連載
自衛隊新戦力図鑑イギリスだけではない! 欧州艦隊の日本訪問
今回の日本訪問は、空母「プリンス・オブ・ウェールズ(以下、PWLS)」を中心とする空母打撃グループ(Carrier Strike Group 25:CGS25)による8カ月におよぶ長期展開作戦「ハイマスト」の一環として実現した。CSG25は、イギリス海軍の船だけでなく、ノルウェー、スペイン、カナダ、オーストラリアなどNATO諸国の艦艇も含んだ多国籍の戦闘部隊だ。

PWLSと同日、CSG25の一員である英駆逐艦「ドーントレス」と、ノルウェー海軍のフリゲート「ロアール・アムンセン」も横須賀に入港している。また、7月末には同じくCSG25に参加したスペイン海軍の「メンデス・ヌニェス」が横須賀と呉に寄港している。

スキージャンプ台からF-35B戦闘機を発艦
来日したPWLSとは、どのような空母なのだろうか? PWLSは「クィーン・エリザベス」級(QEC)空母の2番艦だ。QECは、「STOVL(短距離離陸・垂直着陸)」戦闘機のF-35Bを運用する空母で、今回の展開では空軍の第617飛行隊「ダム・バスターズ」と第809海軍飛行隊の、2個飛行隊24機が乗艦している。

特徴は艦首の傾斜した「スキージャンプ台」だろう。これは、前進方向のエネルギーの一部を垂直方向に変換することで離陸を助け、滑走距離の短縮や離陸重量の増加といった効果がある。イギリスは1970年代に垂直離着陸戦闘機「ハリアー」の艦上運用のためスキージャンプ台を考案し、インヴィンシブル級空母に実装している。つまり、スキージャンプ台はイギリスのお家芸なのだ。
スキージャンプ台は、基本的にSTOL(短距離離陸)戦闘機の運用を前提とした装備だ。この点でカタパルト(射出装置)のような複雑な発着艦補助装置によってCTOL(通常離陸)機を運用できるアメリカ空母より能力的には劣る。しかし、構造が単純なため建造費やライフサイクルコストは抑制できる。また、QECは改修によりカタパルトの搭載も可能なようで、実際、2023年にはカタパルト搭載構想が検討されている。

「侵略を許さない」という姿勢を示す
さて、イギリスはなぜ艦隊を遠く太平洋まで派遣したのだろうか? 背景には中国による恫喝的な海洋進出がある。ロシアによるウクライナ侵攻と同様に、既存の国際ルールを武力で変えてしまおうという動きに対して、イギリスやNATO諸国は警戒を強めており、日本を含めインド太平洋諸国との連携を強化したいと考えている。CSG25の展開にあたって、イギリスの国防大臣は「国際ルールに基づく秩序が我々にとって重要であるということを示す」と語っている。
また、多国間の連携を実現するためには、異なる部隊・戦力がともに戦う能力――「相互運用能力」が欠かせない。NATO諸国が一体となった部隊構成が、その一例だろう。また西太平洋上の訓練ではPWLS艦載のF-35Bが、海上自衛隊の護衛艦「かが」で発着艦する一幕もあった。英海軍は「インド太平洋地域において、日英がともに作戦展開できる能力があるのかを示したと言えるでしょう。現在、そして未来において」というパイロットの言葉を伝えている。


自衛隊新戦力図鑑 最新刊
【主な内容】
F-35B運用能力の獲得により「いずも」型護衛艦はどう変化したのか? 改修後の「かが」の姿を概観と内部の両方から考察し「空母化」の実態を分析する。
海上自衛隊は、その創設直後から航空機運用艦の獲得に向けて試行錯誤を続けてきた。戦後初の“空母”となった「いずも」型にいたる航空機搭載護衛艦の発展史を図解とともに解説する。
陸上自衛隊は「25式偵察警戒車」「24式機動120mm迫撃砲」や、長射程対艦ミサイル「12式地対艦誘導弾 能力向上型」、そして実質的な戦略兵器である「島嶼防衛用高速滑空弾」を公開。それぞれの能力や運用を解説。
陸上自衛隊の新型アサルトライフル「20式小銃」。以前の89式小銃と何が違うのか? 内部構造を踏まえて詳細に解説。さらに世界的な次世代アサルトライフル開発についても見ていく。
航空自衛隊は配備の進むF-35について、A型/B型それぞれの機能と違いについてイラストを交えて解説する。あわせて、F-2やF-15Jなど現在の主力戦闘機や航空自衛隊が直面する南西諸島の対領空侵犯措置の状況についても分析した。