「WRCファン感涙の超絶コンディションをキープ!」マニアが愛情を注ぐ2台のGC8型WRカーの詳細に迫る!

日進月歩の技術を後ろ盾にして絶え間なく続けられた改良の跡

GC8のWRカー、それも年式違いの2台を同時に取材できるという機会に恵まれた。1台は1998年式、プロドライブが「S5」と呼ぶモデルのグラベル仕様、もう1台がGC8ベースのWRカーとしては最後のモデルとなる2000年式「S6」のターマック仕様だ。

S5 Gravel Ver.【1998 Model】

S5は1997年にケネス・エリクソンがオーストラリアラリーに参戦し、1998年にはコリン・マクレーがスウェディッシュラリーを戦ったマシン。同年プライベーターがRACラリーで4位入賞を果たし、1999年にヨーロッパラリーチャンピオンが1年乗った後、アフリカに売却され、サファリラリー仕様へとリメイクされていた。

「朽ちかけていたボディだけを友人が買い、それを2014年に譲ってもらいました。その後、もう1台部品取りのWRカーを手に入れ、ボディを作り直してからパーツを移植。7年かけて走れる状態に仕上げました」とオーナーの山本さんが言う。

車体番号を記したコーションプレートは、スバルとプロドライブの2枚。S5は1997~1998年に34台が生産されているが、2枚のプレートから1997年生産の17号車ということが読み取れる。

クランクケース(シリンダーブロック)上面に打刻された“98 PD 30”というのがエンジンナンバー。1998年に組まれた30基目であることを示す。「各個体には車歴やオーナー歴を証明する“ゴールドパス”という書類が存在します。それと車両側の番号が合致していれば本物という証です」とオーナーの山本さん。

カーボンで成形されたダッシュボード。メータークラスター左側にはメーター表示切替&照度調整、データロガーON/OFF、ターマック仕様での水冷ブレーキ作動、右側には前後サスペンションの減衰力調整や前後デフのイニシャルトルク調整用スイッチなどが並ぶ。

メインメーターで各種情報を集中管理。ダイヤル切替によって8つの表示モードを任意に選択できる。背景が白くなるのは夜間モードで、見易さや瞬時の視認性を高めている。

後席部に設置されるのは硬質スポンジ製のヘルメットホルダー。競技車両で使われたこういったアイテムは破棄されてしまうケースが多く、綺麗な状態で残っているのは珍しい。

S6 Tarmac Ver.【2000 Model】

もう1台のS6は、フル公認ナンバー付きWRカーも所有する強者“GC8Kai”さんが所有。2000年第4戦ポルトガルラリーから投入された改良モデルで、前年モデルに対して重量物の集中マス化と前後重量配分の適正化、軽量化が図られていた。

2000年はユハ・カンクネンがWRC最終戦のラリーGBを戦い、翌2001年は前年APRC(アジアパシフィックラリー選手権)を制したポッサム・ボーンがラリーニュージーランドとラリーオーストラリアでドライブした、まさにその個体だ。

GC8Kaiさんが言う。「S6は13台が生産され、10台が現存しているようです。レジストレーションはWがワークス車、Xがプライベーター向けマシンになります。最近プロドライブがWRカーを買い戻す動きを見せてますけど、手放すオーナーはいないですよね」とのこと。

S5はフロントストラットタワー上部にコーションプレートが設けられていたが、S6は右フェンダー内側に装着。2000年に生産された13台のうち10号車であることが分かる。

インタークーラーとラジエターをVマウントする以外にもS5からの変更点は多数ある。その1つが電子制御スロットルの採用だ。事前に国内ラリーやダートラの実戦でテストを重ね、満を持してWRCに投入された。パドルシフトやアンチラグシステムを含め、より緻密な制御ができるようになった。

ダッシュパネルのデザインはS5と大きく変わらない。「S6は本来パドルシフトのみですが、この個体を手に入れたプライベーターがシフトレバーを追加したようです」とオーナーのGC8Kaiさん。また、ペダル類はS5の吊り下げ式からオルガン式に改められている。

セミATシステムはイギリスSHIFTEC社製を使用。パドルシフトはステアリングホイール右側に備わり、手前に引いてシフトアップ、前方に倒してシフトダウンを行なう2ウェイアクション式となる。また、センタートンネル後方にはパドルシフトを作動させるための小型エアコンプレッサーとバルブブロックが備わる。

助手席の足元に備わるカーボン製フットボード。コドライバーが操作できるよう、ホーン(クラクション)、ワイパー、ウォッシャーを作動させる足踏み式スイッチが装備される。その奥に見える黒いボックスがエンジン制御用ECUだ。

「W24 SRT」は当時のレジストレーションナンバー。この個体はポッサム・ボーンにとって、自らがドライブした最後のWRCマシンとなる。GC8Kaiさんいわく、「リヤウイングはハイマウントストップランプを内蔵したタイプ。2000年はレス仕様のリヤウイングだったので、ポッサムが乗った2001年に交換されたようですね」とのこと。

かつて世界を舞台に激闘を繰り広げてきた2台のWRカー。誕生から20年以上が経った今でも然るべきオーナーの下でその雄姿を保ち、圧倒的な存在感を放ち続けているのだ。

●取材協力:ヤマオカアイオン 岐阜県恵那市山岡町下手向1163 TEL:0573-56-3000

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