでスロットルバルブの開き具合を調整。アイドリングを安定させるのが最も難しかったという。また、アクセルペダル操作量に対するバタフライバルブの開きを、全回転域で遅くしているのも大きなポイントと言える。
「これが厄介だった。なかなか解決策を見つけられなくて“失敗した…”と思ったくらいだから」とのこと。その問題をクリアするためのECU書き替えは、なんと80回にも及んだそうだ。
一方、排気系もEXマニからフロントパイプ、マフラーに至るまでワンオフ製作。低中速トルクとピークパワーの両立を図るのはもちろん、耳に心地良いエキゾーストサウンドにも拘っている。
注目はフロントパイプで、純正φ43に対してφ50と径を拡大しながら、2→1集合部までの距離を長くすることで、アクセルを踏み直した時のトルク感を出す。さらに、センターパイプも2回ほど作り直されていたりする。
また、マフラーのメインパイプ径も同様。「始めは3.5Lと同じようにφ60で作ったんだけど、2.5Lだと下がスカスカで全く走らない。だから、低中速トルクを稼げるφ50にしたんだ」とのこと。
吸気系の容量アップと排気系の綿密なチューニングを行い、ECUセッティングを合わせ込んだその走りは、まず2000rpm辺りから十分な盛り上がりを感じられるトルク感が印象的。ノーマルのVQ25HRは比較にならず、VQ35HRに匹敵するといっても過言でない。
また、レスポンスにも優れ、アクセル操作に遅れることなく全域でエンジン回転がリニアに追従。モタツキ感は皆無で、ドライバーの意思に忠実な加速を見せてくれる。
ブレーキは、前後ともボルトオン装着できるV36スカイラインクーペ用に交換。フロント6ポット/リヤ4ポットキャリパーと大径ローターで制動性能を高めている。また、サスペンションは純正ダンパーにRS☆Rローダウンスプリングが組み合わされている。
インテリアは至ってノーマル。純正パーツ流用によって、元々装着されていなかったATのマニュアル操作用パドルシフトが追加されているくらいだ。
このV36に試乗して「スポーティってのはこういうことなんだ!!」と実感。数値だけでは表せない部分への徹底した拘りが、そう思わせてくれたに違いない。