「バイオ燃料の本格導入は“国による合法的な旧車潰し”!?」タブー視されているガソリン問題を切る

近年の旧車火災の一因は燃料の成分にあった!?

かつて高橋国光氏も在籍していた鈴鹿の名門バイクレースチーム、FCCテクニカルスポーツ出身で、現在はW124やW201などネオクラシックメルセデスのチューニングを手がける“ガレージえちごや”代表の皆口昌彦。ホンダレーシングやHRC、ヨシムラ、モリワキなどとも親交が深く、そこでパーツ開発やエンジンの組み方など、『速さと強さに直結する方程式』を存分に吸収。ガレージえちごやとして独立後はその方程式を応用しながら、メルセデスベンツのチューニングを手掛けつつ、フェラーリデイトナやF40、トヨタ2000GT、ロータスヨーロッパなど国籍を問わず、往年の名車のエンジンを700基以上組んできた実績も持つ理論派チューナーだ。そんな男が今、警鐘を鳴らしている“バイオ燃料”について話を聞いた。

バイオエタノールの攻撃性がクルマを蝕む

“ガレージえちごや”代表の皆口昌彦氏

「今の日本で起きていることは『国による合法的な旧車潰し』だよ」皆口

まず、バイオ燃料ってのは一体どんなものなのか。その定義は石油連盟のHPにあって、「植物生まれのバイオエタノールと石油系ガスのイソブテンから合成された“バイオETBE”を1%以上配合したガソリン」のことを指す。

また、「日本工業規格(JIS)や品質確保法に定めるガソリンの規格にも完全に合致し、通常のガソリンと全く同じ使い方ができる」とも記されている。そんなバイオ燃料に対して、オレが考える大きな問題は2つあるんだ。

一つはエタノールを混ぜてること。そもそも燃えにくい物質だから、見かけ上のオクタン価を上げることはできる。けど、燃えにくいってことはそれだけスラッジも発生するわけでさ。エキゾースト側バルブシートに付着すれば、圧縮漏れを招いてエンジン本来の性能を引き出せなくなっちゃう。

現行N-BOXのフューエルリッド裏に貼られたコーションステッカー。『バイオ混合ガソリン対応車』と明記される。これが貼られてなければバイオ燃料未対策車となり、とくに旧車は燃料系ゴムホース類のマメな点検が必要だ。

それと、エタノールは樹脂やゴム類に対する攻撃性が高いのも問題だね。50系プリウスのマイナーチェンジモデルが発売された2018年以降の国産車では樹脂製ガソリンタンクの素材自体が変わっていたり、内側をコーティングしたり、燃料ラインに使われるゴム類の素材を見直したりとメーカーも対策を施してるんだけど、それ以前のクルマは当然、未対策。

それにバイオ燃料を入れ続けていると、どうなるか。エタノールに侵されたガソリンタンクや燃料ラインにクラックが入り、そこからガソリンが漏れ出すという恐ろしい事態が確実に発生することになる。すでに初期型のポルシェボクスターで、そんな事例を見てるし。

1980~1990年代の欧州車で採用例が多かったボッシュ製KEジェトロニック。裏側中央に見えるピンで全体の燃料噴射量を調整するが、その周囲をシールするゴム製Oリングがバイオ燃料にやられて燃料漏れを起こすケースが多発している。
横から見た図。本体は上下2分割構造で樹脂製パッキンが存在するが、これもバイオ燃料によるダメージを受ける。「燃圧は6.5kg/cm2。燃料が漏れたらどれくらいの勢いで噴き出すか、想像しただけでも恐ろしいだろ?」と皆口さん。
冷間時や加速時の燃料増量、燃料カットなどを行なう電子制御部。黒い樹脂製のユニットがポンプ本体側面にボルト留めされるが、ここからも燃料漏れを起こすことが確認されている。

もう一つ、バイオETBEを“1%以上配合”という表現も曲者。これは3%でも5%でも10%でもOKと解釈できるから。エタノール濃度が上がれば、未対策車に対する攻撃性はさらに高まるわけ。となると、とくに趣味で旧車を楽しんでる人達にとっては死活問題だろ。

ちなみに、欧州のガソリンにはバイオETBEがすでに20%も入っていて、近い将来、日本でもそうなる。それが分かってるんだから、「今からみんなで対策を考えとかないとマズイんじゃないの?」って思うね。

えちごやで何年も使っている燃料携行缶。これまで全く問題なかった樹脂製ノズルが数ヵ月前に割れてしまった。皆口さんいわく、「原因は間違いなくバイオ燃料だろ。これと同じことがクルマの燃料ラインでも起こると思うと怖いよな」。

もう一つ付け加えると、国内全体のガソリン消費量は年々減少傾向にあるんだけど、配合されるバイオ成分は毎年増やしていくことが国の既定路線。つまり、年を追うごとに未対策車は厳しい状況に追い込まれることになるのよ。

遡ると、1997年に日本も採択した環境問題に関する京都議定書。すでにその時点でクルマを取り巻く世界の流れは、大枠としてEV化に向かうことが謳われていたんだ。その動きが、ここ数年で明らかに目に見えるようになってきた。バイオ燃料が急速に一般化してきたのも、その一環だろうな。

空気の添加剤と言えるHONEC(手前)と、テスト中の燃料添加剤(奥)。HONEC赤はレスポンス重視、青はパワー重視。燃料添加剤の色の濃さが違うのはテストのため配合を変えているからだ。併用によって燃焼効率を大幅に改善する。

EV化を進める上で邪魔になるのは、言うまでもなく旧態然とした内燃機関を搭載するクルマ。それを淘汰するにはバイオ燃料を導入するのが手っ取り早い。だって放っておけば、そのうち乗れなくなるんだから。今の日本で起きていることは、『国による合法的な旧車潰し』だと思っていいと思うよ。

そんな状況だけど、好きなクルマに乗り続けたいなら、指をくわえて見てるわけにいかんだろ。そこで現状を打破するため、オレは独自で燃料添加剤を開発したわけ。

小さな計量スプーンに盛られた黄色い粉末は燃料添加剤に配合される基剤(ベース成分)の一つ。高速走行が多い欧州のハイオクガソリンに使われるオクタンブースターで、日本のガソリンには入ってない。ガレージえちごやでは、こういった基剤を取り揃えて独自にブレンド。何種類もの試作品を作っては実走テストを行ない、確実に効果が得られたものを製品化するというプロセスを取る。

一番の狙いは燃焼の促進。燃えにくい今のガソリンを燃えやすくして燃焼効率を高める。それと副産物的に燃料ラインに対する優れた清浄効果も発揮する。この燃料添加剤は、すでに発売済みのHONEC(吸気添加剤)と相乗効果を発揮して燃焼効率を高めてくれる。


技術の進化に伴ってリプロパーツの普及が進むなど、旧車を取り巻く環境は改善されているようにも思える。しかしながら、クルマにとって最も重要な燃料が旧車を蝕む一因となっているのが現状。かつての有鉛ガソリンから無鉛ガソリンに切り替わった時とはまるで次元の違う、内燃機関にとって大変革の瞬間が今まさに訪れつつあるのだ。

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小さな計量スプーンに盛られた黄色い粉末は燃料添加剤に配合される基剤(ベース成分)の一つ。高速走行が多い欧州のハイオクガソリンに使われるオクタンブースターで、日本のガソリンには入ってない。ガレージえちごやでは、こういった基剤を取り揃えて独自にブレンド。何種類もの試作品を作っては実走テストを行ない、確実に効果が得られたものを製品化するというプロセスを取る。

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えちごやで何年も使っている燃料携行缶。これまで全く問題なかった樹脂製ノズルが数ヵ月前に割れてしまった。皆口さんいわく、「原因は間違いなくバイオ燃料だろ。これと同じことがクルマの燃料ラインでも起こると思うと怖いよな」。

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冷間時や加速時の燃料増量、燃料カットなどを行なう電子制御部。黒い樹脂製のユニットがポンプ本体側面にボルト留めされるが、ここからも燃料漏れを起こすことが確認されている。

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空気の添加剤と言えるHONEC(手前)と、テスト中の燃料添加剤(奥)。HONEC赤はレスポンス重視、青はパワー重視。燃料添加剤の色の濃さが違うのはテストのため配合を変えているからだ。併用によって燃焼効率を大幅に改善する。

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⚫︎REPORT:廣嶋健太郎
⚫︎取材協力:ガレージえちごや 愛知県一宮市北神明町2-30 TEL:0586-85-8954

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ガレージえちごや
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