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最新技術&パーツで進化を続ける!
1980年代末に初代BC/BFレガシィと共に登場して以来、25年以上にわたって生産され続けてきたスバルEJ型エンジン。2.2Lや2.5Lも存在したが、WEBOPTION的に最もなじみ深いのは、言うまでもなく2.0LのEJ20ターボだ。そのチューニングに力を入れるのが“ボクサーパラノイア”。現行エンジンがFAに切り替わってからしばらく経つが、「EJのチューニングはまだまだ進化してるよ!!」と代表の桑原さんは言う。そこで、これまで同社が手掛けてきた多くのチューンドカーの中から仕様違いの3台をセレクト。豊富なノウハウを後ろ盾に、今時の技術とパーツで組み上げられたそれらの内容を松竹梅の3ステップで見ていく。
梅コース:VAB 2.0L 500馬力&65kgm仕様
ボクサーパラノイアが、「ブーストアップからの次の一手」として推奨しているのがVABに施されたチューニング。EJ20本体には手を加えずGT3076タービンを組み合わせ、吸排気環境を整えた仕様だ。インタークーラーは冷却性能とレスポンスのバランスからHKS純正交換タイプを使用。
「VAB純正はGDB純正に対して圧損が6%少ないけど、HKS製はVAB純正よりさらに10%も少ない。トップマウント式はコアを通過した空気がミッションの脇からフロア下に抜けるから、エアコンコンデンサーやエンジンがコアの後ろで壁になってしまう前置きよりも冷えるんだよ。それと、パイピングが長くなる前置きはレスポンスや設定ブースト圧維持の面でも不利。よく考えられた純正レイアウトを踏襲するのがベストだね」と桑原さんは言う。
また、燃料系は340L/hポンプと960ccインジェクターで容量アップ。点火系ではプラグが8番に交換される。
純正ECU書き替えによるエンジン制御で注目なのは、アンチラグ機能が追加されていること。これはS♯モード選択時、3000~4000rpm以上で作動する。シフトアップなどによるアクセルオフ時のブースト圧の落ち込みをなくし、再び踏み込んだ時の加速を強力にアシストしてくれるのだ。
一方、スロットルマップも見直される。純正はエンジン保護のため7000rpmからスロットルバルブを閉じていき、7800rpmでレブリミッターが介入。それに対して7000rpm以上でもアクセル操作にバルブの動きを追従させ、レブリミットを8800rpmに設定するのがボクサーパラノイア流となる。
桑原さんいわく、「カムもバルブスプリングもノーマルだけど、EJ20は9000rpm近い回転数も許容してくれる。それを活かさない手はない!!」。そんなVABの走りは、果たしてどのようなものなのか。
日常域で多用する2000~3000rpmは純正タービン並み…というか、むしろそれを軽く上回るほどのトルク感がある。明らかにタービンサイズが大きいのに、実用域の扱いやすさは全く犠牲になってない。速度に対してわざと一つ上のギヤで流してもギクシャクした動きをまるで見せず、至ってスムーズに走ってしまうのが驚きだ。
その優等生ぶりに良い意味で肩透かしを食らいつつ、今度はシフトダウンしてフル加速を試みる。タービンの過給効果がグンと高まり、4000rpmを超えたあたりからタコメーターの針が何かに弾かれたように急激な上昇を始める。
パワーを大きく盛り上げるのは5000rpmから。フルタービン並みの炸裂感を伴いながら、さらに勢いづいたタコメーターの針は6000、7000rpmを一瞬で通過して8500rpmに到達。慌ててシフトアップする。
トップエンド領域でもパワー感の落ち込みは皆無。というか、さらなる高回転化が許されれば、まだまだパワーもついてくる余力すら感じられた。エンジン本体がノーマルゆえ、現状8800rpmを上限に躾けられているけど、GT3076にはもっと先まで大きな可能性があるように思えて仕方ない。
EJ20はチューニングベースとして高い資質を持つ。ノーマルエンジンで500psを実現したVABの存在が、その証だ。
竹コース:GDB 2.2L 550馬力&78kgm仕様
GDBの限定モデルS204に搭載されるエンジンはHKS製キットを軸に組まれた2.2L仕様。わざわざ“軸に”と一言付け加えたのは、鍛造92.5φピストンと79mmストロークの削り出しクランクシャフトはHKS製を使いつつ、コンロッドのみ軽量なアメリカ製H断面を組み合わせているから。キットをそのまま使うのではなく、目標馬力に応じて必要と思われるパーツを投入するのがボクサーパラノイアたる所以だ。
また、シリンダーブロック(クランクキャップ)の合わせ面にはノックピン加工を実施。メインボルトも純正より径が1mm太く、軸力面で有利なARP製スタッドを使うことで圧倒的なブロック剛性を確保する。ボクサーパラノイアで500ps以上を狙う場合、耐久性を劇的に高める策として、この2つのメニューは必須とされている。
桑原さんいわく、「まずは“土台”をしっかりさせることが大事。その上で、メーカー基準値より広めのクリアランスで組む。これまでの経験に基づき、使うパーツに合わせた数値でね。だからといって、チューニングエンジンに最適なクリアランスで組んでもガバガバになることはないし、シリンダーブロックの変形が抑えられる分、むしろ全域で軽く回ってくれるようになるよ」とのこと。また、ピストンには切削加工を施して給油量をアップ。ハイパワーに耐える環境が整えられる。
シリンダーヘッドは、気筒判別を行なうためのカムポジションセンサーを追加したGRB用を使用。カムはIN、EX共に東名264度が組まれ、バルブスプリングをシムで強化することで9000rpm以上まで対応させている。ちなみに、ポートや燃焼室には手を加えていない。
もちろん、補機類のセレクトも抜かりなし。インタークーラーはトップマウント式のHKS製VAB用に交換。燃料系は340L/hポンプに960ccインジェクターで容量アップが図られ、安定した供給を実現するためコレクタータンクも設けられる。
「VAB用インタークーラーはGDB用より幅が60mmくらい広い。だから、装着にはダクト加工が必要で、それをやらないと性能を存分に引き出せない。吸気温が上昇して加速2発目からブーストが上がらなくなっちゃうよ」と桑原さん。
意外なのは2.2LのGT3076仕様なのに、エキマニが純正だったこと。当然アフター品に交換されていると思っていたが、「性能的にはこれで十分」と桑原さんは断言。交換が必要なパーツの取捨選択は厳しい目で行なわれているのだ。
最大ブースト圧1.9キロで550ps&78kgmというスペック。EJ20ベースではかなり無理してパワーを絞り出しているように思えるかもしれない。しかし、弱点を熟知して、要所を的確に押さえたチューニングを施せば、速さと耐久性は高いレベルで両立できる。スバル車チューンを手掛けて25年。ボクサーパラノイア率いる桑原さんのこれまでの経験が、そんなマシンメイクを可能にするのだ。
松コース:GDB 2.7L 600馬力&80kgm仕様
ボア径102φ、ストローク量83.0mmから2711ccの排気量を稼ぐ2.7L仕様。少なくとも国内においては、EJ20をベースとした究極のチューンドエンジンと言って差し支えない。
まず、ボア径を10mmも拡大するため、シリンダーブロックには機械加工の上、モジュラーデッキスリーブを圧入。加えて、ノックピン加工とARP製メインボルトでブロック剛性を飛躍的に高めるのは先述のS204と同様だ。
桑原さんが言う。「クランクシャフトは過去にアメリカでGDBのドラッグマシンに組まれ、8秒台を出した実績があるもの。800psにも耐えるんだから、なかなか強烈でしょ?」。
そこに組まれる鍛造102φピストンはパラノイアオリジナル、83.0mmストロークのクランクシャフトはアメリカ製で、コンロッドはHKS製を使用する。
一方、シリンダーヘッドはGRB用で102φピストンに合わせ、まず燃焼室全周に4.5mm幅のスキッシュエリアを設定。ポート径も拡大されるが、表面は鏡面仕上げでなく、ザラつき感を残すサンドブラストでフィニッシュ。これは燃焼効率を考え、霧化した燃料が再び集まらないようにする策だ。
カムシャフトはコスワース製でIN/EX270度。排気側にはGDBスペックC純正ナトリウム封入バルブを使い、バルブスプリングはシム強化でサージング限界を引き上げる。EJ20の常識を超えたビッグボア&ロングストローク化にも関わらず、レブリミット9500rpmを達成しているのが驚異的だ。
燃料系は420L/hポンプと1000ccインジェクターで強化。タービンは先述の2台と同じGT3076ながら、目標馬力を見越して容量アップが図られる。
ノーマル比3割以上も増した排気量の恩恵は凄まじい。1速でクラッチを繋いだ瞬間から繰り出される、EJ20ベースらしくない頼もしいトルク感。しかし、それ以上に、実はアクセル操作に対するピックアップの良さに感心。右足の小刻みな動きにも逐一エンジンが反応する。これにはハードなチューニングに合わせた独自かつ広めの各部クリアランスが大きく影響してるはず。明らかにフリクションが小さく、回転域を問わずエンジンが軽快に回るのだ。
実用域の扱いやすさは確実にノーマル以上で、これなら高速での長距離移動も楽勝。6速ホールドのままアクセルひと踏みでグイグイ前に出ていく。しかし、それはほんの一面でしかなく、2.7L仕様が本当の姿を見せるのは右足にグッと力を込めた時だ。その瞬間、ドンッ!! と立ち上がったトルクに蹴り出され、直後エンジン回転の上昇に合わせて二次曲線的にパワーが湧き出してくる。
ノーマルに対してストロークが8mmも伸びているのに吹け上がりは鋭く、どこまでも軽く、勢いを増しながらタコメーターの針が駆け上がる。9000rpmまでその切れ味が失われることはなく、回せば回した分だけパワーも追従。トップエンドで炸裂する600psは刺激的すぎる。フルチューンらしいエンジン特性とパワーウエイトレシオ2kg/ps台前半を誇る動力性能は圧巻の一言だ。
「本来、水平対向エンジンは頑丈なはず。だからEJ20はノーマルで500ps、イジれば600psもいける。スバルの伸び代は凄いよ。そんな逸材を活かせるかどうかはチューナーの真心に掛かってると思う」。全身で600psを堪能しながら、そんな桑原さんの言葉に激しく納得するのだった。
⚫︎取材協力:ボクサーパラノア 群馬県前橋市力丸町187-3
【関連リンク】
ボクサーパラノイア
http://www.boxerparanoia.com