「今、NSXを所有するとはどういうことなのか」専門店が語るNA1&NA2の現在地

NSXを所有するということ。

ホンダが栃木・高根沢に建てた専用工場で生産され、量産車世界初となるオールアルミモノコックボディを採用。そのリヤミッドにはNAながら280psを達成した3.0L・V6 VTECのC30A(後期型は3.2LのC32B)が搭載される。生産終了から間もなく20年が経つが、初代NSXの存在感は価値と共に増すばかりだ。バブル期に登場した国産スポーツカーの中で、“孤高かつ別格の1台”と誰もが認めるNA1/2を、今、所有するとはどういうことなのか。創立10周年を迎えたNSX専門店T3TECの代表にして、自身もNA1オーナー歴25年になる豊泉さんに話を聞いた。

ファーストコンタクト

かつてハードなチューニングを施したFC3S→FD3Sを乗り継ぎ、ロータリターボ一直線なクルマ人生を歩んでいた豊泉さん。NSXに心惹かれるようになったのは25~26歳の頃、コンビニの駐車場に停まる赤い1台を目にしたことだった。

「うわっ、なんてカッコ良いクルマなんだ!! と思って。近所のベルノ店に行って試乗させてもらったんです。そこで、ロータリーにはないエンジンのピックアップの良さに感銘を受けました。確かに、絶対的にはチューンドロータリーの方が速い。けど、ブーストが掛かるまではスカスカ。“ターボの不健康さ”に気付いたんですよ」と独特な表現を交えながら、豊泉さんはNSXの第一印象を語ってくれた。

好景気が後押しして、NSXには発売直後から注文が殺到。生産が追い付かず、納車待ちは5年とも8年とも言われた。豊泉さんが続ける。「投機目的で購入される方が多いですけど、本当のスポーツカー好きに乗って頂きたい…とベルノ店の営業マンが言うわけです。納車まで何年も待たなければならない状況だったので、とりあえず注文を入れました」。

ところが、程なくしてバブル景気が弾け、注文キャンセルが続出。納車が大幅に前倒しとなり、その時点で頭金を用意できなかった豊泉さんは新車での購入を泣く泣く断念した。

10年越しの念願が叶う

チューンドFD3Sに乗りながらも、NSXへの思いを抱き続けた豊泉さんに転機が訪れたのは1999年。それなりの数の中古車が市場に流通し、当時はまだ今のように相場価格も高騰してはいなかった。

「東京・練馬のNSX専門店、MACS(マックス)で見付けたのがガンメタの1台。店頭価格で500万円ちょいでした。これなら手が届くかなと思って購入したのが、今乗ってるNA1なんです。というか、それからもう25年も経つのかぁ…」。

晴れてオーナーとなった豊泉さんはNSXの魅力にどっぷりと浸かっていく。何しろ1300kgそこそこのボディに、トルクがある3.0L・V6エンジンをリヤミッドに搭載。その上、右足の動きに直結したかのようなレスポンスまで兼ね備えている。

「何て面白いクルマなんだ!!って思いました。エンジンにしろハンドリングにしろ、操作に対する“待ち”の時間がなくて、しかも自在に動いてくれる。思い付きで運転するにはそこがすごく大事なところで、気ままな人間に対応してくれるのはNAなんだなと実感しました。ある程度の軽さと、下のトルクがあるNAエンジンの組み合わせ。NSXを置いて、他に選択肢はありませんよね」。

拡がるNSXオーナーの輪

とはいえ、大枠で見ればNSXもラインで生産される量産車であることに変わりはない。ノーマルでも高い完成度を誇るが、メーカーとして超えてはいけない一線が引かれていることに豊泉さんは気付いた。

「デチューンされているところが多々あるんです。それは相当やってあるタイプRでも同じ。僕は元々設計の仕事をやってたので、“なんでメーカーはこうしたんだろう?”と、まずその意図を考える性分なんです。その上でノーマルでは抑えられているところを解放してやる作業、つまりチューニングを進めていくことにしました」。

好きで乗り始めたNSXだから、始めは自分のクルマだけイジって楽しめれば良かった。また、時をほぼ同じくしてネット上には掲示板も立ち上げた。これは、NSXに対する自身の考えや分析、作業内容などを備忘録的に書き込むものだったが、やがてNSXオーナー達の目にも留まることとなる。

「まだブログなんてものが世の中になかった頃の話。情報発信の場を作ったんです。そうしたら、それを見てくれる人が出てきて、そのうちNSXオーナーが実際ショップに足を運んでくれるようになったと。なので、もう20年くらいの付き合いになる人も多いです。ちなみに、掲示板は今でも続いてますよ」。

速く走らせる義務はない

高回転型エンジンをリヤミッドに載せた2人乗りピュアスポーツ。故に、常に神経を研ぎ澄まし、戦闘モードで乗らなければならない。NSXに対して、そんなイメージを抱いている人は少なくないかもしれない。しかし、豊泉さんはそれを真っ向から否定する。

「確かに30代の頃は目を吊り上げた人も多かったです。けど、NSXを“戦闘機”として使ったら、みんなどこかにブツかっちゃいますよ(笑)。例えば、サーキットを走るのは好きだけど、そこにウエイトを置かない。そういう人達が長く楽しんでますね。NSXには経年劣化しないモノコックと十分なトルクを発揮するエンジンという、持って生まれたものがあります。なので、気負わなくても速いし、回さなくてもグイグイ前に出て行ってくれる。速度域とは関係なく、ハンドリングも含めて運転そのものが面白いんです。だったら、ドラテクの追求とか難しいことは抜きにして、楽しんだもん勝ちじゃないですか。NSXだからと言って、速く走らせる必要は全くありませんよ」。

聞けば、お客さんの中には毎日NSXを通勤に使っている人がいるし、AT車で40万km以上乗っている人もいるという。実は快適にドライブできるロングツーリングを含め、NSXはオールマイティに楽しめる懐の深いクルマと言っていい。

ただし、最終型でも18年が経過したNSXは、すでにクラシックカーの領域に入ってきているのも事実。長く乗るには当然、各部のオーバーホールや重整備が求められる。今後を見据え、その環境を着々と整えているのが、豊泉さん率いるT3TECというわけだ。

次世代に受け継ぐ価値

トラブルが頻発する箇所を把握し、その対処法も確立したT3TEC。パーツを大量に在庫して臨機応変に対応するのはもちろん、供給がストップした純正パーツに関しては現品をベースにオーバーホールを施すか、純正同等のクオリティを持つオリジナル品を開発するなどして、あらゆる作業を素早くこなせる体制を取る。

「たとえどんな壊れ方をしても、職人技が求められる鈑金以外は、自社で全ての作業を完結できるように考えてます。ここは、“NSXオーナーが笑いながら楽しめるように”…そんな思いで作ったファクトリーですから。何かトラブルが発生しても解決策はこちらで考えるので、オーナーは心配せずNSXに乗って下さい」と力を込める豊泉さんは、こう続ける。

「30年経ってもボディが全くヤレないのは凄いことだと思います。こんなクルマは他にありませんし、だからこそしっかりと手を入れてやれば乗り続けられる。僕は今年還暦を迎えましたけど、確実にNSXの方が自分より寿命が長い。つまり、次の世代まで残っていくクルマなんですよ、間違いなく。大袈裟な言い方かもしれませんが、もはやNSXは芸術品みたいなものだと思いますね」。

未来のオーナーへ

中古車価格が高値で安定していることを含め、『NSXは芸術品みたいなもの』というフレーズに、なるほどと思った。
また、“中古車価格=クルマの価値”が上がったことで、「大事に扱うオーナーが増えましたね」と豊泉さんは言う。

彼らは日常メンテに気を遣い、少しでも調子が悪いと感じたら即点検、必要に応じて修理を依頼する。それにより常に好コンディションを保てるため、程度の悪い個体が淘汰されつつあるなど、NSXを取り巻く現状は好循環を見せている。

「NSXに興味があるなら、気負わずに乗ってみてほしい。自分の経験からすると、RX-7よりよっぽどハードルは低いです。ロータリーはそれこそ腫れモノに触るイメージでしたから。GT-Rと比べても同じことが言えると思います。ターボは熱や、それによるパーツ劣化の問題が出てきますけど、そういう心配がない。何より今のクルマでは失われた世界がNSXにはあります。確かに中古車価格は上がりましたけど、NSXなら手放しても大損はしませんよ」。

豊泉さんには忘れられない言葉がある。かつて高根沢工場でNSXの生産に携わった人から聞いたひと言だ。曰く、「NSXは人生を変える」と。設計を生業とするつもりがチューニングの世界に足を踏み入れ、気が付くと、個人的な趣味で乗り始めたNSXを取り扱う専門店を立ち上げていた。「まさか自分でNSXのショップをやるなんて思ってなかったですよ。見事に僕の人生はNSXで大きく変わりましたね」。

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●取材協力:T3テック 埼玉県入間市南峯1095-18 TEL:04-2941-6210

「初代NSXといつまでも・・・」確実に進むメカニズムの老朽化と戦うスペシャリストに迫る!

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【関連リンク】
T3テック
http://t3tec.jp/access

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