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全米を代表するトップドリフターの野心作!
贅肉を削ぎ落とした軽量ボディも注目だ
2021年に開催されたSEMAの“Mobil 1”ブースで、一際注目を浴びていた一台のGRスープラ。製作したのは、フォーミュラDで活躍するレーシングドライバー“ライアン・トゥーク(Ryan Tuerck)”。かつて、フェラーリ458のV8エンジンをトヨタ86にスワップして話題をさらった人物だ。
漆黒のカーボンボディにロティフォームのセンターロックホイールと、見た目だけでもインパクトは絶大。だが、最大のトピックは何といってもエンジンである。
「ジョージ(ゲオルグ)・プラサという有名なヒルクライムレーサーがいるんですが、彼がカッ飛ばしていたジャッドV8搭載のBMWにインスパイアされたのが全てのはじまりです」とはライアン。
彼が口にした『ジャッド』とは、ジョン・ジャッドとジャック・ブラバムが1971年に設立した『エンジン・ディベロップメンツ・リミテッド』のブランド名。言わずと知れた、イギリスの名門レーシングエンジンコンストラクターだ。
ライアンはそんなジャッドの「GV4L」という72度のバンク角を持つV型10気筒エンジンを手に入れるや、ハコ車のGRスープラに搭載するという、またもやセンセーショナルなエンジンスワップを実現したというわけだ。
ちなみに、GV4LはNAながら最高出力750ps、有効回転数1万1000rpmというF1直系のモンスターユニット。2JZに比べて100kg近く軽い重量(2JZ-GTE:約230kg/GV4L:145kg)も大きな武器だ。
インコネル製のEXマニとチタン製のエキゾーストは、メインビルダーであるドミニク・ビロの手によるもの。
ホリンジャーの6速シーケンシャルから伝わる動力は、カスタムメイドされた96φのカーボン製プロペラシャフトで伝達。車両重量はなんと約1143kgまでダイエットさせている。シャシダイで実測した最高出力は640psとカタログ値には及ばないが、それでもパワーウェイトレシオはレクサスLFAを凌ぐ1.785kg/psと驚異的だ。
燃料は100オクタンのレースガスを使用し、ラディウムのコレクター内蔵フューエルタンクはワンオフのリヤフレームにマウントする。GV4L純正のオルタネーターは30Aと容量が小さいため、デフの隣にベルト駆動のオルタネーターを追加した。
エクステリアは、HGKのキットでフル武装。前後バンパーやボンネット、ドアパネル、ワイドフェンダーなどは全てドライカーボン製で、大幅な軽量化に貢献している。最終的には、ディフューザーやウイングなどのエアロパッケージを装着して完成とする予定だ。
ホイールはロティフォームのNGOというモデルで、センターロックを採用。タイヤはニットーのNT01でフロント305/35R18、リヤ315/35R18を組み合わせる。ワイドボディに対応すべく、アーム類はワイズファブのキットで構築。車高調はBCレーシング製だ。
コクピットは贅肉を削ぎ落としたレーシングカーらしいメイキングだ。モーテックのM150とPDM30、カラーディスプレイロガーを使用し、チルトンのペダルアッセンブリーでドライブ・バイ・ワイヤーを実現。ダッシュボードやセンターコンソール、バケットシートは全てHGKのドライカーボンスペシャルだ。
室内を覆い尽くすロールケージは、冷間引抜鋼材をベンダーで曲げて製作した完全オリジナル。強度面や重量などに拘りつつ、見た目のスタイリッシュさも追求している。
「SEMAの後にシェイクダウンも完了して、後は空力デバイスとセッティングが完成すれば、いよいよ本格的に走らせていく予定です。目的はドリフトではなくタイムアタック! このフォーミュラスープラがどんな走りをするか自分もワクワクしています(笑)」。
いちドライバーであり、いちビルダーでもあるライアン。何をやりだすかわからないこの男からは、当分目が離せそうにない。
PHOTO:Akio HIRANO/TEXT:Hideo KOBAYASHI