SR換装で大会最軽量の1トン切りを実現

路面状況を問わないコントロール重視の足回り

D1GPでは、追走時に相手のあらゆる動きに即応できることが求められる。そのため、ハイグリップタイヤと大排気量ターボの組み合わせが主流となっている。そんななか、2025年シーズンでAE85を含めてもわずか2台のみとなったハチロク勢。その一人が、長年このシャシーにこだわり続けている田所選手だ。

田所選手がここまでハチロクを使い続けてこられた理由のひとつは、「エンジンに固執しなかったこと」だという。

「やっぱり4A-Gを積んだハチロクでドリフトするのは今でも楽しいし、好きです。でもD1GPで戦うには、4A-Gスーチャーやターボ、7A-Gターボ(350ps仕様)まで試したものの、周囲の進化に対してどうしてもパワーが足りませんでした」。

その転機となったのが2008年。13Bターボのロータリーエンジンに換装されたハチロクを入手したことをきっかけに、7A-Gハチロクから2ローター仕様へスイッチした。当時の印象を「トルク不足を感じる場面もあったけれど、乗った感触はとても良かった」と振り返る。

2014年には、話題性とパワーを見込んで3ローターの20Bターボにステップアップしたものの、度重なるエンジントラブルに嫌気がさして、2018年シーズン前に2JZ-GTEへとモーターチェンジ。このエンジンは3.1L仕様にGCG製タービンを装着し、約600psを発揮した。275幅のトーヨータイヤを履けた当時のレギュレーションもあって、車重1トンという軽さとの相性は良好だったという。

しかし、2019年から走行状態での車重が1275kg未満の車両には265以下のタイヤ幅制限が導入され、田所選手のハチロクは最大の影響を受けることとなる。タイヤのグリップが低下したことで、2JZのような大排気量エンジンのパワーが活かせず、フロントヘビーの弱点も強調される結果になった。

その後、選ばれたのが、VEヘッドを組み合わせたSR20DET改2.2Lというエンジン。軽量でトルクがあり、高回転まで安心して回せる──田所選手のハチロクにとって理想的なユニットだった。

ベースはS13用ブロックにSR20VEのヘッドを組み合わせたもの。VTECのような可変バルタイ機構を備えるVEヘッドにより、全域でトルクとレスポンスが向上。レブリミットは8500rpmに設定され、ロッカーアーム飛びの不安も解消されている。2024年にはタービンをG30-770にアップデートし、出力は最大670psに到達。BOSCH製の電スロを活かしたアンチラグも導入された。

このエンジンを搭載するにあたり、シルビア用のメンバーをハチロクにごと移植。VEヘッドを縦置きレイアウトにするためにボディ側を加工し、サージタンクとブレーキ/クラッチ系の干渉を防ぐため、オルガンペダル化とタンクのリサイズも実施。

冷却系では、オイルクーラーはフロントに残しつつ、ラジエターはトランクに移設。アリスト純正の大容量電動ファンにより、夏場でもウォータースプレーなしで安定した冷却性能を維持している。

足回りは、ゼグラス製ナックルのタイプ6を使用。50mmワイドとなるロワアーム&シルビアメンバーにより、動きは緩やかになるが、ナックルの設計によって素早く動かせるセットアップを構築。キャンバーの付きすぎを防ぐため、GX71用ストラットを流用し、フロントのみ4穴化。アッパーマウントはゼグラス製のオフセットタイプでキャンバーを最適化している。

リヤのホーシングはモーターフィックス製で、強化された7.5インチデフ仕様のニコイチ。軽量化とトレッド幅の最適化のため、エスティマ流用から純正サイズに戻された。リヤアームはカイパワー製で、ラテラルロッドの代わりにワットリンクを採用。等長リンクはあえて使用せず、リヤが突っ張らずスムーズにストロークする、コントロール重視の足回りに仕立てられている。

ホイールは20年近くサポートを受けているRSワタナベのRタイプを装着。17〜18インチへと拡充したラインナップとともに、このハチロクの進化も進んできた。2025年シーズンからは、チームメイトの岩井選手(FC3S)とともに、アンタレスタイヤへとスイッチしていく。

内装にはGTカーを参考に製作したオリジナルのダッシュボードを装備。TTI製のSR20用6速シーケンシャルはシフト位置も自然で、操作性は抜群だ。ブリッドのグラデーションをあしらったFRPドア内張りも、見た目にアクセントを加えている。

後席にはアキュサンプを設置し、始動時やドリフト中の油圧低下を防止。オイルラインに割り込ませるだけのシンプルな構成ながら、ドライサンプ的な効果を発揮し、信頼性の高いエンジンマネジメントを実現している。

このハチロクは、田所選手が2018年から使用しているボディで5台目。ジェイブラッドのフルエアロをまとい、バックパネルやテール部は後期型の純正形状をそのまま型取りして製作されたカーボンパーツを採用。ライト類は塗装とLEDテープで再現するという、こだわりのディテールも見どころだ。

約980kgという、D1GP車両唯一の1トン切りを達成したこのハチロクは、車体の軽さを武器に、メカニカルグリップに依存しない「コントロール性重視」の足回りに最適化されている。路面状況に左右されず、DOSSで安定した点数を狙えるマシンへと仕上がった。

2021年から始まったVEハチロクでの戦いも、いよいよ熟成のフェーズへ。2025年シーズンは、新たなタイヤブランド・アンタレスを迎え、FC3Sの岩井選手との旧車コンビでの共演も注目される。いま、田所ハチロクが反撃の時を迎える。

TEXT:Miro HASEGAWA (長谷川実路) /PHOTO:Miro HASEGAWA (長谷川実路) &Daisuke YAMAMOTO(山本大介)

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