中国は並みのPVパネルに投資した。日本は効率向上を狙った

25年前、日本製PVパネルは世界シェア50%だった。京セラやシャープなどが先行しメイド・イン・ジャパンは市場で人気を得ていた。そして、当然ながら次の展開は性能向上だった。モノ(単結晶)シリコン型PVパネルはエネルギー変換効率20〜24%で長寿命だが高コスト。ポリ(多結晶)シリコン型PVパネルは同16〜20%で寿命もやや短いが低コスト。日本のメーカーはこの両方を製品化していたので、両方とも変換効率向上を狙った。
日本の狭小住宅の屋根には変換効率の高いモノシリコンが適していたが、大規模に設置する場合は安さでポリシリコンが好まれる。一方、中国勢は安価なポリシリコン型が主力だった。背景事情はいろいろあるが、PVパネルの需要が世界的に盛り上がる過程では、中国製の安さと大量生産を背景にした納期の速さが歓迎された。中国製PVパネルは「日本製より4割、欧州製より5割、米国製より6割安い」と言われた。
PVPGの効率を左右するのは日照時間と太陽光の強さだ。PVパネルの発電能力に対し、1年を通して「どれくらいの発電量が可能か」という指標が設備可動率であり、日本の全国平均は15%程度に過ぎない。これは日本の地理的、気候条件的なハンディキャップであり、人智ではどうすることもできない。日本のPVパネルメーカーが変換効率を追った理由の一端はここにある。
しかし中国は違った。大量生産しコストを下げ、PVパネル設置枚数を増やせば発電量は増えるから「並の性能」のPVパネル製造に投資した。のちに中国政府はLIBでもまったく同じ手を使った。「どんどん作れ」と補助金をばら撒き、業界を生産量競争に駆り立てる。過剰生産から「内巻(ネイジュアン=内輪もめ)」が起き、値引き競争になっても構わない。体力のある企業は生き残る。
PVパネルの材料となるポリシリコンと、それを使ったウェハー、発電セル、セルを集めたモジュールの生産は、中国が世界の80%程度を占める。よく見かけるPVパネル、シリコン系セルを並べてモジュール化したものだが、そのモジュール出荷能力を調べると、2021年から2024年までの4年間で中国は約300%増である。ポリシリコンの生産はほぼ中国が独占し、中国以外は「設備は所有していても稼働させると赤字」という例もあるくらい、中国一人勝ちである。
とは言え、まだ日本企業がアセンブリーしたPVパネルもある。韓国製もある。すべての製品がメイド・イン・チャイナではない。しかし、PVパネルのコア材料であるポリシリコンはほぼすべて中国産になってしまった。
これは筆者の勝手な推測だが、中国政府が「性能は劣るが燃えにくくて安い」LFP(リン酸鉄)型のLIBを推奨した考え方は、PVパネルで安価なポリシリコン型を推したことと同じではないか。もともとはアメリカ産だったLFP型(このシリーズの「2」参照)は、いまや中国の特産品である。
日本がPVパネル開発に取り組んだ動機は、至極まともだった。1973年に第1次石油危機(オイルショック)が起き、期せずして世界は石油依存度の高さを知る。日本は1974年にサンシャイン計画を立ち上げ、太陽光や地熱、石炭液化、水素などのエネルギー分野に18年間で4400億円の国家予算が充てられた。企業も関連の研究開発と投資を行ない、このなかでPVパネル開発が加速された。
その結果が1990年代から2000年代にかけての日本製PVパネル台頭だったが、2000年代終盤に中国政府がこの分野への補助金投入を加速し、日本向けの輸出が活発になる。2010年代に入ると、中国製品の輸出攻勢に負けた日本勢の撤退が始まった。
日本製LIB没落の転換点は2016年

この図式がLIBと似ている。LIBは1991年にソニーが実用化し、1992年には量産を軌道に乗せた。そこからしばらくは日本の独占状態だった。当時、日本はLIB関連特許の約80%を押さえ、残り20%を欧米の化学・素材メーカー多数が分け合っていた。正極材は独・BASF、ニッケル/マンガン/コバルト系材料はベルギーのユミコア(Umicore)、軍用や宇宙用など特殊セル構造は仏・SAFTが、それぞれ特許面で強かった。中国と韓国はほとんど特許を持っていなかった。
韓国でのLIBは1999年にLG化学(現在のLG Energy Solution=LGES)が最初の量産を始めた。翌年、前出のユミコアが忠清南道天安にLIB材料の研究施設を置いたことが「韓国のLIB産業を飛躍させた」と言われている。同じ年にサムスンSDIもLIB量産ラインを完成させた。
中国では、1998年に陳立泉氏らの研究チームがスタンリー・ウィッティンガム氏、ジョン・B・グッドイナフ氏、吉野 彰氏の3氏がそれぞれ1970年代から80年代にかけて発表していた理論をベースにLIBを開発し、1998年に試験生産ラインを敷き、製品化に成功した。
車載用LIBのシェアは2015年が日本40.2%、中国31.5%、韓国18.5%だったが、2020年には中国37.4%。韓国韓国36.1%、日本21.2%と逆転され、その後は日本勢ジリ貧である。韓国は日本のLIB製造技術をコピーし、中国は韓国式と日本式の両方をコピーし、先生である日本を追い越した。

日本製LIB没落の転換点は2016年だろう。2015年3月に中国工業情報化省は突然「車載LIB業界の健全な発展を指導し規範化する」目的で規範条件を公表した。これを満たしたLIBメーカー製のLIBを搭載する車両でなければNEV(新エネルギー車)補助金を交付しないという規則を敷いた。そして翌年、「これらの会社の電池なら補助金交付対象にする」というホワイトリストを公表した。そこには57社の企業名があったが、すべて中国企業だった。
中国政府は電池国産化を奨励した。ホワイトリストからは韓国企業も除外された。このころ勢いをつけ始めていた韓国勢は排除し、世界シェアでトップの日系勢も、当然排除する。このホワイトリスト公表の前から中国政府は、LIB領域への補助金交付額を増やしている。
韓国の3大LIBメーカーはLG(旧金星)、サムスン(三星)、SK(旧鮮京)ともに財閥(大企業グループ)であり、LIB需要家である現代自動車も財閥である。現在でも財閥は韓国政府の産業政策決定に対し大きな影響力を持っており、電子機器や半導体、自動車、化学、流通など多分野を担う立場として、良い意味での政府・行政との連携がある。2014年ごろから韓国政府はLIBを戦略物資として扱い、LIB供給側と需要側(ヒョンデ自動車)の両方を支援した。
中国も韓国も、LIBの「製造設備」拡充のために補助金を交付した。このシリーズの「1」で書いたように、欧州進出した韓国のLIBメーカーは事業を軌道に乗せるまで何年もかかった。韓国国内だけでは、車載LIB需要は高が知れている。ヒョンデ・キア・グループ向けがすべてだ。LIB事業を拡大し規模の利益を得るには海外進出が必須であり、だから欧州に出た。これを陰で支えたのも補助金である。
ペロブスカイト型PVパネルも同じ道を歩むのでは……

話題をPVパネルに戻す。
日本期待のペロブスカイト型PVパネルは、薄型で曲げることができる。現在の結晶シリコン型に比べ設置場所の自由度が格段に高い、しかし、中国が量産で先行している。発明は桐蔭横浜大学の宮坂力特任教授だったが、2009年に基礎的な特許が申請・取得されたのは日本国内だけだった。そのため中国の大正微納科技は江蘇省に生産ラインを敷き、2022年から量産を始めている。中国では日本式ペロブスカイト型PVパネルは特許を取得していなかったので、特許侵害には当たらない。
これは個人的な推測だが、おそらく日本のペロブスカイト型PVパネルはシリコン結晶型PVパネルと同様、中国のお家芸である「需要を超えた過剰生産」に負けるだろう。住宅やビル建設の企業は「安さ」が最優先の購入条件であり、国や自治体の入札制度はさらに徹底して「安ければいい」だ。「日本製を買いましょう」など通用しない。
日本製のペロブスカイトPVパネルに補助金を出すか、中国製に関税をかけるか、あるいは米国のIRA(インフレ抑制法)が中国製BEV(バッテリー電気自動車)とLIBを差別したように事実上の「輸入禁止ムード」にするしか、中国製品への対抗策はない。日本にこれができるだろうか。
自治体の競争入札では風力発電風車も「安さ」しか見なかった(おそらく現在も)。後で故障しようが修理不可能になろうが関係ない。「ハコもの行政」の極みである。作ればいい。実効は問わない。この考え方に則れば、市庁舎や「何とか会館」の外壁や窓に貼るペロブスカイト型PVパネルは、ほぼ間違いなく中国製になる。
国立環境研究所が「太陽光発電で里山が消える」とPVPG施設のための乱開発に警鐘を鳴らしたのは2021年3月だった。当時すでに自然保護区、鳥獣保護区、都道府県立自然公園内、さらには国立公園内にもPVパネルが並ぶ民間のPVPG施設があり「このまま何も規制せずに放置するのは危険」と報告されていたが、ほとんど何も対策されていない。
筆者が取材した業者は「土地さえ用意すればお日様がお金を稼がせてくれる」「必要だからPVパネルを置ける場所を探している」と言っていたが、業者はべつに違法なことをしているわけではない。上記の保護区や自然公園内でも開発許可が出てしまうことが問題なのだ。そして現在、日本で新規に設置されるPVパネルのコア材料はほぼすべて中国製であり、パネルそのものも住宅用以外では中国製が相当なシェアを占める。
研究開発でも日本は中国に先を越されつつある。人口14億人+戸籍のない人民が数億人いる。大学進学率と中国独自の農村戸籍問題で割り引いた数字を挙げても、研究者の数は日本の10倍以上だ。これに996という係数(朝9時から夜9時まで週に6日働く)を掛けると、彼我の差はどうにも手が着けられない数字になる。
PVパネルも、発電風車も、定置用LIBも中国製。日本が再エネ普及に投じるお金は、かなりの比率で中国が吸い上げる。これが現実だ。

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