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10ヶ月間のみ生産された希少な前期型Si
当時モノ無限パーツをふんだんに装着した贅沢仕様!
1983年に発売され、当初1.3Lと1.5Lで展開した初代CR-X。フロントフェンダーやフロント&ヘッドライトパネル、ドア外板などにABSとポリカーボネートの複合樹脂を採用したボディは1.5Lモデルで車重800kgと軽量に仕上げられ、わずか2200mmのホイールベースと併せて、屈指のハンドリング性能を持つFFスポーツとして人気を集めた。
1984年11月、そんな初代CR-Xに追加されたのが1.6L直4DOHCを搭載するSiだ。車重は860kgに増えたが、カタログ値で1.5Lを25ps、1.7kgm上回るZC型エンジンが劇的なパフォーマンスアップをもたらした。が、翌1985年9月にマイナーチェンジ。ヘッドライトが固定式に改められたため、俗に“半目”と呼ばれるセミリトラクタブル式ヘッドライト採用の前期型Siは、たった10ヵ月しか生産されなかった。実働台数が極めて少ない、そんな激レアモデルのオーナーが土居さん。前オーナーが、ほぼ当時の無限製パーツで組み上げた個体を1年前に譲り受けた。
「ただ、しばらく放置されてたようで程度は良くなかったです。ボディはフロント周りのパネルが割れてましたし、燃料タンクの中も錆だらけ。レストアを兼ねて各部に手を入れ、乗れる状態にまで戻しました」。
エンジンは純正1.5mmオーバーサイズの76.5φピストンと強化コンロッド、専用ガスケットで構成される無限製キットで排気量を拡大した1650cc仕様。排気効率アップを狙い、エキマニとマフラーはフジツボ製に交換される。
足回りは、まずフロントトーションバーに無限の強化品をセット。
ダンパーはビルシュタインエルシュポルトを組み合わせ、リヤスプリングはノーマルながら、Cリングによる車高調整を可能としている。
ホイールは当時モノの無限CF48(15×6.0J+38)に195/50サイズのポテンザRE-71Rを履かせる。欠品のセンターキャップは土居さんが3Dプリンターで製作し、今後エアロカバーも予定。
フロントウインドウ下端から一段低められたダッシュボードがもたらす開放感は、この時代のホンダ車に共通する特長。ステアリングホイールはナルディクラシック360φに交換、シフトノブはFK8純正を流用することで操作性を向上させる。
エンジンはロングストローク型の恩恵か、2000~3000rpmのトルク感が満点。そのままアクセルペダルを踏めば、レッドゾーンが始まる7000rpmまでシャープに吹け上がる。
「中間トルクはEF8に積まれるB16A以上だと思いますよ」と助手席の明生さんが言う。アシストを持たないステアリングは据え切りが重い。ただし、タイヤが転がってさえいれば操作に困ることはない。確かにトルクステアやキックバックは強めだが、ダイレクト感に溢れたフィーリングが楽しく、走る気にさせてくれるのだ。発売から40年近くが経つ今でも、十分に通用する速さと、現行車には望めない痛快さ。こんなFFスポーツを世に送り出したホンダは、やはり凄いメーカーだったのだな…と思った次第だ。
TEXT&PHOTO:廣嶋健太郎(Kentaro HIROSHIMA)