チョン点きでは成り立たない「合図の時間」とは

ウィンカーの使い方は決められているが、実際には正しく使われていない例も多い。

街中のクルマを眺めていると、ウインカーの使われ方にかなりの差があると感じる場面も少なくない。とくに、進路変更の直前にレバーをほんの一瞬だけ動かす「チョン点き」は、合図が出ている時間が極端に短く、周囲から見ると意図が読み取りにくい合図である。

こうした短い合図が当たり前になっていると、後続車が速度調整や車間調整をおこなうための時間が確保されにくくなることは言うまでもない。

 結果として、合図が出ているにもかかわらず周囲の受け止め方にばらつきが生じ、ヒヤリとする場面が増える構造が生まれるというわけだ。

交差点を横断している車の写真
信号待ちで止まってからウィンカーを出すのも実は正しくない使われ方だ。

そもそも、ウインカーは法令上「他の交通に対する明確な意思表示」として位置づけられている。

道路交通法施行令では、進路変更をおこなうときはその行為をしようとする少し前、実務上はおおむね3秒程度前から合図を出す運用が前提となっており、右左折では交差点や曲がる地点の30メートル手前から点滅を開始しなければならない。

したがって、一瞬だけ点滅してすぐ消えてしまう「チョン点き」は、進路変更の3秒前という時間感覚から見ても、30メートル手前からの連続点滅という前提から見ても、いずれにも適合しない合図といえる。

くわえて、合図は行為が終わるまで継続することが求められているため、途中で自ら消してしまう「チョン点き」は、本来の趣旨と真逆の使い方になってしまう。

さらに、ドライバー側の感覚としては「一応ウインカーは出した」という意識になりやすい。

しかし、周囲のクルマから見ると、その一瞬の点滅が進路変更の予告なのか、操作ミスなのか判断しづらい。その結果、後続車がブレーキやステアリング操作に移るタイミングが遅れ、追突や側面接触のリスクを高める要因となるのだ。

最近の車にはウインカーレバーを軽く倒すと3回点滅するという機能がついている。

そして、点滅回数に関わる装備として、近年普及している「ワンタッチウインカー」が関係してくる。この装備はレバーを軽く動かすだけで数回点滅するしくみであり、操作負担を抑える目的で普及した経緯がある。

各メーカーが2010年代ごろから採用を始め、レバーを軽く動かすだけで3〜5回程度点滅する仕様となっている。これにより、進路変更の合図としてある程度の時間幅を確保できるよう配慮しているのだ。

しかし、メーカーの取扱説明書には、ワンタッチウインカーはあくまで操作負担を軽減するための補助機能と説明している。

実際、ワンタッチウインカーはレバーを軽く動かすと一定回数だけ点滅し、より長く合図が必要な場面では、レバーをしっかり倒して通常のウインカー操作をおこなうことが前提になっている。

渋滞の写真
前後左右の状況を確認しながら、正しく操作を行うのが基本だ。

つまり、ワンタッチウインカーの作動回数は、道路交通法施行令が示す進路変更前の余裕時間や、右左折の30メートル手前という距離を必ずしも保証するものではないというわけだ。

さらに、合図が自動で止まってしまっても、進路変更がまだ完了していないのであれば、ドライバー側がレバーを倒し直して点滅を継続させる必要があるのである。

にもかかわらず、ワンタッチの3回点滅や5回点滅だけで進路変更に入り、合図が消えたあとに車線をまたぐような使い方が定着してしまうと、実際には合図の時間幅が不足した状態での進路変更が増えることになる。

結果として、「チョン点き」と同様に、周囲のクルマから見たときの予告時間が短くなり、事故回避の余地を狭める事態を招きかねない。

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このように「チョン点き」は道路交通法施行令の基準に適合しないだけでなく、合図本来の目的である意思伝達の役割も十分に果たさない。

同様に、ワンタッチウインカーも補助装備としては有用であるが、それだけに頼った短い合図では、安全成立に必要な時間幅を確保できない場面が少なくない。

結局のところ、進路変更や右左折の際には、早めにウインカーを出し、行為が終わるまで連続して点滅させるという基本に立ち返ることがもっとも重要である。

便利な装備を備えた現代のクルマであっても、ドライバー自身が合図の意味と役割を理解し、十分な長さのウインカーで周囲に意思を伝える姿勢を持つことが、安全な交通環境を支えるのだ。