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RNN14純正タービンをドッキング!ATで楽しむ340psの快速ワゴン
中回転域から伸びるパワー感! チューンドカーらしさは満点
空力的に有利…とボルボが判断したことから、1994年のBTCCに送り込まれることになった850エステート。結果は散々で、翌1995年に早くもベース車が4ドアセダンに切り替えられるなど、モータースポーツの世界では“話題だけ”を振りまいて消えていったが、市販車はそうではなかった。折からのワゴンブームに乗ってエステートが売れまくり。ターボモデルの850Rでも、それは同じだった。
そんな850Rエステートのチューニングを手がけたのは、国産旧車から最新の欧米スポーツカーまで幅広い守備範囲を誇るクライスジーク。じつは90年代半ば、850Rをベースにブーストアップ仕様“280”や、タービン交換仕様“325&380”、さらには谷田部最高速でFFワゴン最速となる279キロをマークした究極仕様“427”など、一連のコンプリートカー『ハイパーシリーズ』を展開してきたこともあって、850Rチューンを得意としているのだ。
今回取材したのはパルサーRNN14純正タービン装着に合わせて、2.3L直5DOHCエンジン本体をマーレ製ピストン(初期型ではノーマル状態で組まれていたが、それとは異なるアフター品を使用)や、クロワー製H断面コンロッドで強化した仕様。制御系は純正ECU書き替えで対応し、最大ブースト圧1.3キロ時に335psを発揮する。
ちなみに、このタービンチョイスは、排気量の大きさと目標パワーを前提としたものだ。当時、すでに後方排気を採用していたため、タービン本体はシリンダーブロックとバルクヘッドの間にセットされる。
エアクリーナーをムキ出しタイプに交換。エンジンルーム内の熱気を極力吸いこませないよう、遮熱板も設けられる。また、インテークパイプはワンオフ品、ブローオフバルブはトラスト製だ。
ターボチューンに重要なマフラーは、スポーティなルックスの砲弾型ながら、音のこもりを無くすためにメインサイレンサーを長く、内部構造も隔壁+グラスウールとしたワンオフステンレスモデルを採用。職人が2日がかりで製作した作品とのことだ。
そんなターボパワーを受け止める足回りは、バルブを通過するオイル流量(=減衰力)を機械的に自動調整するメカニズムが与えられたコニ“FSD”を装着。これにアメリカH&R製スプリングが組みあわされる。ホイールは純正17インチ(オーナーの拘り)で、キャリパー&ローターの大型化が図れないためブレーキ強化はパッド交換のみで対応している。
一方のインテリアは、ダッシュボードやシフトノブにウッドパネルがあしらわれ、シートも本革とバックスキンのコンビ表皮となるなど、ラグジュアリーな雰囲気。追加メーターはデフィブースト計のみで、ステアリングコラム右側にトラストプロフェックBスペックIIとターボタイマーがセットされる。
クライスジークいわく「フロントパイプやブローオフバルブなど、当時コンプリートカーではやりきれなかったところまでキッチリ手を入れました。それと、このクルマは4速ATですけど、これくらいのパワーならとくに対策をしなくても耐久性に問題が出ることはないですね。むしろ、いま乗るには5速MTのほうが大変だと思いますよ。クラッチ交換するにもパーツがありませんから」とのこと。
試乗してみると、わずかに低められた車高とマフラー以外は完全にノーマルという見ためとは裏腹に、エンジンのフィーリングは完全にチューニングカーのそれ。低中速域は4速ATとのマッチングもあってか、ややモッサリした印象だが、4000rpmを超えるとそれが激変する。ブースト圧が鋭く立ち上がり、想像以上のパワーが押し寄せてくる。しかも、今時のFFではまずありえないほどのトルクステアに見舞われたり…。
日常の足として使い倒せる実用的なワゴンと考えれば、動力性能には全く不満なし。それより、昔ながらのチューニングカーっぽい乗り味を楽しめるのが好印象で「これなら長く付き合えそう」と思えた1台だ。
TEXT:Kentaro HIROSHIMA