BEVならこのサイズがいい。ヒョンデ・インスタークロスで往復230kmのドライブに出かけてみた

ちょうどいいサイズ、充分な航続距離

BEVの販売が踊り場を迎えている。一方、充電インフラは着々と整備が進んできて、90kWや150kWの高出力の急速充電器もだいぶ増えてきた。BEV側の充電受入能力も高まっていて、数年前よりずっとBEVを日常的に運用しやすくなっている。いわゆるアーリーアダプターにBEVが行き渡り、自動車メーカーにとっては、いよいよアーリーマジョリティへと販売を拡大したいという局面を迎えているのに……というところだろう。

そんななかに日本市場にヒョンデが投入したBEVがインスターである。

BEVは、まずはシティコミューターからがいいと思っている。100kWhの巨大で重いバッテリーを積んで、もの凄い加速をするモンスターのようなBEVの存在を否定はしないが、まずは小さいクルマからでしょ。2022年にデビューし、その年の日本カー・オブ・ザ・イヤーでイヤーカーに輝いた日産サクラ／三菱eKクロスEVは、軽自動車のBEVとしてスマッシュヒットとなった。

でも、軽自動車サイズで一充電走行距離が180kmというと、一台ですべての用途をまかなうのは難しいと考える人は多い。”もうちょっと大きくて、もうちょっと航続距離が長くて、デザインもかわいい、あるいは個性的なルックスがいい”というニーズは間違いなくある。そこに応えたのがヒョンデだったわけだ。ついでに”値段もそこそこ”だったら、なおヨシ、なのである。

で、ヒョンデ・インスター、しかもアウトドアテイストを振りかけたインスタークロスでちょっとしたドライブに出かけてみた。

クロス専用としてフロント／リヤバンパー、サイドシルプロテクター、ルーフバスケットを身につけたインスターは、なかなかキマっている。4WDにしたわけでも、最低地上高を上げたわけでもないけれど、気分はもうアウトドアだ。

横浜のみなとみらい地区にあるヒョンデモビリティジャパンでインスタークロスを受け取り、房総半島南端の舘山まで片道100km超のちょっとしたドライブに出かけた。

インスタークロスのボディサイズは
全長×全幅×全高：3830×1610×1715mm　ホイールベース：2580mm

全高が高いのは、ルーフの上にバスケットを載せているから。これがなければ1615mmだ。全幅1610mmというのは、街中でも狭い道でスイスイ走れる。昨今、なんとなく全幅も1800mmくらいまでなら……となっているが、従来の5ナンバーサイズ（全幅1700mm以下、カタログ上では1695mm）がやっぱり使いやすい。さらにそこから85mmも狭いのだから、ほんと、取り回しがラク。全幅が狭いといっても、軽BEVの全幅1480mm（カタログ上では1475mm）からすれば、余裕のサイズで、横方向の室内寸法も狭苦しくない。

電費はどう？

受け取った時点で、バッテリー残量は98%で381km航続可能と表示されていた。

インスターのドライブモードは、ECO／NORMAL／SPORT／SNOWの4つ。最初はECOで走り出した。ECOでもモタモタすることはない。首都高からアクアラインを通って千葉県側へ渡り、一路南へ。電費計は、もっとも良い時で9km/kWhを超えていた。

インスタークロスのモード電費はWLTCモード：141Wh/kmである。これは、1km走るのに、141Whの電力を使うということ。単位を変えると7.09km/kWhとなる。つまり、1kWhで約7.1km走るということだ。

今回、トータルで234km走って、電費は7.1km/kWhだった。モード電費通りの電費をマークしたわけだ。

この電費を少し解説すると……いまの電気料金は、東京電力のスタンダードLプランの場合、36.4円／kWh（121kWh～300kWhの場合）だから（もちろん、地域によって、電力会社によって異なるが）
36.4÷7.1=5.127
つまり、1km走るのに5.1円かかるということだ。

つまり、ガソリン車（HEVも）でレギュラーガソリン価格が159円／Lだったら、31.2km/Lの燃費ということだ。急速充電を可能な限り使わないで運用できれば、電気代はガソリン代よりかなり安く抑えることができる。

舘山で美味しいイタリアンを食べて、横浜まで引き返す。ヒョンデのスタッフからは、「帰りにぜひ充電もしてみてください」と言われていたのだが、往復234kmではまったく充電の必要性は感じない（航続可能距離は100kmをラクに超えていた）。ちなみに、インスターの急速充電最大受入能力は120kWだ。急速充電の能力も充分以上である。

買い物や通勤だけなら、軽BEVでもいい。でも、今回のような週末（じゃなかったけど）のちょっとしたドライブ（片道100km超）をするなら、インスターがお勧めだ。お勧めする理由のひとつは、”軽さ”だ。

インスタークロスの車両重量は1410kg。エンジン車と比べれば軽くはないが、BEVとしては比較的軽い。たとえばスズキeビターラ（2WD）は、1790kg、リーフは1880kgだ。今後BEVにも車両重量0.5トンごとに重量税を課すことになりそうだし、なにより、やはりクルマにとって”軽さ”は極めて重要だ。

どんなに強力なブレーキシステムがあって、減速エネルギーを回生できるとしても、軽さに勝る運動性能アップの策はない。インスタークロスに乗って、それをあらためて確認した。

ちなみに、ヒョンデ・インスターのグレード構成は次の通りだ。

Casual：284万9000円（42kWh　航続距離427km）
Voyage：335万5000円（49kWh　航続距離477km）
Lounge：357万5000円（49kWh　航続距離458km）
Cross：372万9000円（49kWh　航続距離393km）

アウトドア志向がほぼない筆者としては、選ぶならVoyageかLoungeだ。この価格でこの航続距離、この装備と走りは、コストパフォーマンスがとても高い。国のCVE補助金を考えると、300万円を大きく超えない金額で手に入れられる。気楽に付き合えるBEVを探している人は、ショッピングリストに載せて検討すべきクルマだとお勧めできる。

ヒョンデ・インスターCross
全長×全幅×全高：3830×1610×1715mm
ホイールベース：2580mm
車両重量：1410kg
乗車定員：4名
サスペンション：Fマクファーソン式／Rトーションビーム式
駆動用モーター
EM08型交流同期モーター
最高出力：85kW（115ps）/5600-13000rpm
最大トルク：147Nm/0-5400rpm
駆動用バッテリー
総電圧：310V
総電力量：49kWh


WLTCモード：141Wh/km
 市街地モード 115Wh/km
 郊外モード 127Wh/km
 高速道路モード 161Wh/km
一充電走行距離：393km

車両本体価格：372万9000円