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コンセプトは買い出しからサーキットまでこなせる“持続型遊びクルマ”
その実態は他車種流用やワンオフパーツ満載のFF2ペダルスポーツマシン
ストリートチューン全盛の1980年代後半、船橋港クランクや筑波パープルラインといえば週末の夜になるとチューニングカーで埋め尽くされるほどの盛り上がりを見せていた関東の走り屋スポット。
腕自慢の猛者たちが各地からやってきていたが、その中でも一目置かれる存在となっていたのが、“競騎士(バトルナイト)”のステッカーを貼ったマシン。
千葉県を中心とした少数精鋭の走り屋チームで、今や世界的なポルシェチューナーとして知られるRWBの中井代表もステッカーを貼ることが許されたメンバーの一人。ここで紹介するNCP91ヴィッツRSは、そんな“競騎士”創始者が新たな遊びクルマとして作り上げた拘り満載のチューンドだ。
オーナーの名は廣野義之氏。通称「板前チューナー廣野」で知られ、過去にはシャンテRE、REや4A-G搭載のKP61、FJ20エンジン搭載の310サニー、NAフルチューンRB26搭載のBNR32などを乗り継いできた走って作れるチューニングフリーク。このNCP91は約4年前に、それまでのフルチューンRX-8から乗り替えたものだ。
「チューニングカーって維持費もバカにならないじゃない。昔の仲間もそれでクルマ遊びを辞めちゃった人が多いので、だったら安いクルマをベースに、足にもなってサーキットも走れるクルマを作ればずっとチューニングカーに乗れるはずだと思ってね。ちょうど知り合いがCVT用のLSD開発を始めたと聞いたので、なら面白そうだと思ってヴィッツを選んだんだ」。
こうして手に入れたのは、ディーラーに下取りで入庫した走行3万kmという極上のNCP91型ヴィッツRSのCVT車。早速、試作の2WAY機械式LSDとダウンサスを装着して走り出したが、やはりそれだけでは我慢できるはずもなく、さらなるチューニングを開始。こうして完成したのが、パッと見はノーマル風ながら、スペシャルパーツ満載のトータルチューニングカーだ。
徹底的に拘ったのは足回り。車高調はクスコベースのオリジナルセッティングで、フロントピロアッパーマウントはストローク確保のためのオフセットタイプとしている。純正のリヤはスタビレスだが、ブラケットを追加してジムニー用のスタビライザーを流用。リヤスプリングはID65の直巻がそのまま装着できるのもヴィッツの利点なのだとか。
ブレーキはフロントがGRヤリス用キャリパー、リヤがレクサスIS用キャリパーで、ローターはクラウン用を4穴加工して流用。17インチホイールの目一杯に収まるブレーキシステムが只者ではない雰囲気を漂わせている。
RSがベースとはいえ、元々は女性や老人向けの設計となっているヴィッツのスポーツ性向上にはボディの剛性アップも重要で、フロントメンバーには補強の追加、フロントフェンダー内には市販品にサポートを追加したボディブレースを装着。前後バンパー内にはC-HR用のボディダンパーも組み込む。
その他、サスペンションブッシュ類のフルピロ化による異音対策として、ドア、ボンネット、リヤゲート内には制振材やウェザーストリップを追加してひとクラス上の質感も獲得している。
パワー系にも注目のポイント満載で、1NZエンジンには英国の知人経由で入手したターボ用のハイカムの他、VVTソレノイドをフランス製の強化タイプに変更。スロットルは大径加工され、点火系はワンオフの強化コイル、燃料系はターボ用の大容量ポンプを装着。ECUはこうしたチューンに合わせた大分県のGTワークスによるスペシャルセッティング。
さらに、エスティマ用ケースにレクサスハイブリッド車用コイル/マグネットを組み込んだスペシャルなオルタネーターも、低フリクション化により低速トルクや加速力向上に威力を発揮しているとのこと。
また、どのクルマにも共通してオーナーの廣野氏が追求しているのが自分の体型と好みにピッタリとマッチするドライビングポジションだ。シートレールは極限までローポジション化をしてレカロのセミバケをインストールする。
純正ステアリングはパドルシフト一体式のため、ドライカーボンでパドルシフトをワンオフしてナルディを装着。ロングボスに合わせてドライカーボン製のウインカー延長レバーも追加している。シフトレバーはスーパードライミニ缶仕様として、さりげなく遊び心も演出だ。
こうして約4年をかけてようやく完成したヴィッツRSは、2ペダルのイージードライブで日頃の買い出しの足としての快適さと、休日にはホームコースのナリタモーターランドを楽しめる快速さを両立。そして、その楽しさをもっと多くの人と共有することを目指した次なるプロジェクトとして、現在計画しているのが足クルマ+αで遊べる走行会の開催だ。
走行会の日程や詳細は現在調整中だが、興味がある人はぜひ廣野氏のお店を尋ねて直接チェックしてみてほしい。そう「板前チューナー廣野」の世を忍ぶ仮の姿(!?)は、某有名グルメサイトでラーメン百名店に認定された「味処むさし野(千葉県松戸市)」の店主なのだ。和食の技術を生かしたラーメンと季節のご飯は、行列を並んでも食べる価値ありだ!
⚫︎取材協力:味処むさし野 千葉県松戸市松戸新田133-4