タイの山道を舞台にした“リアルチューンドラリー!
タイの有名ビーチリゾート「パタヤ」の街中を、泥だらけのゴツいピックアップやSUVが列をなして走る。そんな非日常的な光景が繰り広げられたのは、2025年8月8日〜16日にかけて開催された『アジアクロスカントリーラリー2025(AXCR2025)』。
舗装もろくにされていない山道、赤土のオフロード、そして炎天下のパタヤ市街を舞台にした、まさに“合法キャノンボール”と呼ぶにふさわしい東南アジア最大級のクロスカントリーラリーである。

今年で30周年を迎えたAXCRは、タイムアタック区間とリエゾン(移動区間)を合わせて全長3200km超!(コース変更などで実際は短縮)。過酷なルートを駆け抜けるこの戦いを制するため、各チームのマシンに施されたチューニングがとにかく凄まじかった。
王者・三菱ラリーアート。勝利を導いた“経験の結晶”とは?

今年の総合優勝を掴み取ったのは、チーム三菱ラリーアートのチャヤポン・ヨーター/ピーラポン・ソムバットウォン組(112号車・ミツビシ トライトン)。ラリーアートとしての活動を復活してから3年、見事に頂点へと返り咲いた。


チーム総監督・増岡浩氏はこう語る。
「AXCRはとにかくタフなラリー。クルマもパーツも、そして人も鍛えられます。現地ディーラーのメカニックたちも参加しており、普段経験できない緊迫感の中で整備することが、彼らの大きな成長にも繋がるんです」。

マシンを覗いてみると、そこには“勝つための知恵と経験”がギッシリ。エンジンはHKSと共同開発し、耐久性と出力の両立を追求。サスペンションはクスコ製、ブレーキはエンドレス製など、国内のチューニングブランドがサポートしている。

「ホイール&タイヤをスムーズに装着できるようにハブセンター部に延長カラーを作って装着しています」と増岡総監督。競技の途中に行われる5分間というメンテナンスタイムで、いかに効率よく正確な作業ができるかを工夫しているというわけだ。

さらにリヤには片側2本のショックアブソーバーを装備し、走行中の衝撃を分散。フロントにはバンプラバー+補助ショックをセットし、底付き対策を施している。

また、インタークーラーのジョイント部は、一般的なシリコンホースではなく金属製ジョイントで固定。走行中の高温や衝撃にも耐えられる仕様だ。

「ハンドルを切った状態でダートを走ると、前輪が跳ね上げた石が後輪へ飛んでトラブルの原因になるので、フロア下にはラバー製のガードを追加しています。トップスピードは若干落ちますが、それ以上に信頼性の向上が大事なんです」とも。


そのほかにもフロントガラスを立木から守るための防御バーなど、険しい道のりを連想させる装備が盛りだくさん。リヤには予備のタイヤやジャッキ、ウインチなど、緊急時のための装備が積まれ、その姿はまさに“走る要塞”だ。
ボディ延長&トラック化した魔改造ジムニーは公認車両だった!

日本勢や日本車も数多く参戦しているAXCRで、ひときわ異彩を放っていたのが『PROPAK GEOLANDAR ASIAN RALLY TEAM』のジムニー。なんと、ボディを約30センチ延長し、荷台を備えた“ピックアップ化ジムニー”なのだ。


「荷物の積み下ろしをしやすくしつつ、走行安定性と車内の快適性を狙った改造です。ジムニーはフレームとボディに分かれるので、フレームを延長・補強し、ボディはBピラーを延長して溶接合体しています」と説明してくれたのは、車両製作に携わっている中央自動車大学校の小谷秀則副校長。
ちなみに、タイの一般公道を走行するこの競技に参加するためには、日本とタイの両方の車検を取得する必要があるため、このジムニーも日本で強度検査などをクリアした上で公認車検を取得しているとのことだ。


さらに今回は、女性ドライバー2組に加え、5名の学生メカニックがチームに帯同。「この経験が、彼らの人生の糧になれば」と語る小谷副校長の言葉には、教育者としての熱意が込められていた。
九州男児が挑む80ランクル、台湾チームのEV参戦も!


ピックアップ化ジムニーの隣ピットで存在感を放っていたのは「九州男児 Team Japan」。日本から持ち込んだ80ランクルでの参戦で“大会最古の車両”として現地でも熱視線を浴びていた。ドライバーの森川さんは10年ぶりに世界ラリーへ復帰し、3年計画の挑戦を見事完走!
「日本のラリーでは仮ナンバーで走る姿が見られますが、タイではナンバーを発行してもらえて文字列も選べるので、我々は『熊本』のKUにしています」と教えてくれた。


そして、こちらも注目を集めていた台湾チーム『i Taiwan』。なんと電気SUV『LUXGEN/FOXTRON n7 MODEL C』で参戦!厳しいコースはペナルティ覚悟でキャンセルしつつも、まずは“EVでラリー完走”という新時代のチャレンジを掲げていたようだ。
タイヤ選びはダートだけではなくリエゾンでの性能も重要!?


ダンロップ、BFグッドリッチなどいくつかのタイヤメーカーやブランドが見られたけれど、総合優勝したチーム三菱ラリーアートをはじめ、使用比率が高いと感じたのはヨコハマタイヤの『GEOLANDAR』シリーズ。

『CUSCO RACING』チームの番場 彬選手にお話を伺ってみたところ「今回はじめてM/T G003を使ったのですが、サイドウォールが強固だし、タイヤパターンもマット路面での掻き出し性能に優れていて、タイの険しい路面でも安心して走れました。リエゾン区間でもタイヤのパターンノイズが気になることはなかったし、ハンドリングも良好でしたね。ちなみに今回は雨で路面の状況がよくないということもあって、タイヤの面圧を上げるために細めのサイズを選びました」とのこと。
トラック仕様ジムニーを走らせていた中央自動車大学校の小谷副校長も「ジオランダーシリーズはダートの走破性はもちろん、リエゾンの舗装路を走行する区間も長いので、静粛性や走行安定性も重要なんですよね。実は学生と一緒にヨコハマタイヤの現地工場見学にも行かせてもらったんですが、クオリティはもちろん軽さなどにもこだわって製造されているということがわかりました」と教えてくれた。当然ながら、過酷な長距離ラリーを走り抜くためにはタイヤ選びも重要なのだ。
ゴールはバリハイ桟橋。灼熱と冒険の“夏フェス・ラリー”



ウォーキングストリートをスタートし、地元学校やリゾートホテルの敷地をピットとして使用。サトウキビ畑の中や農道を突き抜け、ゴールはパタヤの名所・バリハイ桟橋! 背後には「PATTAYA」サインが輝き、完走者たちの笑顔がまぶしかった。


過酷で、泥だらけで、でも最高に楽しい。真夏のタイで開催されたAXCR2025は、“大人の夏休み”にふさわしいアドベンチャーだった!

