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自衛隊新戦力図鑑

「極地」を想定した独特の構造

カナダ海軍の極地哨戒艦(Arctic and Offshore Patrol Vessel:AOPV)「マックス・バーネイズ」は、2021年に1番艦が就役したハリー・デウォルフ級の3番艦で、2024年4月3日に就役したばかりの新鋭艦。全長103.6m、全幅19m、喫水約7m、満載排水量は6,660トンを誇る。機関にはディーゼル・エレクトリック方式を採用し、最大速力は17ノット(約31.5km/h)である。

ハリー・デウォルフ級極地哨戒艦についてのカナダ軍の解説イラスト(カナダ軍作成)

この「マックス・バーネイズ」は、単なる哨戒艦ではなく「極地」哨戒艦であり、その名の通り氷に囲まれた北極海域での活動を念頭に置いて建造されている。そのため、氷海においても3ノット(約5.6km/h)で継続的に航行することが可能である。また、もし氷に囲まれてしまった場合でも、船体の左右に配置されたタンクに海水を注排水することで船体を揺らし、氷を砕いて脱出を図ることができるという。

「マックス・バーネイズ」の艦橋。海上自衛隊の艦艇に比べると広々としており、しかも航海時にはワッチを含め4名で業務をこなすという(写真/稲葉義泰)

船体構造も当然極地運用を前提としており、船体は氷海での航行を行なうために強化されているほか、前方のデッキは露天ではなく閉鎖式となっており、機関区画と作業区画を極寒・荒天から保護するよう設計されいる。艦尾には20トンおよび3トン級クレーン、さらに車両や小型舟艇を搭載するための多用途区画を備え、全地形対応車両(ATV)、スノーモービル、雪上車、4WDトラックを搭載することができる。また、8.5m級複合救助艇2隻や12m汎用舟艇など運用し、補給コンテナ、海洋調査キット、災害支援資材の積載にも対応している。艦載機としては、CH-148「サイクロン」 ヘリコプターを格納庫内に収容することが出来るほか、艦載型の無人航空機(UAV)を運用することも可能である。

艦尾の多目的区画に置かれた上陸用舟艇。北極海域での活動には欠かせないという(写真/稲葉義泰)

また、哨戒艦ながらも戦闘管理システムとしてロッキード・マーティン・カナダ製のCMS 330を搭載しているほか、戦術データリンクであるLink16を装備しているのも特徴的だ。一方で、武装はBAEシステムズ製25mm Mk 38 Mod 2機関砲を 1門、そして12.7mm 機関銃を2挺装備しているのみで、こちらは哨戒艦としては標準的なレベルだ。

「マックス・バーネイズ」の医療区画(撮影/稲葉義泰)

アジア太平洋地域でのプレゼンスを高めるカナダ

今回、「マックス・バーネイズ」は8月に母港であるカナダ南西部のエスカイモルト海軍基地を出港、約3ヵ月間におよぶ航海を経て日本へとたどり着いた。横須賀への寄港直前には、日米主導の共同演習である「ANNUALEX 25」や、日加間の二国間演習である「KAEDEX」に参加、さらに東シナ海においては国連安全保障理事会決議に違反して行なわれている北朝鮮船舶の違法な瀬取り行為(船舶同士の貨物積み替え行為)を監視する国際的な活動にも従事した。

取材陣に同艦の役割について説明する「マックス・バーネイズ」艦長ナディア・シールズ中佐(写真/稲葉義泰)

近年、カナダはとくに海軍艦艇の派遣を通じたインド太平洋地域でのプレゼンス向上を図っており、「オペレーション・ホライズン」と呼ばれるインド太平洋地域での作戦行動において、継続的に年間3隻の艦艇をこの地域に毎年展開している。それと同時に、北極海航路の登場やロシアによるウクライナ侵攻を受けて、カナダはここ数年北極海域の平和及び安定にも一層力を入れており、今回寄港した「マックス・バーネイズ」はまさにこれら地域を重視するカナダ海軍の姿勢の表れともいえるだろう。

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