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感動的な高周波サウンドを生み出す4ローター仕様!
目指したのはマツダ787Bの音色
「エンジンの音を聞いてくれ!」。オーナーのデビッド・マッゼイはそう言いながら、センターパネルに設置された燃料ポンプをはじめとする各種スイッチを次々と起動させていく。ハイチューンドならではの儀式だ。
全ての準備が整うと、おもむろに後付けのスタータースイッチに手を伸ばす。3〜4ターンくらいだろうか、ほんのわずかなクランキングで至宝の4ローターターボユニットは目を覚ました。
アイドリングの安定度が、このエンジンの完成度の高さを物語る。しばらく暖機させた後、デビットは指でOKの合図を出すと、一呼吸置いてからアクセルを煽り出した。高周波サウンドが周囲を圧する。まるで咆哮、大気が震える。その昔、富士スピードウェイで聞いたマツダ787Bのレーシングサウンドに限りなく近い。
90年代に輝きを放ったマツダのプロトタイプ・レーシングマシンに憧れていたデビッドは、そのロータリーサウンドを自分の愛車で再現したいという一心から、RX-7に4ローターターボを搭載した。
チョイスしたエンジンは、インディアナ州のエキセントリック・モータースポーツが製作した13Bベースの4ローターコンプリートユニットだ。燃料系の取り回しをカスタムメイドしている他、インマニやオイルパンもワンオフで製作されている。
組み合わせるタービンは巨大なGTX55で、ブースト1bar(約1.0キロ)時に1150馬力をシャシダイで記録しているという。レブリミットは9500rpm、燃料はE85(レースガス)だ。
リヤゲート内に確認できるコアは水冷式インタークーラーで、エンジン側のインテークマニホールドを冷やすためのシステムだ。この車両のためにワンオフ製作されたもので“ウォーター・トゥ・エアインテークマニホールド”と呼ぶそうだ。効率的な吸気温低下を実現する。
エンジンオイルクーラーは、バンパー左右と純正ナンバー位置の計3箇所にマウント。限りなくレーシングエンジンに近い4ローターターボをストリートで安定させるためには、徹底したクーリングチューンが必要というわけだ。
また、彼が拘るのはあくまで「サウンド」ということで、EXマニはモーガン・パフォーマンス・ファブリケーションとの二人三脚で納得の行くものを何度も製作。エキゾーストはフェンダーから排出されるレーシングスペックだ。
エンジンマネージメントはハルテックのエリート2500が担い、アメリカでは知らぬ者はいないというロータリーチューナー“FALCO Racing”がセッティングを担当する。ECUの脇を通る2本の黒いホースはインマニ冷却用のウォーターラインだ。
室内にはカスタムメイドのロールケージが組まれ、BRIDEのバケットシートも装備。カーボン製メータークラスターやレースパックのデジタルダッシュメーターも備わる。
ホイールはワークのマイスターS1を装着。フロントが9.5J×18、リヤが11.0J×18。タイヤにはミシュランのレーシングスリックをセットする。
エクステリアは、RE雨宮のスリークライトやフジタエンジニアリングのワイドボディキットなど、日本の名ロータリーチューニングショップのエアロパーツで武装。リヤのバーチカル型GTウイングはワンオフ、スクート製ボンネットはそのままではターボ&ウエストゲートと干渉するため、一部カットされている。
ちなみに、デビッドはこのモンスターマシン以外にも、2ローター仕様、3ローター仕様という異なるマルチローターのFD3Sを所有している。さらに現在、5ローター仕様(!?)の開発計画も進行中とのこと。ハンパではない。
最後に。信じられないことに、このRX-7はデビッドが住むアラバマ州の登録も済ませたロードゴーイングカーなのだ。「こんなマシンでストリートを走って大丈夫なのか?」。そう質問すると、彼はほくそ笑みながらこう答えてくれた。「問題ないよ。このマシンに追いつく存在がいると思うかい?」。生粋のストリートファイターである。