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ナローボディに拘るフルチューンスペック
チタンの輝きが目を引く350馬力のFA20ターボユニット
時が経つのは早いもので、ZN6型のトヨタ86が発売されてから9年が経過した。北米ではサイオンFR-Sとしてデビューしたものの、途中サイオンブランド自体が消滅するという波乱が起きたことも記憶に新しい。
そんな86、もといサイオンFR-Sを2013年に新車で購入し、独特のアプローチでチューニングを楽しんでいるのが、カリフォルニア州パームスプリングスに住むフランケル・ビヤヌエバだ。
免許取得前の15歳の時からS13型240SXを父親と一緒にイジり倒し、クルマ作りのイロハをガレージで学んだと話すカーガイである。
タイムアタックやドリフトなど、サーキットでの走りも嗜むフランケル。FR-Sのチューニングも当初は足回りやホイールなど、自分が走りやすいセッティングを模索するところからスタートさせた。
一方でアメリカのカスタムシーンにおける86/FR-Sのトレンドといえば、ワイドボディやエアサスを備えた、いわゆる“映え”を意識したカスタマイズだ。それを逆にありきたりだと感じていたフランケルは、全く違う方法で個性を出せないかと思案した。
そして一足飛びでいきなりエンジンルームの作り込みに着手し、他に類のないターボセッティングを実現してみせたのである。細部を見ていく。
心臓部のFA20は、カリフォルニアのプロショップ“AMGフューエル&デザイン”による作品だ。JDLオート製の不等長ターボマニホールドを使用し、本来エアインテークボックスが備わる辺りにギャレットのGT2860RSタービンをマウント。
インタークーラーは前置き化し、各種パイピングはチタンパイプを使ってワンオフで製作した。チャージパイプとラジエターパイプの接続にはXRPのスーパーニッケル製クランプを、オイル、燃料、クーラント、バキュームの取り回しには同じくXRPのHS79ホースを採用するなど、まさに用と美を兼ね備えたエンジンルームを実現した。
ちなみにエアコンの取り回しもAMGフューエル&デザインのオリジナルで、バルクヘッドに備わるアダプターはビレット削り出しだ。
また、燃料系はECUチューナーのデリシャスチューニングがリリースしているフレックスフューエルキットを導入。エタノール混合燃料のE85とハイオクガソリンを兼用できるシステムを構築した。ポート噴射用インジェクターは700ccに増量され、最高出力はE85使用時で350psを実現している。
エクステリアは、イギリスのエアロメーカーであるHT Autosのフロントリップ、サイドスカート、リヤリップを備える他、トランクリッドにマウントするタイプのFive:AD製リヤウイングも装着。
ヘッドライトのハウジングにスモーク加工、リフレクターにイエロー反射加工を施して、オリジナリティを追求した。片側1本出しのマフラーはヴァイブラントのチタンエキゾーストで、テール口径は4インチだ。
ホイールはワークエモーションCR Kiwami(アメリカでは“極”の訳で“Ultimate”という商品名を使用)を装着。サイズは前後とも9.5J×18+30だ。組み合わせるタイヤはファルケンのオールシーズンタイヤで、サイズは235/40R18。
足回りはスタンス車高調を軸に構築。前後スプリングレートは8kg/mmだ。リヤのロワコントロールアームもスタンス製の調整式アームに交換し、キャンバー調整を行っている。エアサスで着地させるのが流行っているアメリカでは、むしろナローで硬派なツライチが新鮮に見えてしまう。
近々ロールケージを組む予定だというインテリアには、パーソナルのステアリング、ワークスベルのショートハブを装着。フランケルが副業として取り組むアパレルブランド“Rainset”のロゴを入れたカスタムシフトノブ、アルマイトレッドのリバースノブ、ビートラッシュのスピンターンドリフトノブなども備わる。
運転席左側のエアコンルーバーには、OBDポートからデータを読み取るP3製のマルチゲージベントを装着。
「自分はタイムアタックもするし、ドリフトもするけど、クルマをこうしたいっていうイメージを具現化することにもやり甲斐を感じるんだ。しょっちゅうカーミートやトラックイベントが開かれる西海岸のカーカルチャーでは、高度な技術を持ったプロとの関係性を築きやすいのもありがたいね」と、フランケルは語る。
見た目の派手さやパワーの大小だけでなく、「審美的であるか否か」というベクトルも重視するフランケル。FR-Sは、そんな彼の価値観を映した鏡のような存在なのである。
PHOTO:Akio HIRANO/TEXT:Hideo KOBAYASHI