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ファン待望の新世代“S”がデビュー間近!
超絶レスポンスの300馬力仕様
クルマ好きの琴線をくすぐるSTI謹製のコンプリートカー。その歴史は、1988年のインプレッサ22B STI ver.から始まった。時代の流れに合わせて独自のチューニングを施した珠玉のスペシャルマシン達は、色褪せない輝きを保ち続けている。

そんなSTIコンプリートの頂点に位置するのが、エンジンや足回り、そしてボディまでトータルに手が入ったSシリーズだ。今回紹介するのは、その最新作。「ニュルブルクリンクレースカー直系2ペダルスポーツセダン」というコンセプトで開発され、今年の東京オートサロンで話題をさらったS210プロトタイプ(※プロトタイプとはいえ、スペック等はほぼ市販状態とのこと)である。

“ニュル直系”と聞くとハードな印象を持たれてしまうかもしれないが、むしろ逆だ。過酷なレースとして知られるニュル24時間レースは、単に速く走れるだけでは栄光は勝ち取れない。複数のドライバーがバトンを繋ぐために、誰もが安心して楽に運転できる懐の深さが求められる。それゆえ「誰がどこで乗っても意のままに操れる」ことを追求している。

エンジンはアクセルを踏んだ瞬間に反応するレスポンスを追求。専用インテークシステムや低背圧マフラーにより吸・排気効率を高めた上で、点火時期や過給圧制御などECUセッティングを最適化することで量産のFA24ターボから25ps上乗せ。最高出力は300psまで引き上げられた。
なお、S210プロトタイプに関しては「歴代Sシリーズ同様のエンジンバランス取りがなされていないのは何故か」という、ファンからの厳しい指摘も散見される。しかし、EJエンジン時代よりも格段に工業製品としての精度が高められたFAエンジンでは、もはやその作業は必要無いというから驚かされる。

また、今の時代、300psという数字だけ見ると、物足りなさを感じる人もいるかもしれない。もちろん、STIの技術力を持ってすればパワーを高めることなど容易だ。しかし、S210プロトタイプでは意のままに操れるクルマに仕上げるために、アクセルのツキの良さやリニアなトルクの立ち上がりを徹底重視。数字では現れない領域を煮詰め上げているというわけだ。

ミッションはSシリーズでは初となる2ペダルCVT。DCTに劣らぬ変速スピードを実現したSPT(スバルパフォーマンストランスミッション)のハード面はそのままに、TCU(トランスミッション・コントロール・ユニット)の制御データを変更している。
オートブリッピング機能も持ち合わせ、シフトダウン時にエンジン回転を自動で同調してくれる。ハンドルから手を放さずに瞬時に変速できるパドルシフトと、俊敏な吹け上がりを見せるエンジンのマッチングは最高だ。

クラッチ操作が必要になる3ペダルMTを否定するつもりはないが、楽に素早く、安全に速く走れるのはどちらかと言えば2ペダルに軍配が上がる。実際にニュル24時間のレース車両(SUBARU WRX NBR CHALLENGE)もパドルシフト仕様なのである。その開発ドライバーである佐々木孝太選手も、S210プロトタイプの変速フィーリングを絶賛していた。

ミッションフルードクーラーも備えており、スポーツ走行も許容する。またI、S、S♯の3つのドライブモードについてもS210専用プログラムを採用。Sモード時のAWD制御。コーナリング中はフロント側に伝達する駆動力を減らすことで、スムーズに曲がるようにチューンナップする。抵抗が少ないためノーズがグイグイと入る。

コーナリング性能を高めるアイテムとして注目したいのは、前後で形状が異なるフレキシブルパフォーマンスホイールだ。BBS製の専用設計となるこの鍛造ワンピースモデルは、フロントのアウターリムを低くすることでタイヤ側面(サイドウォール)を変形させ、タイヤの接地面積を拡大。対して、リヤのアウターリムを高くすることでサイドウォール剛性を高め応答性を向上。タイヤの接地を促すという。

電子制御ダンパーも専用スペックだ。STIコンプリートの定番アイテムと言えるフレキシブル補剛パーツや専用ブッシュ、専用サブフレームボルト等により、剛性バランスも整えられた。さらに、湾曲形状タイロッドエンドの採用など、一体感のある走りを実現するために投入された専用パーツは枚挙にいとまがないほど。

フロントブレーキはブレンボ製6ポットキャリパー&ドリルドローターを組み合わせる。ペダルを踏み込んだ分だけ制動力がリニアに立ち上がるコントロール性を重視し、電動ブレーキブースターのアシスト特性まで専用チューンしているというから恐れ入る。タイヤはミシュラン製の19インチを採用する。


インテリアにもSTIの拘りが満載だ。トピックは、やはり運転席と助手席に採用されたレカロ製のカーボンバックレストシートだろう。身体を包み込むような形状となっており、高いホールド性を実現しながら長距離ドライブ時も疲れにくい。しかも8ウェイの電動調整機能&シートヒーター付きだ。



黒を基調にしたインテリアは、挿し色に赤を入れることで統一感をアップ。レザーやスウェード生地を使い分けるなど、高級感のある雰囲気に。ステアリングコラムやダッシュボード上には、S210のロゴが入るスペシャル仕立てだ。

エクステリアも専用パーツが目白押しである。WRX S4 STI Sport♯ではオプション設定だったエアロパーツ(フロントアンダースポイラー、サイドアンダースポイラー、リヤサイドアンダースポイラー、リヤアンダースポイラー)は標準装備となる。

前後フェンダーは、サイドガーニッシュを装備することで片側10mm拡大。アーチ周辺に突起を付けたようなフレア形状となり、タイヤハウス内に滞留する空気を積極的に引き出す。CAE解析ではフロントで20%、リアで30%程度のリフト低減が確認できたとか。その侮れない効果は、佐々木孝太選手と共にニュル24時間レースを闘った久保凜太郎選手も太鼓判を押すほどだ。

翼端板一体デザインとなるドライカーボン製のGTウイングも標準装備となる。リヤのダウンフォースを効果的に引き出せるこちらのアイテム。参考までに、オプションパーツとして購入すると47万9160円という高価なアイテムだ。


…と、駆け足でクルマの紹介をしてきたが、肝心の走りはどうか? 今回はベースとなるWRX S4 STI Sport R EXとS210プロトタイプの比較もできた。とはいえ、直前に試乗したSport R EXのデキがすこぶる良かっただけに、平凡な運転スキルしか持ち合わせていない筆者にその違いが分かるのか? と不安があったのも確かだ。
さらに本音を言えば、2ペダルCVTや電子制御サスにも抵抗があった。クルマに乗らされているような感覚があるのでは?と、斜に構えてS210プロトタイプのコクピットに収まった。

しかし、いざ走り出してみると、そんな考えは一気に吹き飛んだ。一言で、楽しすぎる! 滑りやすいウエット路面なのに接地感が薄れる気配もなく、グイグイと曲がるし、どんどんアクセルを踏んでいける。あまりに思い通りに走ってくれるので、自分が上手くなったのではと錯覚してしまうほど! 3つのモードを切り替えると、キャラクターがガラリと変わるのも好印象だ。
エンジンを含めたクルマの反応は凄いシャープなのに、決してレーシー過ぎることもない。上質ささえ感じさせるその走りに、思わずニヤけてしまう。パドルシフトの切れ味も最高で、スポーツカーはMTじゃないと…という固定概念が根底から覆された。というか、これだけのパフォーマンスを手漕ぎで上手く支配できるほどのスキルを持ち合わせている人は、一体どれだけいるのだろうか? これも2ペダルである理由なのかと納得ができた。

ちなみに、今回はV-OPTの取材で来ていたターザン山田が駆るS210プロトタイプに同乗させてもらう機会も得た。そのクレイジーなドライビングを目の当たりにして、Sシリーズ最新作の恐ろしいポテンシャルをより実感。ハッキリ言って速すぎる! それでいて最新アイサイト付きなので、街中では快適にドライブできる。まさにどこを見てもスキなしだ。

「鉄道や飛行機と違い、クルマは自分で操縦する楽しみがあります。我々はその楽しさをお客様にぜひお届けしたいと、このコンプリートカーを製作しました。ニュルレースカーのノウハウを余すことなくフィードバックした懐の深い乗り味を、ぜひ味わっていただければと思います」と、STI開発副本部長の高瀬益夫さん。
というわけで内容盛り沢山、スバリストならずとも思わず欲しくなってしまうほどの魅力に溢れたSTI渾身のコンプリートカー、S210プロトタイプ。市販モデルは500台限定となっており、ボディカラーは5色を展開。サンライズイエローは50台限定となる。

スバル販売店に独自の調査をした所、気になる車両価格はベースのWRX S4 STI Sport R EX+340〜350万円(税抜き)とのこと。つまり、予想価格は800〜900万円だ。かなりの高価格帯となるが、装着パーツの充実度やその完成度の高さを考えると、それだけの価値は十分にあると断言できる。
これまでのSTIコンプリートを振り返ってみても、500台の受注枠はすぐに埋まってしまうことは必至だろう。なお、抽選エントリーは5月下旬に開始される予定。購入希望者は、まずはエントリーをお忘れなく!
TEXT:石川大輔(Daisuke Ishikawa)/PHOTO:平野陽(Akio Hirano)
●問い合わせ:スバルテクニカインターナショナル TEL:0422-33-7848
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