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1980年代初頭の東名レースにはじまり、第三京浜、首都高、湾岸と深夜のストリートで最前線を走り続けてきたミッドナイトポルシェ。同時に、谷田部高速周回路における最高速トライアルでは幾度となくOPTION総帥の稲田大二郎がステアリングを握り、340km/hオーバーを目指してアタックを繰り返してきた。チューニングを担当したのは、なんとドイツのポルシェ本社。ワークスチューンが施された最高速マシンのディテールに迫る。(OPTION誌 2011年1月号より)
最高速オーバー340キロを可能にした驚異の戦闘力に迫る!
知られざるミッドナイトポルシェのマシンメイキングを全公開
ボアφ98.0、ストローク74.4mmで、排気量が約100cc拡大された930-65型エンジンは、最大ブースト1.1キロに610ps/71.5kgmを発生。現地テストでは4速7200rpmで340km/hをマークした。インタークーラーはノーマルの3倍以上の容量を持つレース用で、その下に見える大型ファンがフロア下面の空気を強制的に吸い出し、空冷シリンダーを冷却する。
鍛造ピストンはマーレー。チタンコンロッド、カムシャフト、935用バルブスプリング、EXマニ、ウエストゲートなどはポルシェAG社製のレース用が組み込まれている。
ノーマルのKKK製3LDZに代えて装着されたK33Sタービン。これは、ポルシェのレーシングマシン934/935に使われていたパーツそのものだという。935用EXマニを介して、リヤパネルぎりぎりにセットされた様子が圧巻だ。
ポルシェの刻印が入ったウエストゲートもレース用。センターコンソールに設けられた機械式VVCによってブースト圧をコントロールする。
燃焼効率アップのため、ツインプラグ化が図られたレース用シリンダーヘッド。ノーマルではエンジンルーム側からしかプラグを確認できないが、エンジン下側にもプラグがあるのがその証になる。また、シリンダーブロック各部が面取りされているのも特徴だ。
キャブからインジェクションへの過渡期に見られた機械式燃料供給装置、ボッシュ製Kジェトロニックを採用。中身はポルシェAG社によるワンオフ品だ。その左奥に見えるのがエアインテーク。右奥にはツインイグニッションのため、イグニッションコイルがふたつ並べてセットされる。
クラッチ&フライホイールはグループCカーのポルシェ956用を流用。ポルシェAG社製の4速クロスミッションは、ノーマルに対して2〜3速のギヤ比をクロスさせると同時にファイナル比を4.2から4.0へと低め、レブリミットまで回してシフトアップすると5000rpmで上のギヤに繋がるようにセッティング。燃調が濃いため4000〜5000rpmでどうしても出てしまう“加速の息つき”を回避している。
左リヤホイールハウス内にはミッションオイルクーラーがセットされる。オーバー300km/hの領域でもミッションオイルの油温上昇を最小限に食い止め、ミッショントラブルを防ぐための策だ。
ダンパーユニットはビルシュタインをベースとしたポルシェAG社製の車高調整式。ノーマルスプリングは前後ともトーションバー式だが、それを生かしたままコイルオーバー化も図られている。トーションバーとコイルスプリングのバランスを取るため、セッティングには長い時間を費やしたという。
十分な制動力とコントロール性を発揮するため、キャリパーは前後ともノーマルのまま。これにパジッド製ブレーキパッドが組み合わされる。また、フロントブレーキには冷却用ダクトも追加されている。
メーターパネル中央のタコメーターは、レッドゾーンが7500rpmからはじまるワンオフ品。その右の350km/hフルスケールとされたスピードメーターは、グループBマシンとして開発されたポルシェ959用だ。オフセットされたそれぞれのメーターが、最高速マシンであることを物語る。ダッシュパネル中央部に装着された追加メーターは、排気温計と吸気温計だ。
形状はポルシェ959と同じながら、ドライカーボンシェルによって超軽量に仕上げられたポルシェAG社製フルバケットシート。元々の内装色に合わせて、シート表皮は白の本革とされている。6点式+斜行バーのロールケージは、ポルシェのレースマシンにも使われるマター社製だ。
フォグランプをビルトインし、ブレーキ冷却用ダクトがもうけられたミッドナイトポルシェワークスオリジナルのフロントバンパースポイラーを装着。リップ部を延長し、高速域でのダウンフォースが得られる形状とされている。中央の開口部の奥には、大型のエンジンオイルクーラーをセット。
パンクしてもタイヤがリムから外れることなく、80km/hで200kmの走行が可能なデンロックシステムを採用。市販車ではポルシェ959のみに装備され、956や962CなどのグループCカーからフィードバックされたダンロップが特許を持つシステムだ。
リヤクォーターガラスに代えて、エンジンルーム内に走行風を取り込むエアダクトを装着。これもポルシェAG社の手によるもので、ボディ色と同じカラーに塗装される。
OPTION誌の創刊直後から誌面を賑わせ、数多くの伝説を作り上げたミッドナイトポルシェ。全盛期はこの1台だけのために谷田部を貸し切ってのテストが行われたほど。単純な性能だけで言えば、最新型のマシンには劣る。しかし“本物”に漂う「オーラ」という点においては、このクルマは未だに一級品だ。