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日本が誇るトップレーサーたちが峠を全開アタックする無謀企画!
サーキットを気軽に走れる時代ではなかったからこその特集
80年代後半…、AE86のドリフト使いとして人気の某レーシングドライバーが、とある事件を起こした。一般道をドリフトで攻める雑誌記事や動画がJAFのお偉方の気に触り(?)、「ライセンス剥奪!」と大騒ぎになったのである。
交通法規に違反しているからか、若者に悪影響を与えるからか、プロレーサーとしての自覚を促すものだったのか…。とにかく当時、嘆願書だの何だのとバタバタした時期があったのだ。
そんな騒ぎの7~8年前。なんと! 誰もが認めるトップレーサー「星野一義」「松本恵二」「片山義美」の3選手が、峠をフルカウンターで攻める写真とともに、ドライビングテクニックまで伝授する!という特集企画をOPTION誌は掲載していた。もちろん、JAFからは文句のひとつも出なかったのだが…。
「マルホランド・ラン(王者の道)」というハリウッド映画をご存知だろうか? ロサンゼルス・ビバリーヒルズにある、地元の走り屋たちに有名な峠「マルホランド」をステージに、ポルシェやコルベットがキレたバトルを繰り広げるという、今で言う頭文字Dのヤンキー実車版みたいなもの(!?)。1981年に制作・公開され、OPTION誌も大注目していた。
そこで、日本版のマルホランド・コースは何処だ!?と選んだのが、「箱根・ターンパイク」、「京都・東山ドライブウェイ将軍塚」、そして「神戸・表六甲ドライブウェイ」。これらのステージを、当時の日本のトップレーサーである前出の3選手が、図解とととに攻め方を紹介しているのだ。
早速、その内容をダイジェストで紹介していこう。
星野、片山、松本が日本版マルホランド・コースを攻めた!【OPTION 1981年8月号】
運転が上手くなりたい。人より速く走りたい。クルマ好きなら誰もが意識していることだ。その方法は、サーキットを走り込むことがベストだろう。しかし、OPTはあえて、日本の名だたるドライブコースをトライした。なぜか。過去の名レーサーや現役の一流レーサー達も、それぞれの道、いわばマルホランド・コースで練習してきた者が多いからだ。
日本全国を見渡せば、いくらでも走れる道が開けているのだ。無論、無茶な運転は禁物だが、ただドライブするだけでなく、真剣に走りの研究をしたいなら可能なコースがあるわけだ。事実、この現代のマルホランド・ランナーは意外と多い。なにも時代錯誤した過去の伝説ではないのである。現在も深夜、早朝と、自らのテクニックに磨きをかけようと努力している姿をいつも目撃することができる。オレたちも負けていられない。
箱根ターンパイク VS 星野一義(フェアレディ280Z・S130):7分12秒
「オレも人一倍、練習した。才能があったとは思わないが、好きで好きで一生懸命走った。この根性さえ続けば、レーサーへの道だって開ける」by 星野一義
箱根には大小のカーブが巧みにミックスしたスカイラインがある。が、推薦コースはやはりターンパイクだ。カー雑誌の試乗やメーカーの路上テストコースとして有名でもある。
しかし、「ターンパイクの上りは踏みっぱなしだ。でも、いくつかのポイントはあるから、練習できないことはない。ただ絶対、下りは危険だから飛ばしてはダメだ」(星野)。
コーナーは高速タイプでスピード感を養うのにベスト。フェアレディ280ZのAT車では2速レンジとDレンジを使い分けるが、MT車なら3速中心+4速の守備範囲だ。ただ、ターンパイクの特徴は距離がかなり長く、ハイスピードトライアルの持続性が要求されるコースと言っていい。ひとつのコーナーを速く走ることより、全コースをいかに気を抜かず、ハイ・アベで走れるかがキーポイント。これはレースにも通用するテクニックなのだ。
神戸・表六甲ドライブウェイ VS 片山義美(RX-7・SA22C):4分16秒
「天才的なドライバーもいる。そやけど、練習が一番や。今のトップレーサーも血のにじむような練習をしたもんや。そして、コツコツ走り込んでいくヤツが最後には勝つんや」by 片山義美
さすがに昔と違い、今や交通の激しい難所だ。ちょっと飛ばすと先行車に追いつくし、ブラインドコーナーばかりで対向車も多い。鬼の片山も「もう練習なんかできんわ」というが、日光いろは坂よりキツそうなツヅラ折れの連続は、走り屋には楽しささえある。絶対スピードが高くなく、1速、2速のパワースライドの練習には打ってつけだ。特にサバンナRX-7クラスの軽量スポーツには良い。ただ、走るのは下りではなく、上りにアタックしたい。急坂なのでスピードが高すぎてもアクセルを閉じるとすぐスピードがダウンする。止まるのも楽だ。
練習のコツとしては、なにしろクルマが多いので、一気に上まで走るのは控え、クルマがないときだけ、安全を確かめて、ひとつのコーナーずつ攻め込んでいくほうがベター。
六甲山には表六甲より裏六甲や奥再度ドライブウェイなどがあり、道幅は狭いがこちらのほうが走りやすそうだ。
京都・東山ドライブウェイ・将軍塚 VS 松本恵二(ポルシェ911S):24秒8
「いつもレーサーを夢見て、走っていた。それにはただ走るっていうんじゃなく、どうやれば速くなるか、真剣に考えなければ。その気があれば、走る場所はどこでもあるんだ」by 松本恵二
京都の東山ドライブウェイはテクニカルコースだ。小さいコーナーが多く、いわば筑波サーキット的。六甲山ほどクルマも多くない。松本曰く「昔は比叡山とかココを攻め込んだ。そやけど、もう走りにくいね」。ということで選んだのが、ドライブウェイの頂上から将軍塚の展望台に到る、わずか500mあまりの『短期集中コース』だ。わずか5コのコーナーでS字の連続。最後のコーナーがキツイ。が、スラロームの練習にはピッタリ。スピード的には速すぎず遅すぎずという点がいい。
ふと助手席からレーサーの表情を覗いた。そこには惜日のマルホランド・ランナーの顔を見た! 恐らく数々の思い出がコーナーの全てに刻み込まれているのだろう。その瞬間、オレ(Dai)も一生懸命、走り込んで、そのすべてを本格的サーキットで燃やすぞ!と思った。この気持ちを大切にしたい!
終わりに
センターラインなどお構いなし、本気の全開アタックである。
今では、毎日のように日本各地のサーキットで草レースやドリフト走行会が開催されている。が、この時代、サーキットでのアマチュアレース(スターティンググリッドからのヨーイドン!方式)は禁止されており、もちろんドリフト走行はほぼ全てのサーキットでNGだった。
ドライビングテクニックを磨くためには、リスクを承知で峠や埠頭を走るしかない。そんな時代が確かにあったのだ。
最後に。皆さんご存知のように、現在、星野一義さんはトップクラスのチーム監督としてスーパーGTシリーズなどでご活躍中です。しかし、松本恵二さんは2015年5月、65歳という若さで他界され、また、片山義美さんも2016年3月に75歳で他界されました。松本さん、片山さんのお二人に、OPTION誌面を飾っていただいたことに感謝し、心よりご冥福をお祈りいたします。【OPTION誌1981年8月号より】