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生粋のGT-Rチューナー&ポルシェチューンの第一人者が語るエンジン論
かたや生粋のGT-Rチューナーにしてポルシェ964を所有する男、ザウルス林徳利。かたやポルシェチューンの第一人者にしてかつては国産車チューンで名を馳せた男、プロモデット小峰久雄。そんなふたりに語ってもらうGT-Rと空冷ポルシェのチューニング論。その論点は言わずもがなエンジンである。(OPTION誌2015年2月号より抜粋)
「ポルシェチューンがココまで進化したのは、その歴史の中にGT-Rというライバルがいたからだ。」小峰
「言うなればRB26は“デジタル”で、ポルシェの空冷は“アナログ”って感じがしますよ。」林
衝撃の空冷エンジン
林:若い世代は知らないかもしれないけど、プロモデットの小峰さんと言えば、かつてはL型チューンですごく有名な人だったんだよ。僕にとっても大先輩だし、今でも憧れの存在なんだ。
小峰:褒め過ぎ。そりゃ、俺は元々国産車好きだったからな。L型をやって、その流れでRB26もやったよ。気がついたらGT−R専門店になってた時期もある。いつからか、ポルシェ専門店になっちゃったんだけどな。
林:そもそも、どうしてポルシェをイジるようになったんですか?
小峰:う〜ん、たまたまだよ。他のショップとの付き合いの中で、964ターボをイジる機会があったんだ。もちろん過去にポルシェなんて触ったことも無かったから、見よう見まねでエンジンを降ろしてみたわけさ。で、ビックリよ。
林:僕も小峰さんに教わって、初めて自分の964の空冷エンジンを開けた時は衝撃的でした。
小峰:だろ? どんだけスゲー構造になってるのかと思いきや、まるで積み木みたいに単純構造のエンジンだからな。俺の第一印象はL型と2TGの合いの子。よくこんなエンジンで、あれだけのパフォーマンスを発揮できるなって正直驚いたね。同時にちゃんとした国産車チューナーなら誰にでもできると思った。
林:特にヘッドなんかはL型にソックリですよね。
小峰:L用の強化バルブスプリングがそのまま流用できるくらいだからな(笑) でもな、バラしたエンジンを前にして悟ったよ。ポルシェつったって所詮はクルマ、同じ内燃機関なんだってね。
間違った知識
林:国産車チューニングメインの人間にとって、当時ポルシェって言うとなんか『別格』のイメージがありましたよね。
小峰:昔は俺もそう思ってたよ。でも違った。例えばオーバーホール。空冷エンジンなら実は60万円くらい(取材当時)で出来ちゃうんだ。それこそRB26よりも安く済む。何かと迷信みたいなものが多いんだよ。俺がポルシェを始めた頃、空冷エンジンはオイル漏れや排気漏れが当たり前なんて言われていた。いや、未だにそう思ってる人が多いかな。でもな、俺から言わせてもらうとそれは『当たり前』なんかではなく、それまでのポルシェチューナーたちが『当たり前の対策をしていなかっただけ』だったんだ。
林:小峰さんの手掛けた空冷エンジンは、トラブルフリーで調子良いですもんね。
小峰:色々と試行錯誤して改善していったからな。結局、誰も教えてくれる人がいなかったから独学なんだよ。「どうして排気漏れするんだろ?」って考えて、自分なりに回答を探す。で、実際に試してみる。もちろん失敗も多かったけど、最終的にはオイル漏れや排気漏れなんか発生しないエンジンを作れるようになったんだ。その過程で、強化ヘッドボルトやシリンダーリングなどオリジナルパーツもドンドン生まれた。
林:小峰さんは何でも僕に教えてくれますけどね。
小峰:隠してもしょうがないっしょ。それに俺が身に付けた技術を広めていけば、ポルシェに対する偏ったイメージも変わっていくと思ったからさ。
背骨がシッカリしているポルシェ
林:僕は小峰さんのおかげでポルシェに対するイメージが180度変わりましたよ。『ポルシェの空冷エンジン=壊れやすい』という図式が完全に頭から消え去りましたもん。
小峰:空冷エンジンはRB26よりもある意味ガッチリしてると思うよ。だって、昔ゼロヨンで9秒出した964あったろ。アレって1000ps仕様のエンジンなんだけど、アタック時は3速9200rpmまで回ってたんだ。それでも未だにノントラブル&ノンオーバーホールだからな。
林:空冷エンジンの高い耐久性能は、やはりドライサンプというオイル供給方式を採用していることが重要なのかもしれませんね。あれは究極のシステムだと思いますよ。重心を下げられるというメリットよりも、ウエットサンプの3倍近い量のオイルを高い油圧で圧送できるわけだから、エンジンのストレスは少なくなる。それに車両姿勢や遠心力による油面の傾きもシャットアウトできますし。
小峰:それもあるけど、俺はクランク剛性が重要なんだと思うよ。直6のRB26はクランクが長い。だからどんなにバランスを取ってもブレが発生するんだよ。それがメタルにダメージを蓄積させていくんだ。一方、ポルシェは水平対向だからクランクの支持剛性が元々高い。クランク自体もフルカウンターで、しかも長さは直6に比べて半分だろ。事実、ピストンがかじったとしても、開けてみるとクランクが曲がっていることはまず無いんだ。オーバーホールしてもクランクやメタルは再使用できるケースがほとんどだからな。
林:背骨がしっかりしているから、ハイチューンにも耐えられるってわけですね。
小峰:エンジンの根幹を成す腰下の安定性では、ポルシェの方が一枚上手だよ。それが走りにも影響するんだ。例えば800psのGT-Rと600psのポルシェがあったとする。ワンラップ勝負のタイムアタックなら間違いなくGT-Rの方が上。でも、それが耐久レースになると逆転する。ポルシェが勝つんだよ。
林:それは分かります。RB26だと必ずタレてくる場面でも、ポルシェの空冷はMAXのポテンシャルをキープしてますから。
小峰:ビックリするよ。ウチはポッカ1000kmに出てたけど、120周走ってもラップタイムはほとんど変わらないんだよ。
共にバックボーンはレースフィールド
林:かたやグループAで勝つために生まれた純粋なレースエンジン。かたやル・マンなどで培ったレース技術をフィードバックして生まれたエンジン。ツインカムで4バルブのヘッドを持つ直6と、シングルカムで2バルブのヘッドを持つ水平対向では構造もシステムも全く違うけど、雰囲気は似てますよね。
小峰:確かに。メーカーの開発思想など、色々な背景を考えるとオーバーラップする部分があるよ。
林:あと、具体的に両方のエンジンを触って僕が感じたのは、RB26は“デジタル”でポルシェの空冷は“アナログ”ってことです。やっぱりRB26は精密機械のような部分が多いですから。一方ポルシェの空冷は大ざっぱというか、シンプル。
小峰:まぁ、俺は所詮アナログ人間だからな! 考えてみると、チューニングアプローチもそれぞれ全く異なるんだよ。RB26はどうやって線の細い部分を消していくか。ポルシェの空冷はどうやって高回転まで使えるようにするか。
林:でも、ポルシェって市販のチューニングパーツが少ないから大変ですよね。ほとんどワンオフばっかでしょ。その点RB26は星の数ほど市販パーツがある。ユーザーにとっても選択肢が多いですからね。
小峰:ポルシェは純正パーツでチューニングすることができるけどな。空冷エンジンにはNAとターボがあって、排気量も3.3L、3.6L、3.8Lなど、ボアストロークの違う同型エンジンがいくつもある。で、それらのエンジンパーツを上手く組み合わせていくことで、どんな仕様でも作れる。
ポルシェを特別視する時代の終わり
林:ぶっちゃけ小峰さんって、どっちのエンジンが好きなんですか?
小峰:ノーマル前提なら絶対RB26。ノーマルの空冷エンジンは最悪だもん。上まで回らないし、なにより遅い。でも、それがチューニング前提となると逆になる。空冷はイジってて、本当に楽しいんだよ。単純だからこそ腕の差が出るエンジンだからさ。
林:……。やっぱり小峰さんは根っからのアナログ人間ですよ(笑)
小峰:だからそう言っただろ! でもね、RB26DETTは間違いなく名機だと俺は思ってる。そしてそのエンジンを搭載するGT-Rというクルマの素晴らしさも理解しているよ。かつての谷田部にしろドラッグシーンにしろ、ポルシェチューンがココまで進化してきたのは、その歴史の中にGT-Rという強力なライバルがいたからなんだしさ。
林:最近になって強く感じるんですけど、ポルシェに興味を抱くGT-Rオーナーがドンドン増えてますよ。ポルシェを手掛ける国産チューナーも増えてきたし。『ポルシェを特別視する時代はもう終わり』なのかもしれない。
小峰:そうだな。こういった機会を通して、国産チューンドに乗っている子たちが、少しでもポルシェを身近に感じてくれると俺は嬉しいよ。
●取材協力:プロモデット 埼玉県越谷市川柳町3-106-1 TEL:048-986-6444/ガレージザウルス 埼玉県狭山市入間川 TEL:04-2968-9212
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