1972年式マツダ・シャンテLX。

サブロクとの愛称で呼ばれる360cc時代の軽自動車たち。スバル360やホンダN360、同ライフなどが今では主役なイメージだが、60年代から70年代にかけては各社がサブロク軽自動車を生産していた。残存数は少なくなったがスズキならフロンテ、ダイハツならフェロー、三菱ならミニカ、そしてマツダならキャロル、そしてシャンテなどが挙げられる。ところが現在、旧車イベントへ行っても見かけるのはスバルとホンダ系が圧倒的多数。他社のモデルに遭遇することは非常に稀になってしまった。

独立したトランクを備える特徴的なリヤスタイル。

ところが10月19日に埼玉県川島町で開催された「第5回CAR FESTIVAL IN KAWAJIMA」の会場には、ダイハツこそなかったもののマツダや三菱、スズキのサブロクたちが数台展示されていた。筆者自身ミニカスキッパーを所有しているので、こうしてマイナーなサブロクを目にするととても喜ばしい気分になる。マイナー車オーナーならお分かりいただけるのではないだろうか。

ヘッドライトはハロゲンに変更している。

なかでも今回紹介するマツダ・シャンテはなかなか巡り会えるものではない。リビエラブルーのボディカラーがよく似合っているシャンテに近づくと、オーナーと友人から声をかけてもらえた。というのも友人というのが以前に何度か取材させていただいたスバルR-2やレックス、さらには同じシャンテを所有する関口さんという方。その関口さんと同じ職場で働く同僚でもあり、旧モンキーやダックス、シャリィなど古い4MINIと呼ばれる原付を楽しまれている山下誠さんがオーナーだった。

脚の長いフェンダーミラーは視認性に優れる。

友人の関口さんも自らシャンテを楽しまれているが、なかなか他に情報がない。だったら自ら探せとばかり、近隣にシャンテがあればオーナーに話を聞き出すことを繰り返している。中には「譲ってほしい」と声をかけ続けてきた個体もあり、めでたく譲り受けられるとなると友人に「乗らない?」と仲間を増やしているのだ。そんな縁で山下さんにもシャンテの縁談話が飛び込んできたというわけだ。

エンジンは2ストローク2気筒で入手時から調子が良かった。

話を聞けば水冷2ストローク2気筒のエンジンこそ調子が良いものの長年車検を受けておらず、安心して乗ることができるコンディションではないとのこと。だが原付でメンテナンスやカスタムに慣れ親しんできた山下さんだし、友人の関口さんは整備のプロでもあるので問題ないだとうと判断。さらには「今となってはマイナー車ですし、ボディカラーがお気に入りです」と譲り受けることにされたのだ。

ステアリングやシフトノブを変更してカスタム感を与えた室内。

とはいえ問題なのはマイナー車ゆえに補修部品が少ないこと。このシャンテでも問題になったそうだが、長年乗っていなかったためブレーキはオーバーホールしなければならない。この時代の多くのサブロクは4輪ドラムブレーキを採用している。ドラム内でホイールシリンダーと呼ばれる部品が油圧でブレーキシューを押し出し制動力を得るのだが、このホイールシリンダーは内部のピストンが傷んでいるケースが多い。さらにはピストンに付くゴムのカップやピストンを覆うようにするゴム製のブーツなどは消耗部品。だが、希少車だとこうした消耗品を探すのにも苦労することが多い。

純正だと装備されないためタコメーターを追加している。

そのため希少車を路上復帰させるのであれば、知り合いや友人に同じような車種を所有する人がいると安心できる。部品や整備の情報が得られるうえに、自分で作業をしている人ならメンテナンスのノウハウも教えてもらうことができる。もちろん山下さんも自分でブレーキをオーバーホールしている。さらにエンジンのキャブレターを調整したりして、これまた車検を自ら取得されている。

ダッシュボードの棚を利用してオーディオやカーナビをセット。

ただ、車検を取得して路上復帰させるだけで終わらなかった。自分好みのインテリアにしようとカスタムを開始するのだ。とはいえ50年ほど前にクルマであり、さらには希少車なのだから専用のカスタムパーツなんてあるわけもない。汎用品を使ってコツコツとカスタムを進めてきた。現在はまだ完成形ではなく、まだまだ進化を続けるかと思われる。というのも山下さんがシャンテを手に入れたのは2024年のこと。まだ1年ほどしか経っていないのだ。それでここまで仕上げたのだから、なんとも早業と言えるだろう。

ルーフから吊り下げた懐かしのカスタムミラー。

カスタムを進めたインテリアとは裏腹に外装やエンジン関係などはほぼノーマルのまま。現在は車高もノーマルなのでローダウンすることも考えられるが、ホイールには希少なメッキキャップがキレイな状態で装着されている。残っていることが少ないホイールキャップなので、せっかくなら外観はノーマルがいいとも考えているそうで現状を維持するように思われた1台だった。

一部が破れているものの程度良好のフロント・ハイバックシート。