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1622psという驚異のパワーを麗しきタンジェリンボディに秘める
インテリアまで緻密に作り込まれたフルカスタムFD3S
90年代の後半、アメリカのドラッグレースシーンで下剋上を巻き起こしたのが、実は日本車。軽量な車体に極限までチューニングされた大馬力エンジンを積んだ日本車が、ゼロヨンで伝統的なマッスルカーを打ち負かす! そんな姿に多様なバックグランドを持つ国民達は熱狂した。
そんな時代にロータリー車のドライバー兼チューナーとして活躍し、現在も生きる伝説として語られるのがエイブル・イバラである。エイブルは当時、自ら製作したマツダR100(ファミリア・ロータリークーペ)で8秒66という驚異的なタイムを記録。インポート・ドラッグシーンの歴史に、その名を刻んだ。
そして、そのエイブルを兄に持ち、共にカリフォルニア州オンタリオでチューニングショップ「FRパフォーマンス」を経営しているのが、弟のエルビス・イバラだ。エルビスもまたチューナーとして腕を磨き、若き日は77年式のRX-3(サバンナ)でストリートレースに明け暮れたロータリー・ガイである。
そんなエルビスが20年以上の歳月をかけ、ホットロッドの要素をふんだんに盛り込んで作り上げたのが、1993年式のFD3S型RX-7。走行わずか2万マイル(約3万2000km)のフルノーマル車がベースだったが、それでもまず全バラにしてボルト1本から新調。ウインドウやモール、ゴムや灯火類も全て純正新品へと交換した結果、元のパーツで残ったのはクォーターパネルとルーフだけになったそうだ。
13B-REW型ロータリーエンジンには、軽量ハイコンプレッション加工を施したローター、3mm厚のセラミックアペックスシール、グラインド&熱処理加工を施したエキセントリックシャフトなどを採用。ギャレットの76mmタービンを搭載し、それをマウントするエキマニはもちろん、水冷式のインタークーラー、超大型サージタンク、インテークマニホールドなども、エルビスが自らワンオフで製作している。
なお、このエンジンは2003年に兄のエイブルが製作し、7秒01のタイムを実現したRX-7を模範にセッティング。その車両はツインターボで1419psを誇ったが、エルビスのRX-7はエタノール燃料の使用でそれを凌駕する1622psを発揮する。
ECUのセッティングとワイヤリングはモーテックのスペシャリストが現車合わせを行ない、ファニーカーのようなシャシーフレームをストックボディに合わせる作業は、テキサス州のハンセン・レースカーが担当。まさにレースカーそのものの製作手法だ。フロントバンパーの丸いダクトから吸ったフレッシュエアをタービン直前に導くパイピングも実現。
トランクルームに設けたカバーの下には、水冷式インタークーラーで使う氷水のタンクを仕込んである。
フロントに3.5J×15という細身のモテギ製鍛造ホイール、リヤに12J×15のビードロック付きボガーツ製鍛造ホイールを装着。ラム・コンポーネンツの前後カーボンブレーキと伸縮減衰調整式の車高調も備わる。
一方のリヤには、9インチのアクスルと共に構成されるオリジナルの4リンクサスを製作。極太のドラスリにしっかりと荷重を乗せるセッティングが施されている。また、リヤ後方にはエンジンのドライサンプに使用する別体のオイルタンクとブリーザータンクも配置。
インテリアは内装職人のロン・マンガスが担当。インパネ、センターコンソール、ドアトリム、ルーフライナーなどなど、全て上質なウルトラスエードで張り替え。カーボンケブラー製のフルバケットシートやトランクルームもボディカラーと共通したイメージでフルトリム化されている。
メーターにはモーテックのデジタルダッシュを採用し、ステアリングホイールにはその画面を切り替えるスイッチと、ラインロックを作動させるスイッチを設けた。ミッションはGフォース製5速シーケンシャルを合わせる。
FRPの前後フェンダーはフロントにスクープを、リヤにタイヤを収める膨らみをプラス。その上で、ペイント職人のディック・ヴェイルによる鮮やかな5層キャンディペイント、デニス・リックレフによるピンストライプが施された。本来はドア付けとなるミラーも、ワンオフでウインドウ付けに作り変えてある。
「うちで作ったRX-8のドラッグマシン(※20B型3ローター搭載のモンスター級ファニーカー)があるんだけど、それと同じ手法をストリートカーに落とし込んだイメージなんだ」と語るエルビス。
トラックを席巻できる実力を備えながら、うっとりするような美しさにも拘り、2015年にはホットロッドの権威あるショーであるグランドナショナルロードスターショーで、ファーストプレイスを獲得。FRパフォーマンスの名声を、レースシーンだけでなくカーショーの世界にも広げ、ロータリーチューナーとして新たな足跡を残したのである。
PHOTO:Akio HIRANO/TEXT:Hideo KOBAYASHI