アルコール燃料で1200馬力オーバーを実現!
最初に目指すのはセントラルでジャパンレコードの更新!
誕生から36年を経た今なお、第二世代GT-Rは日本のドラッグレースシーンで主役の座に君臨し続けている。シリーズ戦として開催されている「ドラフェス」でも、多くのGT-Rが激戦を繰り広げているが、一方で、近年はそのチューニングアプローチにやや停滞感が漂っている。
実際、GT-R(ストックボディ)による国内レコードは、10年前にガレージザウルスの“釜石R”が記録した「7秒905」のまま更新されていないのが現状だ。

「釜石Rが記録を出したのは、かつて存在したドラッグ専用コース“仙台ハイランド”です。現在の主戦場であるセントラルサーキットでも400m計測は可能ですが、周回用コースのため路面のグリップが限られており、当時のハイランドと同条件とは言えません。でも、だからといって諦めるのは悔しい。いまのチューニング技術や高性能パーツを使えば、セントラルでも記録を更新できるマシンを作れるはず。そう信じて、“国内最速”を狙うGT-Rの製作がスタートしたんです」。
そう語るのは、ドラッグレースの主催者としても活動する「ターゲット」の長尾さん。GT-Rへの情熱が高じ、競技自体の存続危機に危機感を持ち、自らレースの運営にまで関わるようになった人物だ。

この数年でGT-Rを取り巻く環境は大きく変化した。国内では価格高騰による“保存志向”が高まる一方、海外では依然としてチューニングベースとしての人気が高く、パーツ開発も急速に進化している。ドラッグの本場アメリカでは、アルコール燃料仕様で2500馬力級のGT-Rすら走りはじめている。
「日本では、ハイパワー対応のパーツが出揃っていません。HKSが900ps対応キットを出しているくらいで、それ以上を狙う姿勢が見えない。でも、自分は過去にプロ仕様GT-Rでアタックしていた経験とノウハウがある。世界中の優れたパーツを集めて、日本のチューナーの技術と意地を融合させ、世界に誇れる“日本一のチューンドR”を作りたいんです」
こうしてスタートしたのが、「ターゲット・竹沢Rプロジェクト」。まずはアルコール燃料仕様で1200psレベルを目指す。

すでにシェイクダウンを控えるマシンは、ダイナパックにて1200psオーバーを記録(スリップにより正確な数値は未計測)。ただし、これはあくまで参考値であり、実走行においてそのパワーをどう活かせるかは未知数。また、ボディやサスペンションのセットアップといった、制御のための工程もこれから進めていく。
「このGT-Rはお客様の車両なので、エンジンを壊さずに作り込む必要があります。まずはブーストを抑えてシェイクダウンし、何度か分解して細部を確認しながら煮詰めていきます。コントロールできる手応えがつかめたら、11月のドラフェスで本格的にアタックする予定です」。

なお、長尾さんにとって今回のGT-Rは「世界水準のマシン作り」に向けた“バージョン1”に過ぎない。すでに“バージョン3”まで構想が進んでおり、段階を踏んで理想のカタチを具現化していく計画だ。もちろん、ドライバーであるオーナーとの連携も重要な要素となる。


ベースとなるのは、ニスモ製「24U」ブロック。内部にセメントを充填し、剛性を強化。クランクはHKSステップ2を採用し、ピストン&コンロッドもHKS製で、排気量は2.8Lに拡大。タービンにはHKS GT75115BBシングルを組み合わせ、シェイクダウン時にはブースト2.4キロで1200psを記録。最大で3.5キロまで対応できるスペックだ。
「最近はアルミのビレットブロックも出てきましたが、“バージョン1”では国内メーカーのパーツを中心に組みました。まずはアルコール燃料の扱いに慣れることが目標。ニスモの新品ブロックも入手しやすくなり、以前のように痛んだ中古を無理に使う必要がなくなったのは助かりますね」。


今回の仕様の肝は、アルコール燃料を自在に制御できるフューエルテック製ECU。ドラッグ専用設計により精密な制御が可能で、実はターゲットが同社製品の正規代理店になった背景にも「アルコール燃料で挑戦したい」という想いがあったという。
これまでの経験では、ガソリン使用時のRB26は1100psあたりが限界だったが、アルコールなら燃焼効率と冷却効果に優れ、さらに高出力でも安定が見込める。壊さず、余裕を持って1200psを超えるのも夢ではない。

もうひとつの転換点は、マシニングセンターの導入だ。インマニやスロットルなど、これまでは既製品を組み合わせていたが、今では自社でビレットパーツを設計・製作できる体制が整い、レイアウトや効率を最適化した部品作りが可能に。
「妥協のないパーツ作りができるようになったのは大きな進歩。取り回しや効率も自分の理想どおりに仕上げられますから」。


インタークーラーは水冷式で、MISHIMOTOのコアを使用。ブロック直前に設置され、タンク類はターゲットによるビレット削り出し。ラジエターは軽量化を狙い、トラスト製の36系アルト用を採用している。

ドア内張りやウインドーステーなどのファブリケーションは、オーナーでありドライバーでもある竹沢さんの手によるもの。機能面はもちろん、細部の仕上げにも妥協はない。

「エンジンについては、現時点で自分ができることをすべて注ぎ込みました。ただし、車体の完成度はまだ発展途上。現在の車重は約1180kgですが、理想としてはここから150kgは削りたい。もちろんパワーで補うことも可能ですが、このままでは“7秒9の壁”を越えるのは厳しいと思っています。そういう意味でも、今回の“竹沢R”はあくまで“バージョン1”。これから“バージョン2”、そして“バージョン3”へと進化させていくつもりです」。

海外の進化に対し、出遅れ感のある日本のチューニングシーン。だが、だからこそ“再び盛り上げたい”という思いが、ターゲットを突き動かしている。その挑戦の先にあるのは、“日本が世界に誇るRB26”の最高スペック。今後の進化に、ぜひ注目してほしい。
⚫︎取材協力:ターゲット 愛知県一宮市春明中島52 TEL:0586-52-5810
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