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熱エネルギーの蓄積&放射を繰り返すディスクローター
ブレーキングの根幹とも言える重要パートの基礎知識!
放熱性の高さや安定した制動力から、スポーツカーに積極採用されているディスクブレーキ。キャリパーによって押し出されたパッドを受け止めて摩擦を発生させているローターは、運動エネルギーを熱エネルギーに変換して制動力を発生させていくディスクブレーキシステムの根幹部分と呼べるものだ。
ブレーキチューニングで真っ先に挙げられるのは、スポーツタイプのブレーキパッドの投入だ。ただし、スポーツパッドで高めた制動力をしっかりと引き出すためには、その相方となるブレーキローターも見落とすことはできない。
そもそも、ディスクブレーキシステムはパッドとローターが接触して生じる摩擦力により、運動エネルギーを熱エネルギーへと変換して制動力に変えていく。つまり、摩擦によって生まれた熱エネルギーをダイレクトに受け止めて蓄積・放熱するのはローターであり、そのコンディションが悪ければ本来の性能を発揮できないわけだ。
冷却効果を高めるベンチレーション
ローターはソリッドとベンチレーテッドの2種類があり、スポーツカーの大半はローターに蓄積された熱エネルギーを効率よく放出するベンチレーテッドタイプを採用する。フィン形状はストレートタイプが主流となっていて、本数が多いほど剛性が高く、本数が少ないほど軽量となる。なお、ディクセルのスポーツローターは純正に準じた製品設計だ。
大半のローターは鋳鉄製
レーシングカーや一部のハイパフォーマンスカーではカーボン製も存在するが、スポーツローターは鋳鉄製が主流。鋳鉄にはFCやCV、ダクタイルなど数々の種類が存在するが、ブレーキローターに使われるのは加工しやすく熱ダレしにくいFCで、これをベースに各メーカーがカーボンやシリコンなどを独自配合して摩擦係数や耐熱性、耐摩耗性を高めている。
摩耗限界値はミニマムシックネスで確認
ローター側面には摩耗限界値が刻まれている。「MIN TH 17MM」という表記は、厚み17mmまでに交換という意味合いだ。スリット入りローターを使用しているなら、スリットの消えかけが摩耗限界値付近となるため、ローターの交換時期を判断しやすい。
高負荷へ対応させる熱処理加工
焼き入れと冷却を繰り返すことで金属粒子の結合を高め、高負荷時の制動力や強度、耐久性を引き上げていくのが熱処理加工だ。ディクセルではPD/SDタイプに熱処理を施したHD/HSタイプ以外に、カーボン含有量を20%増加させて熱処理時の結合を一層強化したFP/FS/FCタイプも用意。柔軟な表面硬度でパッドの食い付きも高めている。
熱害を緩和して軽量化も叶える2ピース
ベルハウジング部とローター本体をセパレート化した2ピースモデルは、ベルハウジングにアルミ製やジュラルミン製を採用することで軽量化し、さらにセパレート構造によりハブやホイールへの熱害を抑制する効果がある。フローティング化した2ピースの弊害として異音や振動が発生するケースもあるが、スプリング内蔵で対策しているモデルは数多い。
摩擦係数を引き上げるスリット加工
パッドと接触するローターの摺動面に刻まれるスリットは、制動力アップを目的にした加工だ。積極的にパッド表面を削っていく逆回転スリットは正回転スリットよりも高い摩擦係数を得られるのだが、当然ながらパッドの摩耗も進む。なお、スリットはブレーキング時に発生するガスやダストの排出効果も高めていくのだ。
初期から高い摩擦係数を発揮するカーブスリット
スリット加工をストレートではなくカープさせると、ブレーキング初期から高い摩擦係数が発揮できる。高い摩擦係数=パッドの摩耗となるが、ディクセルの社内データでは6本スリットと8本カーブスリットで摩耗特性に大きな違いはないとのこと。見た目のインパクトもあるため、カーブスリットの設定車種は積極的に投入したい。
ローター摩耗はフェードや制動力低下を招く
摺動面が荒れると摩擦係数が低下し、摩耗すれば熱容量が減少してフェードを招く。写真は限界領域を大幅に超えて摩耗したローターだが、このような状態では満足にブレーキ性能が発揮できない。ちなみに、片押しキャリパーはパッドと同様に目視しにくいローター裏面が摩耗しやすいため、定期的に摩耗具合をチェックしておこう。
「摩耗するのはブレーキパッドと思われがちですが、ブレーキをかけるとパッドだけでなくローターも削れます。変換した熱エネルギーを受け止めて放熱する能力は体積に左右されますから、パッド交換の2回に1度を目安にしてローターも定期交換しておきましょう。走行ステージや目的に合わせて、摩擦係数が高められるスリットローターやカーボン含有量の変更と熱処理によって、高負荷でも摩擦係数が低下しにくいスポーツローターをチョイスすると良いですよ」とは、ディクセルの金谷さん。
続けて、「ブレーキの踏み方や車重によっても変わりますが、年に数回サーキットを走る程度ならリーズナブルなPD/SDタイプでOK。なお、サーキット主体のユーザーさんの中には、高負荷に強いHSタイプやFSタイプを使わず、SDタイプで交換頻度を高めている方もいます。ローターが摩耗して体積が減少するとフェードしやすくなったり、クラックが生じたりするため、リーズナブルなモデルで常にコンディション良好な状態をキープしていく作戦ですね」と語ってくれた。
ちなみに、スポーツ走行をとことん楽しみたいなら、ローターに走行風を導くエアガイドやダクトホースも加えておきたい。というのも、ブレーキシステムで最も温度上昇するのがローターなので、積極的に冷やしていくと安定した制動力を引き出せるからだ。パッドやフルードだけに気を配るのではなく、ローターもしっかりとチューニングしてこそ頼もしい制動力を手に入れることができるということを理解していこう。
ブレーキフルードはどうやって選ぶ?
ブレーキペダルを踏み込んだ力をキャリパーのピストンへ伝える伝達役がブレーキフルードだが、構造的にブレーキングで発生した熱エネルギーの影響を受けやすい。フルードが沸騰すれば油圧ラインにエアが混入してブレーキフィールだけでなく制動力まで低下するため、走りを安心安全に楽しむなら沸点の高いフルードを使用するのがベストだ。
その選択で目安となるのがDOT規格。水分を含んでいない新品時のドライ沸点や水分を含んだウエット沸点、粘度によって、ブレーキフルードはアメリカの交通省が定めた規格に則ってDOT3/4/5/5.1と4つに区分されている。
粘度に関しては省くが、ドライ沸点230度以上/ウエット沸点155度以上をクリアしたフルードがDOT4、ドライ沸点260度以上/ウエット沸点180度以上をクリアしたフルードがDOT5.1となる。
どれを選べば良いのか悩ましいところだが、ストリート用ならドライ沸点260度以上、ウエット沸点180度以上をクリアしたDOT5.1を選ぶのが正攻法だ。シリコンを主成分としたDOT5は、吸湿性が高くストリートに不向きと認識されているが、DOT5.1はDOT4と同じグリコールを主成分としているため、吸湿性に関しては気にしなくていい。
スポーツ走行を重視するならDOT規格に縛られず、性能を突き詰めたレーシングフルードも選択肢のひとつ。高温域で安定した粘度が確保されてブレーキタッチの変化を抑制できる。
DOT4規格をクリアしつつ、ドライ沸点328度、ウエット沸点204度という高温耐性とカチッとしたブレーキフィールを誇るのがディクセルの『328レーシング』。レーシングフルードという位置付けだが、グリコールを主成分としているため、ストリートユースでも問題なく使える。スポーツ走行を積極的に楽しむユーザーはもちろんのこと、ストリートでもブレーキに負担をかけている重量級マシンは迷わず使用したいフルードだ。
いずれにしても、熱影響が及ぶブレーキフルードはエンジンオイルなどと同様に定期交換すべき油脂類だ。ストリート主体なら車検ごとに交換し、性能発揮に努めよう。
⚫︎取材協力:ディクセル
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