連載
自衛隊新戦力図鑑数百トンの物資を輸送可能
海上輸送群は、現在2種類の輸送艦を運用している。ひとつがLSV(または中型級船舶)と呼ばれているタイプで、もうひとつがLCU(または小型級船舶)だ。今回進水した「あまつそら」はLCUであり、全長約80m・基準排水量2400トンの船体に、数百トンの物資輸送能力を持っている。

船体の前方から中央にかけて、広い貨物倉(車両甲板)が設けられており、ここに車両やコンテナなどを積載する。荷物の積載・陸揚げにはクレーンなども用いるが、一番の特徴は冒頭でも述べた「ビーチング」能力だ。

港が無くても車両や物資を陸揚げできる
ビーチングとは、文字通り船をビーチ(海岸)に乗り上げること。このとき、船首から通路(ランプウェイ)を展開させることで、車両や人員を自走で上陸させることができる。また、海岸だけでなく、岸壁にランプウェイを渡すこともできる。「あまつそら」の場合、艦首が観音開きになる構造となっており、ここからランプウェイを展開する。こうした構造と、小柄な船体により、「あまつそら」は港湾施設が充分でない小さな島々にも物資を輸送することができる。

筆者は東日本大震災のとき、アメリカ軍に同行して被災地のひとつ、気仙沼大島に入った経験がある。この島は津波により主要港周辺に大きな被害を受け、船舶輸送が困難となっていたのだが、アメリカ軍はビーチング能力のある上陸艇を小さな漁港に接岸させることで、ブルドーザーなどの重機と人員を運び込んでいた。

昔は海自も持っていたビーチング輸送艦
実は、海上自衛隊も以前は「あつみ」型(基準排水量1480~1550トン)や「みうら」型(同2000トン)など、ビーチング方式の輸送艦を保有していたが、現在は、ビーチング能力のない大型輸送艦「おおすみ」型(同8900トン)を導入している。「おおすみ」型は、内部に搭載したエアクッション艇(LCAC)で物資を陸揚げする。

単純な揚陸能力で言えば、ビーチング方式よりもエアクッション艇のほうが優れている。ビーチングが浅瀬や平坦な海岸に限定されるのに対して、エアクッション艇はより多くの地形に対応できるし、揚陸にかかる時間もはるかに少なく手軽だ。また、ビーチング方式の船は特殊な船体構造のため外洋航行能力が悪く、速度も低い。「では、おおすみ型の数を増やせばいいのでは?」と思うかもしれないが、艦艇乗員のなり手不足が深刻な海上自衛隊には難しいのが現実だ。

島嶼防衛を支える輸送力の増強が求められるなかで、「あまつそら」のような中・小型の輸送艦を整備する海上輸送群は数の少ない大型輸送艦で担いきれない役割を補完する存在となるだろう。海上輸送群では、今後より機動性の高い「機動舟艇」の導入も予定しており、多様な任務に柔軟に対応できるこれら艦艇は島嶼防衛を支える柱となることが期待されている。「あまつそら」は、来年3月の就役を予定している。