フロントバンパー交換やリフトアップといった定番カスタムが難しくなる!?
2018年に鳴り物入りでデビューし、今でも販売に衰えが見えないスズキ「ジムニー」と「ジムニーシエラ」だが、ついに5型へと進化した。今回の変更点は主に安全装備面において。衝突被害軽減ブレーキシステムが「デュアルセンサーブレーキサポートII」に変更され、車線逸脱抑制機能などが追加されたのである。
ユーザーにとって歓迎なのは、4速ATと5速MTの両トランスミッションでACC(アダプティブクルーズコントロール)が使えるようになったことだ。4速ATのACCは全車速追従機能を備える充実仕様だが、5速MTにもACCが採用されたのはうれしいニュースだ。
これは2025年1月に発売された上位モデル「ジムニーノマド」を上回る機能ということになる。交通量の多い日本では歓迎すべき機能といえるだろう。5型への移行は11月4日からということになっているが、これは納車日が…ということではないのでご注意いただきたい。
ちなみに、運転支援システムには1:単眼カメラ+赤外線レーザーセンサー、2:ステレオカメラタイプ、3:単眼カメラ+ミリ波レーダーセンサーという3つの方式があり、それぞれで付帯機能が異なる。従来のジムニーとシエラには「1」、ノマドには「2」が採用され、クルーズコントロールの機能が異なっていた。
従来のジムニー/シエラが搭載していたのは、車速を設定したらそのままの速度で走り続けるオートクルーズ機能。それに対して、ノマドのクルーズコントロールは前車との車間距離をリニアに計測する機能を備えており、前車との距離が近づくと自動的に減速し、離れると設定した車間距離まで加速するアダプティブクルーズコントロール(ACC)を備える。
今回のマイナーチェンジにより、ジムニー/シエラの運転支援システムが「3」に変更されたことで、ノマドと同様の自動追従機能がようやく付加されたのである。
さらに最新のジムニー/シエラには、走行中に車線を外れそうになると自動でステアリングにトルクが働き、ドライバーに注意を促す「車線逸脱機能」も追加採用されている。しかし、ドライバーにとってはACCの付帯の方がはるかにメリットがあり、疲労軽減という点でも大きな恩恵を受ける。


さらにミリ波レーダー方式になったことで、大雨や雪などの悪天候に強いというメリットもある。赤外線は光を屈折する障害物があると、どうしても正確な計測が難しくなるのだ。
ちなみにノマドのステレオカメラ式がもっとも機能的にアドバンテージ・拡張性があるが、今のところ全車速追従機能は採用されていない(作動するのは40km/h以上の速度域)。
フロントバンパーのミリ波レーダーセンサーが悩ましい…!
こうした機能の進化はユーザーにはうれしい限りだが、今回は少々困ったことが発生しそうなのだ。ご存じの方も多いと思うが、クルマの安全装備はノーマル状態で正しく作動するように設定されている。そのため、ジムニーカスタムでは定番のリフトアップ(ローダウンも)を施すと、正しく作動しない可能性があるのだ。
例えば、カメラやセンサーの位置が3度ズレるだけで、100m先の認識範囲が縦横方向で5.4mもの差が出てしまう恐れがあると言われている。仮にクルマが併走していたら前のクルマではなく、関係のない横のクルマをセンサーが捉えることになる。縦方向に3度ズレれば、上方のまったく異なる方向を捉えることになる。
ジムニーのカスタムではリフトアップは一般的なメニューなので、2〜3インチアップすればこうしたズレが発生することは十分に考えられる。現在は機能が正常に作動しなくても車検は通るが、ジムニーカスタムショップの中には「エーミング(機能調整・校正作業)」のための機材を導入し、調整作業をユーザーに勧める店が多いようだ。
では、5型は何が問題かというと、4型まではカメラと赤外線センサーがフロントガラス上部に取り付けられていたのが、ミリ波レーダーのセンサーがフロントバンパー内に取り付けられているのである。

ジムニーカスタムでは、いわゆるショートバンパーやチューブバンパーといわれる悪路走破性向上のためのバンパーに付け替えるのが定番だ。そもそも3アングル拡大のために装着するものであり、上下幅が狭く、しかもパイプ形状のものもある。つまりセンサーをどう移植するかが問題なのである。
今回、フロントバンパーにパーキングセンサーも追加されたが、こちらは単純に移植するだけで問題ないだろう。しかし、ミリ波レーダーセンサーが位置変更のみで正常作動するかは不明だ。ジムニープロショップ「アピオ」代表の河野仁氏に聞いてみた。
「車両が来て確認するまでは、まったくわかりません。現時点で考えられるのは、別にセンサーボックスをつくって、それを弊社のバンパーに取り付けるという方法です。しかし実際にエーミングのテストを行ってみないと、正確に作動するかはわかりません」

別のジムニーショップ「マスターピース」の奥原正之代表にも聞いてみた。
「とにかくクルマがないからわかりませんが、対策を施したとしても正常に作動しないこともあるでしょう。リフトアップなどのカスタムが、ミリ波レーダーにどういう影響をもたらすかは未知数ですよ」
また車検についても、奥原さんはこんな危惧があるという。
「現在は安全装備が作動しなくても、インジケーターが点灯しなければ車検を通すことができます。昨年、車載式自己診断装置(OBD)という診断システムが車検場に導入され始めました。これは電子制御装置が正常に作動しているかを診断するシステムです。現在ジムニーはこの検査対象になっていませんが、これから対象車となった場合、ミリ波レーダーが正常に作動しないと車検が通らなくなる可能性があるわけです」
カスタム業界には知恵者が多いので、いずれはこの問題も解決されるのではないかと思うが、5型がユーザーに納車された時点でクリアされているかはわからないと奥原さんは語る。
クロカン4WDで唯一チューニングができる範囲が多く残っていたからこそ、ジムニーは魅力的だったとも言えるのだが、仮にショートバンパー装着やリフトアップができなくなればユーザーには打撃だ。また安全装置の形式の違いによって、エーミングのための機材も別々となるため、ショップにかかる経済的負担も大きい。
今回のマイチェンで、特に5速MTにACCが付いたことは喜ばしいことだが、もしカスタム後にエーミングが実施できなければACCが使えないという事態もありえるわけだ。
とりあえず業界の対応を見守るしかないが、ネット上では「泥で汚れるバンパーにセンサーを付けて大丈夫?」といった意見も上がっており、今回の仕様変更はユーザーの間でさまざまな議論を呼びそうだ。




