伝統と革新を融合させたイタリアンホイールの軌跡

ただの工場じゃない、そこは“走り”を形にするアトリエだった。

1971年、イタリア北東部ヴェネト州の町ロッサーノ・ヴェーネトで、シルヴァーノ・オゼッラドーレとピエトロ・ゼンという二人の職人の情熱から、OZは誕生した。

社名の「OZ」は、彼らの姓 Oselladore と Zen の頭文字に由来しており、創業当初から“職人技”と“モータースポーツの魂”を兼ね備えたホイール作りが志されていた。

OZが初めて手掛けたミニクーパー用ホイール。

最初に手掛けたのは、小さなMINI向けの10インチ軽合金ホイールだ。クルマ好きが集うガレージのような小さな工房から始まったが、品質とデザインへの拘りは当初から突出していた。翌1972年にはバイク用ホイールも展開し、わずか数年でその技術力は徐々に評価され始める。

1978年、イスナルド・カルタという投資家の支援を受け、OZは法人化され「OZ S.p.A.」として新たなステージに移行。1984年にはモータースポーツ部門「OZ Racing」が正式に設立され、レースの世界へと本格参入する。F1、WRC、インディカー、ル・マン、フォーミュラEといった数々のカテゴリーに挑み、1985年には早くもアルファロメオのF1マシンに採用された。

1990年代には、トヨタ・セリカGT-FOURとの協業を通じて、WRCの世界で名を轟かせる。とりわけ「ラリーレーシング」ホイールは、日本のチューニング&カスタム文化に大きな影響を与え、ラリースポーツとストリートカルチャーの融合を象徴する存在となった。

OZの特筆すべき点は、レース技術の市販ホイールへの応用だ。スーパーカー市場では、フェラーリ、ブガッティ、マセラティ、ランボルギーニ、アストンマーティン、マクラーレンなどの名だたるメーカーから純正採用され、その技術力と高いデザイン性は世界中のクルマ好きを魅了している。

あまり知られていないが、イタルデザインGT-R50の純正ホイールもOZ製である。

生産拠点を備えた本社は、現在イタリアのサン・マルティーノ・ディ・ルーパリに位置し、併設されたホイールミュージアムでは、創業以来の伝説的モデルやF1ホイールが展示されていた。職人による鋳造、鍛造技術と最先端の設計が融合するこの場所は、まさに「ホイールの聖地」とも言えるだろう。

ホイールのベースとなるアルミ合金を生成するための巨大な溶鉱炉。ホイールの仕様によって配合を変えながら、ベストな素材を生み出していく。
鋳造で成形されたリム部分を高温状態で回転させながらローラーで圧延し、金属の結晶構造を緻密化するフローフォーミングもかなり早い段階から市販ホイールに導入していたOZ。画像の設備は旧式のもので、現在は量産性に優れた最新スペックの設備をメインにメインに使用している。

OZの製造工場を訪れた時、まず驚いたのは、その“美しさ”だった。工場というより、まるで現代美術館のような佇まい。床は磨き込まれ、空間は明るく、整然とした機械たちが静かに、そして正確に動いている。製造の多くはフルオートメーション化されており、人の手は、ほんのわずかな“魂の注入”の場面にだけ現れる。大量生産の合理性と、イタリア職人の美学が共存する空間だ。

他のホイールメーカーとは雰囲気がまるで異なる、技術と芸術のハイブリッド。機械の動きすら無駄がなく、どこか“美しい”と感じさせる。鋳造から仕上げまでの工程が一貫して管理されるその様は、まるでひとつの作品が、静かに、しかし確実に生まれていくプロセスを見ているかのようだった。

この工場には、ただホイールを「作る」という以上の何かがある。それは、“機能美”という言葉では片付けられない、OZ独自の哲学が息づいた空間と言えるのかもしれない。

OZジャパン代表取締役社長の内山晶弘氏。

1989年には日本法人「OZジャパン」が設立され、浜松市に拠点を置いて日本市場への本格展開を開始。以後、日本のチューニング&カスタムカルチャーにおいても確固たる地位を築き、多くのファンから信頼を集めている。

そして2021年、OZは創業50周年を迎えた。その間に数え切れないほどのレース勝利と数々のデザイン賞を獲得しながらも、彼らのスローガン「Winning Style(勝つためのスタイル)」は、単なる言葉ではなく哲学として受け継がれている。

2026年にはF1へのホイール供給も再び開始されるそうで、50年先の未来に向けたOZの進撃がまた始まるのである。

●取材協力:オーゼットジャパン TEL:053-469-5011

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