「純国産4ローター搭載シルビア、発進!」まさにクルマ版の下町ロケット! 市販化前提でエキセントリックシャフトを独自開発

シルビアなのに全くそれらしくない排気音を轟かせるD1GP車両。製作したのは、栃木県の金属加工会社「宮精密」。搭載されるエンジンが4ローターなのはもちろんだが、その肝となるエキセントリックシャフト等は、検討を重ねて自社開発したものだというから驚かされる。異色のロータリーチューンド、そのスペックに迫る。

エキセンの精度は100分の2ミリ以下!?

D1GPに現れた神の音色を持つ新戦力

このS15シルビアでD1GPに参戦するドライバーであり、製作にも携わっているのは25歳の斎籐久史選手。デュアルファイナルズ(連戦)のTSUKUBA DRIFTにおいて、第4戦では初の追走進出を果たした。

斎籐選手は、父親が営む宮精密という栃木県の金属加工会社で働いている。車両も、かつてレースをやっていた父親とともに自社でチューニング・メンテナンスしているというのだ。

そんな斎藤選手が、軽いエンジンにしたいとS15シルビアに13B-REW型ロータリーエンジンを積んだのは3年ほど前。そのマシンでドリフトキングダムに参戦し、2019年には優勝もしながらシリーズ4位を獲得する躍進を見せた。

2020年秋にはそのマシンでD1GPに初参戦。そして今季、エンジンを4ローターに換装して筑波サーキットに現れた。

「3ローターへのステップアップは市販エンジンって事を考えるとつまらないかな、と。大変だけど4ローターを作って走らせてみたいと思ったんです」と斎籐選手は言う。

4ローターエンジンを製作する際、ハウジングやローターは13Bノーマルを流用できるが、エキセントリックシャフト(エキセン)は専用品が必要になる。通常はニュージーランド等の海外メーカーが販売している製品を使うのが定石なのだが、宮精密は自社でオリジナルのエキセンを開発してしまったのだ。

素材にはSCM435という粘りのあるクロモリ材を使用し、多くの特殊加工を行いながら苦心の末に100分の2ミリ以下の精度を実現したそうだが、物語は完全にクルマ板の下町ロケットである。なお、このエキセンは市販化の予定もあるそうだ。

ちなみにこのエンジン、まだ仕様は暫定だ。アペックスシールに純正加工3ピースを使っていることもあって、ブーストは1.0キロ(600ps前後)に制限している状態。今後はセラミックのアペックスシールを使って1.2〜1.3キロを掛け、レブリミットも現状の8500rpmから9000rpmまで高めていくとのこと。

ポート形状は配管が複雑化することを承知で、低回転からワイドな特性で使えるサイドポート仕様とした。ドリフトでは中間トルクも確保したいというのがその理由で、特に5000〜6000rpmを使うことを重視したパワー特性に仕上げている。

組み合わせるタービンはGCGのG42-1200。サイズ的にはまだまだ余裕があるが、エンジンが暫定仕様でフルパワーを狙える状態ではないため、インテークにメッシュをかけて吸入量を制限している。

スロットルはRX-8純正を2基掛けで使っている。1個では容量が足りないためだ。まず1個が先に開き、その後少しずつ2個目が開いていくシーケンシャル制御になっているのもポイント。フライバイワイヤーだからこその仕様だ。その他、インマニやサージタンク、EXマニ、フューエルデリバリーパイプ等は全てワンオフ品だ。

4ローター仕様に合わせたオイルパンは、アルミ削り出しでエンジンマウント付きのものをワンオフ製作。宮精密の技が光るスペシャルメイドだ。

コンピュータはスロットル2基を制御できるものとして高性能フルコンのLINKを使っているが、これはまだ借り物で暫定の状態。セッティングはフルブラストに依頼している。

足回りはDG-5車高調を軸にセットアップ。エンジンが重くなったため、フロントのスプリングは8kg/mmから12kg/mmに上げたそうだ。アーム類はフロントにワイズファブ製を、リヤにイケヤフォーミュラ製をそれぞれ導入する。

駆動系は、TTI製シーケンシャルドグミッション→GT-Rプロペラシャフト→ウインタース製クイックチェンジデフ→イケヤフォーミュラ製GT-R強化ドライブシャフトという構成だ。

室内はレギュレーションに準じた競技仕様となる。シートはブリッドのフルバケットシートを2脚、ロールケージは斎藤選手の自作だ。サイドブレーキは油圧式に変更されている。

一方のエクステリアはマチュア製のエアロパーツで武装し、ホイールにはSSRのGTX01をセット。タイヤはヴィツァーのテンペスタエンツォV-01R(265/35R18)だ。車重は約1250kgとのこと。

初の実戦で走らせた斎籐選手は「走る前は大丈夫かな? と思っていたけど、意外と悪くなかった(笑)。レスポンスはバイクのエンジンみたいです。ブーストが掛かってからレブに当たるまでずっとトルクが一定の感じで乗りやすい。全然ドッカンじゃないんです」と語る。

ドライバーの熱き想いと職人の技術力が絡み合って誕生した唯一無二のスーパーロータリーチューンド。今後のさらなる躍進に期待したい。

PHOTO:サンプロス/TEXT:斎藤精一郎


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