目次
RX-7から発せられる高周波サウンドは787B!?
実用型4ローターユニットを求めたチューナーの戦い
ロータリーエンジンは、エキセントリックシャフト一回転で3つの燃焼室が爆発行程を迎える構造を持つ。つまり、4ローターとはレシプロエンジンで言うところの12気筒と考えても間違いではない。そしてそのように解釈すれば、この周囲を圧する異次元の咆哮にも納得ができる。
4000rpm以降、ロータリーチューンのスペシャリストである小関秀一が完成させた4ローターユニットの奏でる音色は、もはや『甲高い』と表現するようなレベルの話ではなく、言うなれば『超高周波』。音質、音圧ともにフェラーリのV12サウンドをも凌ぐ…いや、かつてル・マンを制した名車787BのR26Bレーシングユニットそのままなのである。
とはいえ、このマシンに搭載されたシロモノは、R26Bとは全く異なる完全オリジナルのユニット。軸となるエキセントリックシャフトは12A用ベースのワンオフ2分割モデルとし、ローターは13B用よりも10mm薄型で回転慣性に優れる12A用を採用。そこにペリフェラルポート化された12A用ローターハウジング&サイドハウジング計9枚をサンドイッチすることで、3ローターの20Bユニットとほぼ同寸の、687mmというコンパクトな12A型4ローターユニット(2296cc)を造り上げたのだ。
ところが、このパワーユニットを搭載したFD3Sは、最終目標であった公道仕様としてのエンジン市販までは辿り着かず、10年近く企画は宙に浮いたままになっていた。
市販エンジンではない4ローターユニットを搭載して公認車検を取得するというハードルは想像以上に高かったのである。加えて、よりコンパクトなエンジンに仕上げるべく選んだ12Aのローター&ローターハウジングが絶版になり、パーツ入手が困難な状態になってしまったのだ。
もろもろの要因があり挫折状態ではあったが、スクート小関氏は市販モデルの合法4ローターエンジンの製作を諦めなかった。
水面下で研究を重ね、長い時間を費やして3ピースのエキセントリックシャフトを新たに開発。そうして完成させたのが13Bベース(654cc×4/2616cc)、RX-8の高圧縮ローターを使用したサイドポート仕様の4ローターユニットだった。
さらに、セッティングの変更や触媒&エアポンプなど排気ガス浄化システムの改良により、10.15モード試験で保安基準内まで排気ガスを浄化することに成功。その道程を文章にするとたったこれだけのことだが、OPTION誌の記録によると、最初に試験に挑んだ日付は2007年の3月、そして試験をクリアしたのが2013年の暮れのこと。つまり6年間を費やしたのである。
そして2014年の6月、4ローターエンジン搭載車の正規登録1号として、スクートのRX-7の登録が完了した。
「もう思い出したくもないよね。本業の合間の作業や答えを出すまでに時間のかかるテストも多く、挫けそうになるほどだった。でも、なんとか公認を取得することができたんだ。意地だったよ」と小関氏。
現状の最高出力は、抑えに抑えて330ps。レブリミットも9000rpmに留められているのだが、耐久性度外視で一発を狙うならば、オーバー500ps/10000rpmも可能なポテンシャルを秘めている。
排気レイアウトも独特だ。80φのメインパイプはまず横置の大型サイレンサーへと繋がる。そこからそれぞれアイドリング時に機能するサイドマフラーと、全開時に機能するセンターマフラーへと分岐し、テールエンド直前で再び集合する。音質を追求した結果の産物だ。
そんな至宝の4ローターユニットを包むエクステリアは、FD3Sのアイデンティティを残しつつ、欧州スーパースポーツのようなフォルムを求めて製作されたオリジナル。そのシルエットは、まるでメーカーが開発したニューモデルのような超クオリティを誇る。ドア開閉にはガルウイングが採用されているのだが、その跳ね上げアクションはマクラーレンSLRなどが採用するスイングウイング式となる。
もちろん空力も追求されており、グラウンドエフェクトによるマイナスリフト空力特性を手にするべく、ボディ下面はドライカーボン平板で完全にフラットボトム化。リヤセクションにはF3で実戦投入されているレーシングカー用のカーボンディフューザーが設置されている。
車両情報はデフィのスポーツクラスターで一元管理。内装パネルにスウェード生地を張り込むなど高級感のある車内を構築する。ガルウイング化したドアはノーマルの半分の大きさにし、下部をモノコック状にすることで大幅な剛性アップを果たす。
サスペンションチューンも徹底。ダンパーはスクートオリジナルで、ダイナミック製の別タンクを装備した3アジャストモデルだ。スプリングはノヴァでレートはフロント18kg/mm、リヤ16kg/mm。
また、アーム類は前後ともに取り付け位置を変更し、75mmの車高ダウン値で最適なジオメトリーを実現している。なにより特徴的なのはフロント。ハイレートのスタビを導入しているため、アッパーアーム前側の取り付け位置のみを75mmアップさせて荷重移動を起こしやすくしているのだ。
「九州まで自走で行ったことがあるんだけど、その時の燃費は7km/Lくらいだったかな。意外と走るんだよ」。続けて「色々なクルマに4ローターエンジンを積んでみたいよね」。
プロジェクト始動から早20年。世界で唯一の実用型4ローターを求め描いたチューナーの夢物語は、未だ現在進行形というわけだ。
●取材協力:スクートスポーツ 神奈川県厚木市上依知1373-1 TEL:046-246-3356
【関連リンク】
スクートスポーツ
http://www.scoot.ico.bz/