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ひと味違う限定車。
希少車でありながら、必要に応じて各部のチューニングも実施!
1985年9月にマイナーチェンジが行なわれ、後期型に切り替わった初代CR-X。最も大きな変化は固定式ヘッドライトの採用で、パワートレインや足回りなど走りに関わる部分に変更はなかった。
ZC型エンジンを搭載したSiに話を限定すると、生産期間が10ヵ月しかなかった前期型に対して、後期型は2代目EF型が登場する1987年9月まで2年にわたって生産。当然、新車販売台数も多く、見かける機会がほとんどなくなったとは言っても、前期型Siに比べれば遭遇率は遥かに高い。
しかし、そんな後期型Siでも取材車両はやはり別格の存在。なぜなら、ホンダ製1.5L・V6ターボエンジンを載せたイギリスの名門チーム、ウィリアムズが1986年のF1GPでコンストラクターズチャンピオンを獲得し、それを記念して発売された限定400台の『F-1スペシャルエディション』だからだ。
「元々は先輩が持ってまして。昔、ボクはジムカーナをやってたんですけど、参戦車両を乗り替えるのにブランクができてしまったんで、急きょコレを借りて何戦か出たことがあるんです。それからしばらく経って譲ってもらったんですけどね」とはオーナーの渡部さん。
F-1スペシャルエディションは内外装を特別に仕立て上げたモデルで、エンジンやミッション、足回りなどはベースの後期型Siに準じた内容となる。
マニアならできるだけオリジナル状態を保とうとするだろうが、ジムカーナ参戦車両であったことから、ノーマルを維持しながらも必要と思われる箇所には手が加えられている。たとえ限定モデルでも、“戦うためのマシン”として付き合ってきたスタンスが格好良い。
DOHCで1気筒当たり吸気2、排気2の4バルブを持つZC。リフト量を稼ぐため、スイングアームを介してバルブが駆動される。ホンダとしてS800以来14年ぶりとなるDOHCエンジンのZC型は、ATシビックSiにも搭載された。
ステアリングホイールはF-1スペシャルエディションのロゴがセンターに入った専用品に代えてナルディクラシックを装着。それ以外、シフトノブも含めて室内はノーマル状態が保たれる。
サイド&ニーサポートが大きく張り出し、ホールド性を高めた形状こそ標準モデルと変わらないけど、表皮素材とカラーに加え、背もたれにはロゴが刺繍され、赤と青のラインも入る専用シート。
コイルオーバー化が図られたフロントサス。純正トーションバーを残したツインスプリング仕様となる。コイルスプリングのレートは3kg/mm。ヘルパースプリング追加でリバンプストロークを確保する。
大きな開口面積を誇る電動サンルーフ。通常ルーフパネルとインナートリムの間に格納されるけど、そのスペースがなくアウタースライド式となるのが特徴。ルーフを開けた時のスタイリングも個性的だ。
「もう部品がないので維持してくのも大変ですよ。先日も大雨が降った翌日確認したら、盛大に雨漏りしてましたし。直ったはずだったんだけどなぁ」。
でも、そう話してくれる渡部さんに悲壮感はまるでない。むしろ、そんな状況さえも楽しんでいるような口ぶりだ。世代によって受け取る感覚は違うだろうけど、確実に言えるのは、「1980年代のクルマはもう立派な旧車」ということ。それと長く付き合っていくには、細かいことに拘らない器の大きさが大事だと、渡部さんの話を聞きながら思った次第。